障害年金の保険料納付要件とは — 未納があると受け取れない?3分の2要件と直近1年の特例

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「未納があるから、どうせ無理だと思っていた」

障害年金の相談で、いちばん多い取り下げ方がこれです。症状の重さでも、初診日の証明でもなく、保険料の記憶で諦めます。

しかし実務でよく起きているのは、その逆の展開です。年金事務所で記録を出してもらったら、未納だと思い込んでいた期間が学生納付特例でした。失業中に市役所で出した免除申請が、そのまま通っていました。本人の主観では「払っていない」でも、記録上は未納ではない——これが本当によくあります。

この記事では、納付要件のしくみを、実際につまずく順番どおりに解説します。読み終えたときにやることは一つだけです。記録を取りに行きます。

要件は2つ。どちらか片方を満たせばいい

障害年金の保険料納付要件は2本立てで、どちらかを満たせば足ります。判定の基準日はどちらも初診日の前日です。

① 3分の2要件(原則) 初診日がある月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料を納めた期間と免除された期間の合計が、3分の2以上あること。

② 直近1年要件(特例) 初診日において65歳未満で、初診日がある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと。

過去に未納がどれだけあっても、直近1年に未納がなければ②で通ります。 逆に、直近1年に1か月でも未納があれば②は使えず、①で勝負することになります。多くの人が救われるのは②のほうです。

「前々月まで」はなぜか

国民年金保険料の納付期限は翌月末日にあります。初診日がある月の前月分は、初診日の時点でまだ納付期限が来ていません。だから判定の対象から外れます。温情ではなく、制度設計上の技術的な理由です。

3分の2は「以上」なので、1か月足りないだけで落ちる

被保険者期間が350月なら、350×2/3=233.33…なので234月以上が必要になります。233月では足りません。ここに情状酌量はありません。

特例は令和18年3月末まで、10年延長された

直近1年要件はもともと期限付きの特例で、長らく「初診日が令和8年4月1日前にあるとき」とされてきました。これが令和7年の年金制度改正で、令和18年3月末日まで、10年延長されました

問題は、インターネット上の解説記事や事務所サイトに「令和8年3月で終わります」という古い記述が大量に残っていることです。この古い情報を読んで諦めてしまう人が、これから何年も出続けます。 検索して出てきたページの更新日を必ず見てください。

延長の理由も公開されています。審議会の資料では、複数回の延長を経て長く運用されてきた要件であり、これを前提に考えている人も少なくないため、引き続き10年延長してはどうか、と提案されています。

いちばん残酷な一行 ——「初診日の前日」

この制度で最も重い一行が、判定の基準日が初診日の前日だという点です。

意味するところはこうなります。初診日より後に納めたお金は、どれだけ納めても納付要件の判定には入りません。

現場で実際に起きているのはこういう場面です。診断を受けて、障害年金という制度があると知ります。年金事務所に行きます。窓口で未納を指摘されます。その場で数十万円をまとめて納めます。——だが判定は初診日の前日で固定されているので、この数十万円は納付要件の判定には一切効きません。

免除の遡及申請も同じです。 免除は申請時点から2年1か月前まで遡って出せるが、初診日を過ぎてから初診日前の期間について免除申請をしても、納付要件上の「免除期間」にはなりません。追納も同様で、追納できるのは承認月の前10年以内の免除等期間だが、追納したからといって納付要件の判定が変わることはありません。

なぜこうなっているのか。事故や発病のあとで慌てて納めることを認めてしまうと、保険としての意味がなくなるからです。後出しじゃんけんを認めない、という一行だと考えるとわかりやすいです。

だからこそ、逆の結論が出てきます。保険料が払えないときは、未納のまま放置せず、免除か猶予の申請を出しておきます。 これが唯一の、しかも極めて有効な事前防御になります。免除なら、納付要件の判定では未納になりません。

そして怖いのは、この防御が効くのはまだ発病していない今だけだということです。体調を崩して払えなくなった時期こそ、免除申請を出しておく価値が最も高いです。

実例: 記録を出したら、話が2回ひっくり返った

具体例で通しておきます。30代前半、うつ病。20代の前半にフリーターをしていた時期があり、その頃の国民年金はほとんど払っていないという記憶がありました。「未納だらけだから、自分は対象外だ」と3年ほど請求を見送っていました。

