20歳前傷病の障害基礎年金 — 納付要件を問われない特例と、10代の記録が大切な理由
この記事の結論
初診日が20歳前(かつ厚生年金に入っていない期間)にあれば、保険料の納付要件は問われません。「払っていないからもらえない」ではなく、20歳前傷病による障害基礎年金の対象です。
代わりに、本人の前年所得による支給制限があります(令和8年度は3,761,000円超で半額、4,794,000円超で全額停止。10月分から3,858,000円/4,918,000円)。親の収入は関係ありません。3級はありません。
請求の合図は20歳の誕生日です。20歳到達日の前後3か月以内の診断書で請求します。自動では始まりません。
不登校・保健室・通知表・母子手帳など、10代の記録がそのまま審査の資料になります。裁決でも、元担任の第三者証明や療育手帳・就学歴から認められた例があります。
発達障害(ADHD・ASD)で障害年金を申請する方法|初診日・診断書・申立書
「保険料を払っていないから、もらえない」ではない
障害年金には納付要件があります。初診日の前日までに一定の保険料を納めていなければ、どれだけ症状が重くても受給できない——これが原則です。
ただし、納付要件を問わない特例があります。初診日が20歳前(かつ厚生年金に加入していない期間)にある場合の「20歳前傷病による障害基礎年金」です。20歳前は原則として国民年金の被保険者ではないため、加入していない期間に初診日がある場合は納付要件が問われません。
この記事では、20歳前傷病の仕組み、特有のルール、そして「10代の記録」がなぜ財産になるのかを解説します。10代のお子さんの不調に向き合っている親御さんにも読んでほしい内容です。
初診日の闇の、ちょうど裏側
前提として、障害年金の種類は初診日で機械的に決まります。
長年厚生年金を納めた会社員が、退職後に初めて心療内科を受診すると、初診日が国民年金期間になり、障害基礎年金しか対象になりません。在職中の不調を我慢した人ほど、この行き止まりに当たります。
20歳前傷病は、この仕組みのちょうど裏側にあります。「保険料を納めていないのに受給できる」のだから、方向としては救済です。ただし、その分だけ特有のルールが付きます。表と裏を両方知っておく必要があります。
救済の面
- 納付要件が一切問われない
- 対象は障害基礎年金1級・2級(金額は通常の障害基礎年金と同じ。令和8年度は2級847,300円、1級1,059,125円)
特有の制限
- 本人の所得による支給制限がある(通常の障害年金にはない、20歳前傷病だけのルール。前年所得が一定額を超えると半額または全額停止。受給が決まったあとの届出は決定後の手続きリストへ)
- 3級相当では受給できない(基礎年金には3級がない)
- 20歳前でも就職して厚生年金に加入中の初診は、この類型ではなく通常の障害厚生年金の扱いになる(高卒で就職した人は注意。納付要件は問われるが、厚生年金の対象になるため3級や二階建ての可能性が開ける)
金額はいくらもらえる?で確かめられます。
請求できるのはいつから? — 20歳の誕生日前日が基準
請求のタイミングは2パターンあります。
① 障害認定日が20歳より前に来る場合
初診日から1年6か月後(障害認定日)が20歳前なら、20歳に達した日(誕生日の前日)が認定日になります。このとき1級・2級の状態なら、20歳から受給できます。診断書は、20歳到達日の前後3か月以内の状態を書いたものが必要です。
② 障害認定日が20歳より後に来る場合
19歳で初診なら、認定日は21歳ごろ。その時点の診断書で請求します。
どちらのケースも、認定日時点で等級に該当しなくても終わりではありません。その後悪化した場合は、原則として65歳の誕生日の前々日までに事後重症請求を行う必要があります。
大事なのは、20歳の誕生日を「申請開始の合図」として親子で認識しておくことです。20歳未満の間は特別児童扶養手当など親向けの手当が中心だが、20歳からは本人の障害基礎年金に制度が切り替わります。合図を逃すと、請求が遅れた分は原則さかのぼれない(認定日請求の遡及は別論点)。
所得制限の中身 — 見るのは本人の所得だけ
20歳前傷病の障害基礎年金には、本人の前年所得による支給制限があります。令和8年度の基準額(扶養親族がいない場合)は次のとおりです。
- 前年所得が3,761,000円以下……全額支給
- 3,761,000円超〜4,794,000円以下……2分の1支給停止
- 4,794,000円超……全額支給停止
令和8年10月分からは、基準額が3,858,000円と4,918,000円に改定されます。扶養親族がいれば基準額は加算され、停止の期間は10月から翌年9月までの1年単位で動きます。
対象は本人の所得だけで、親の収入は関係ありません。学生や無収入なら気にする必要はなく、就労を始めた後に前年所得が基準を超えた年だけ、半額または全額が停止されます(翌年所得が下がれば戻る)。「働いたら一生もらえなくなる」制度ではないので、この点で就労をためらう必要はありません。
このほか、海外に住んだときと、刑事施設等に収容されて有罪が確定したときの全額支給停止、労災年金との調整があります。
→ 「親に収入があるから、20歳前の障害年金はもらえない」は誤解です10代の記録が財産になる
ここからが、この記事でいちばん伝えたいことです。
10代の不調は、多くの場合「学校に行けない」という形で現れます。そして、そこから医療につながるまでに時間がかかります。20歳前傷病の申請では、この「10代の道のり」を示す記録が、そのまま資料になります。