年金事務所で被保険者記録照会回答票を出してもらって、話が一度ひっくり返ります。フリーター時代の2年間は、市役所で出した全額免除が通っていました。 本人はまったく覚えていませんでした。免除は未納ではないので、3分の2の分子に入ります。この時点で3分の2要件を満たしていました。

ところが、そこでもう一度ひっくり返ります。初診日の候補が2つあったからです。動悸と不眠で内科にかかった年と、その2年後に心療内科にかかった年。当初は心療内科を初診日だと思っていたが、正しくは内科のほうになる可能性が高かったです。そして内科の年で判定し直すと、判定期間が2年ぶん手前にずれて、3分の2の計算がぎりぎりになりました

このケースは、直近1年要件のほうで最終的に通っています。内科にかかった年の前々月までの1年間に未納がなかったからです。要件が2本立てになっている意味は、こういう場面で出ます。

この話には教訓が3つあります。記憶は当てになりません。初診日が動けば判定も動きます。そして要件は2本あるので、片方で駄目でももう片方を見ます。 この3つを窓口で一度に確認してしまうのが、いちばん早いです。

免除・猶予・学生納付特例は「未納」ではない

納付要件の判定で、納付済みと同じ側にカウントされるものを並べておきます。

このどれかに当てはまる期間は、未納ではありません。記憶ではなく記録で確かめてほしいのは、まさにここです。

一部免除だけは、二重の罠がある

注意が必要なのは一部免除(4分の3免除・半額免除・4分の1免除)です。

免除されなかった残りの保険料を納めていないと、その月は未納扱いになります。 「免除の承認をもらったから大丈夫」と思い込んでいると、記録上は未納の列がずらりと並びます。

しかも詰み方が徹底しています。減額分を納めていない期間は、後から追納することもできません。承認を受けたのに、納めなかったせいで、未納として固定されます。一部免除は、承認された瞬間ではなく、減額後の保険料を納めた瞬間に効力が完成する制度だと理解しておきます。

学生納付特例と猶予の性質

学生納付特例と納付猶予は、受給資格期間にも納付要件にもカウントされるが、老齢基礎年金の額には反映されません。「未納ではないが年金は増えない」という中間状態にあります。

老後のことを考えれば追納したほうがいいが、障害年金の文脈では、この中間状態でも十分に価値があります。学生時代に親が学生納付特例を出していたことを本人が知らないまま「未納だらけだ」と思い込んでいる、というのは実際によくあるケースです。

産前産後免除は少し得

産前産後免除は、出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間(多胎妊娠は3か月前から6か月間)が対象で、この期間は「保険料を納付したもの」として扱われます。老齢基礎年金の額にも反映される点で、他の免除より強いです。出産予定日の6か月前から届出できます。

追納は、老後には効く。障害年金の入口には効かない

ここを混同する人が多いので、分けて整理しておきます。

追納は、免除や猶予を受けた期間の保険料を、あとから納める制度です。承認された月の前10年以内の免除等期間について納められます。翌年度から起算して3年度目以降は加算額が上乗せされ、原則として古い期間から納めることになります。老齢基礎年金を受給できる人は追納できません。一部免除の期間は、減額分が納付されていないと追納そのものができません。

追納には確かな意味があります。老齢基礎年金の額が増えます。 学生納付特例や猶予の期間は、そのままでは年金額に反映されないからです。

しかし、障害年金の納付要件の判定には、追納は一切影響しません。 判定は初診日の前日時点のスナップショットで固定されていて、そのあと何をしてもその写真は書き換わりません。

つまりこういうことになります。免除・猶予の申請は「入口を守る」ための行動、追納は「老後の額を増やす」ための行動。 目的がまったく別なので、優先順位も別に考えます。体調に不安があって障害年金の可能性を考えているなら、優先すべきは追納ではなく、いま払えない期間の免除申請のほうです。

60歳以上65歳未満で初診日を迎えた場合

見落とされやすい論点をひとつ。60歳以上65歳未満の期間は、任意加入していなければ強制被保険者ではないため、被保険者期間に含まれません。

この場合、直近1年要件の適用対象になりません。判定は「初診日がある月の前々月以前における直近の被保険者期間」を使って行います。定年後に発症した人が、若い頃の記録で判定される、という形になります。ここは自分で計算しようとせず、必ず窓口で確認してください。

第3号だったはずの期間が、未納に変わることがある

見落とされやすいのが第3号被保険者の記録です。

配偶者が退職した、あるいは本人の収入が増えた——それによって第3号被保険者の資格を失っているのに、届出をしないまま記録上は3号のままになっている期間があります。いわゆる3号不整合と呼ばれるものです。

これの何が怖いか。記録訂正で1号に変わると、その期間が一気に未納として顕在化します。 しかも発覚するタイミングが最悪で、障害年金を請求しようとして記録を取り寄せた、まさにその瞬間に確定します。訂正前なら3分の2を満たしていたのに、訂正後に満たさなくなる、という逆転も起こりえます。

救済の道はあります。2年の時効で納付できなくなった不整合期間については、「時効消滅不整合期間に係る特定期間該当届」を出すことで、合算対象期間(いわゆるカラ期間)として扱われます。老齢基礎年金の額には反映されないが、受給資格期間には算入されます。

海外に住んでいた期間の扱い

日本国籍の人が海外に住んでいて任意加入していなかった期間は、被保険者期間に含まれません。したがって3分の2の分母にも分子にも入りません。未納にはなりません。

これは意外な結果を生むことがあります。分母が縮むぶん、かえって3分の2をクリアしやすくなる場合があるのです。海外赴任や留学の期間がある人は、自分で計算して諦める前に、必ず記録を出してもらってください。

20歳前に初診日があるなら、納付要件は問われない

20歳前の、年金制度に加入していない期間に初診日がある場合、納付要件はそもそも問われません。保険料を1円も納めたことがない人が受給できる、唯一の正面ルートです。発達障害や知的障害、先天性の疾患で、20歳前に受診歴がある人はここに乗ります。

ただし線引きがあります。20歳前でも、就職して厚生年金に加入していた期間に初診日があるときは、20歳前傷病ではなく通常の障害厚生年金になり、納付要件が問われます。 中卒・高卒で就職した人で見落とされやすいところです。

そして納付要件が免除される代わりに、制約がつきます。20歳前傷病の障害基礎年金には所得制限があります。

判定は扶養親族の数によって加算され、支給停止の期間は10月から翌年9月までの1年単位で動きます。働き始めてしばらくしてから支給停止の通知が届いて驚く、というのがよくある流れです。なお、この基準額は年度ごとに改定されるので、直近の数字は年金事務所で確認してください。

このほか、20歳前傷病には海外居住中の全額支給停止、刑事施設等に収容され有罪が確定した場合の全額支給停止、労災年金との調整といった制約もあります。

「未納だと思っていた」が外れる典型パターン

記録を取ってはじめて分かることを、よくある順に並べておきます。心当たりがあれば、それだけで窓口に行く理由になります。

逆に、記録を取って悪い方に転ぶこともあります。3号のままになっていた期間が訂正されて未納になる、というのが代表例です。それでも、知らずに請求して落ちるより、知ってから手を打つほうがいいです。 満たしていないとわかった時点で、初診日の見直しや社会的治癒という別の道を検討できるからです。

自分の記録を、どうやって取りに行くか

ここからが実際の行動になります。確認手段は4つあるが、精度が違います。

窓口で頼むべきものには名前があります。「被保険者記録照会回答票」です。これは納付済・免除・未納・合算対象期間といった区分を、月ごとに明示した帳票になります。本人確認書類と基礎年金番号がわかるものを持って行けば出してもらえる(代理人の場合は所定の委任状が必要)。

窓口での聞き方

漠然と「納付要件は大丈夫ですか」と聞きません。日付を特定して聞きます。

「○年○月○日を初診日として、障害年金の保険料納付要件を満たしているか確認してください。あわせて、被保険者記録照会回答票を出していただけますか」

そしてもう一つ、これが実務上いちばん効くコツになります。初診日がまだ確定していない段階なら、候補日を複数出して、一つずつ判定してもらいます

「初診日の候補が3つあります。○年○月の内科、○年○月の心療内科、○年○月の精神科です。それぞれで納付要件がどうなるか、3つとも見ていただけますか」

窓口はたいてい「初診日はいつですか」と一つに絞らせようとします。しかし納付要件の答えは初診日ごとに変わるのだから、絞る前に全部試すのが正しい順番です。

帳票を自分の目で読むときの注意

回答票の納付状況は、ひらがなや記号で表示されます。未納系の記号がひらがな1文字で紛れ込んでいるので、素人目には見落とします。半額未納、4分の3免除にかかる未納、4分の1免除にかかる未納、第3号の未納——このあたりは、その場で職員に「未納にあたる月はどれですか」と指差してもらうのが確実です。

初診日が1日ずれると、判定の窓ごとずれる

これは知っておく価値があります。

判定は「初診日がある月の前々月まで」を起点にするので、初診日が7月31日か8月1日かで、直近1年の窓が1か月まるごとずれます。前者なら前年6月から当年5月、後者なら前年7月から当年6月。

窓の端に未納が1か月あるとき、それが窓に入るか外れるかで結論が反転します。だから初診日は、受診状況等証明書を取りに行く前に、候補日ごとの納付要件を確認しておきます。 順序を逆にすると、不利な初診日で証明書が確定してしまい、あとから動かせなくなります。

満たしていないと分かったとき、まだ残っている道

記録を取って、要件を満たしていないとわかりました。そこで終わりではありません。

① 初診日そのものを見直す 本当にその日が初診日か。相当因果関係のない別の傷病として構成できないか。候補日が複数あるなら、納付要件を満たす日を初診日と主張できる根拠はないか。

② 社会的治癒 症状が安定して特段の治療が必要なく、通常の社会生活を送れていた期間が一定以上続いていた場合、その後の再受診日を新しい初診日として扱える考え方です。目安はおおむね5年とされるが、5年未満で認められた例も、5年以上で否定された例もあります。

納付要件を満たせないケースは、社会的治癒を主張すべき筆頭にあたります。 立証には、当時の給与明細、健康保険の資格記録、健康診断の結果、資格取得の記録など「生活に支障がなかった」と読める客観資料を揃えます。

③ 20歳前傷病として構成できないか 20歳前に受診歴がなかったか、もう一度洗い直します。

④ 特別障害給付金 納付要件不足に対する最後の受け皿として、この制度があります。対象は限られていて、平成3年3月以前に任意加入対象だった昼間部の学生、昭和61年3月以前に任意加入対象だった被用者等の配偶者で、当該期間に初診日がある人です。

請求窓口は年金事務所ではなく市区役所・町村役場で、65歳に達する日の前日までに請求する必要があります。金額は障害基礎年金より低いが、ゼロではありません。

⑤ 記録訂正 本当は3号だったのに1号未納として記録されている、事業主が厚生年金の資格取得届を出していなかった——といったケースを疑い、記録訂正を請求します。訂正が通れば未納が消えます。

なお、厚生年金の資格取得届が初診日以後に提出された場合、届出の前々月まで遡って2年間が当初から納付済期間として扱われます。これは「後出し」ではなく記録の是正なので、納付要件に効きます。

よくある質問

Q. 未納期間があると障害年金は受けられませんか? A. 未納があっても受けられる場合があります。初診日の前日時点で、加入期間の3分の2以上が納付済み・免除済みであれば要件を満たします。これを満たさなくても、初診日が令和18年3月末日までで初診日に65歳未満なら、初診日がある月の前々月までの直近1年間に未納がなければ足ります。

Q. いま未納分をまとめて納めれば要件を満たせますか? A. 初診日より後に納めた分は、納付要件の判定には算入されません。判定は初診日の前日時点で固定されます。ただし、まだ初診日を迎えていない傷病については意味がありますし、老齢基礎年金の額には反映されます。

Q. 免除や学生納付特例の期間は未納にあたりますか? A. あたりません。全額免除・学生納付特例・納付猶予・産前産後免除・法定免除は、納付要件の判定で納付済みと同じ側にカウントされます。ただし一部免除は、減額された残りの保険料を納めていないと未納扱いになります。

Q. 直近1年の特例は令和8年3月で終わりますか? A. 令和7年の年金制度改正により、令和18年3月末日まで10年延長されています。インターネット上には改正前の記述が多く残っているため、参照するページの更新日をご確認ください。

Q. 納付状況はどこで確認できますか? A. ねんきんネットでも確認できますが、判定に使うなら年金事務所で「被保険者記録照会回答票」を出してもらうのが確実です。ねんきん定期便では免除の細目まで読み取れません。

Q. 20歳前に初診日があれば必ず納付要件は問われませんか? A. 20歳前でも厚生年金に加入していた期間に初診日がある場合は、通常どおり納付要件が問われます。また20歳前傷病の障害基礎年金には所得による支給停止があります。

まとめ

※本記事は一般的な情報提供であり、受給を保証するものではありません。制度は改正されることがあります。所得制限の基準額など年度ごとに改定される数値もありますので、最新の要件は日本年金機構および年金事務所でご確認ください。

参考リンク

制度の正式な情報・最新の様式は、日本年金機構のホームページおよび 年金事務所でご確認ください。