- 不登校・保健室登校の記録 → 発病時期と生活への支障の証拠
- スクールカウンセラーや教育相談の記録 → 医療につながる前の不調の証拠
- 10代での受診記録 → 初診日の証明そのもの
- 通知表・在籍記録(特別支援学級など) → 障害の程度の客観資料
実際、国のガイドラインも、知的障害・発達障害について「発育・養育歴、教育歴などについて考慮する」「養護学校や特殊学級の在籍状況、通知表などから客観的に確認できる場合は、2級の可能性を検討する」としています。学校の記録は、制度が正面から見ると言っているものです。
親からすれば、思い出したくない時期の記録かもしれません。しかし申請の場面では、捨てずに残してあった母子手帳・通知表・診察券・学校とのやりとりが、そのまま子どもの生活を守る書類になります。
なお、先天性の知的障害(精神遅滞)は出生日が初診日として扱われ、受診状況等証明書は不要とされています。頭部外傷や高熱などが原因の知的障害は扱いが異なるため、個別に確認が必要です。
初診日の証明は、20歳前なら要件が緩く、第三者証明2名分だけで認められる道もあります。何をそろえるかは何をそろえればいい?で確かめてください。
→ 「若いから、障害年金は無理」は誤解です同じ状況の人が、どうなったか
社会保険審査会の裁決から、20歳前の初診日や20歳時点の障害の状態が争われた実例です。原文は厚生労働省の公開資料で確認しています。
うつ病・事後重症請求(平成30〜令和元年、原文(厚労省PDF)) — 小学生のときの元担任らによる、具体的で互いに整合する第三者証明から、20歳前の入院を初診と認定し、裁定請求日の状態も2級に該当するとして原処分が取り消されました。「10代の記録が財産になる」の実例です。
中等度知的障害・20歳到達日請求(令和4〜5年、原文(厚労省PDF)) — 20歳時の診断書がなく障害の状態を認定できないとした処分について、後年の診断書、就学・就労歴、知能検査、療育手帳などから、20歳時も同程度であった蓋然性が高いとして原処分が取り消されました。通知表や手帳が、20歳時点の状態の証拠になった例です。
自閉スペクトラム症・軽度精神遅滞・新規裁定(令和4〜5年、原文(厚労省PDF)) — 20歳前初診の障害基礎年金として不支給とした処分について、発達期から認定対象となる知的障害があったとは認めず、厚生年金の期間中の初診日と発達障害による障害を認めて原処分が取り消されました。「20歳前傷病」と決めつけられていたものが、通常の障害厚生年金に戻った例で、上の「厚生年金加入中の初診は通常の障害厚生年金」の話そのものです。
親が動いていい
20歳前傷病の申請は、本人が20歳になったばかりで、症状も重い時期に重なることが多くあります。
ここで知っておきたいのは、障害年金の請求・相談は、本人以外が行っても問題ないということです(年金機構への請求手続きには委任状が必要です)。
- 年金事務所への一般的な制度相談 → 親も相談できる
- 個人情報を含む年金相談・代理手続き → 原則として本人の委任状を用意する
- 医療機関へのカルテ・証明書の照会 → 医療機関ごとの同意書や委任状を確認する
- 申立書の作成 → 家族が本人の状況整理を手伝える
さらに、家族や支援者による日常生活の具体的なメモは、書類の整合性を裏づける材料になります。ガイドラインも、家族等の援助の状況を考慮するとしています。20歳前傷病では、生活をいちばん近くで見てきたのは親です。「朝起こしても起きられない日が週に何日」「服薬の管理は誰がしているか」——親の目線の記録が、申立書と診断書を支えます。
19歳からの準備スケジュール
初診日や障害認定日によって必要時期は変わるが、準備の一例は次のとおりです。
- 19歳0か月〜: 初診日の証拠を固める(受診状況等証明書の依頼、閉院していれば初診日の調べ方の手順へ)。10代の記録(通知表・学校とのやりとり・母子手帳)をひとつの箱にまとめる
- 19歳6か月〜: 申立書の下書きを始める(生育歴から期間の枠を作り、メモを溜める)。生活の様子を親子でメモに残す習慣をつける
- 誕生日の3か月前〜: 主治医に「20歳になったら障害年金を請求したい」と伝え、診断書の依頼時期を相談する(診断書は20歳到達日の前後3か月以内の現症)
- 20歳到達後: 診断書を受け取り、内容を確認してから、年金請求書・申立書とあわせて提出
このスケジュールの利点は、一番しんどい「思い出して書く」作業を、締切前の一気書きにしないことにあります。10代の経過を親子で振り返る作業は感情的な負荷が大きいです。半年かけて1〜2行ずつ溜めるほうが、書く側の消耗も、書かれる内容の精度もまるで違います。
申立書は「生まれてから」書く
20歳前傷病の病歴・就労状況等申立書は、通常より長い時間軸になります。知的障害・発達障害では出生から、それ以外でも発病からの経過を、学校生活(小・中・高それぞれの様子)を含めて書きます。
書き方の原則は通常の申立書と同じです。頻度・続いた期間・受けていた援助・できなかったことの具体例の4要素。「学校でつらかった」ではなく「中2の秋から週3日欠席し、登校できた日も保健室で過ごしました。友人との会話はほぼなかった」まで書きます。期間別のフル記入例は申立書の記事に載せています。
このアプリは、質問に答える形で期間の枠を作り、思い出したことを1〜2行のメモで溜めてから申立書の文体に整える作りになっています。本人が書ける日は本人が、書けない日は親が「見てきた事実」をメモする使い方もできます。記録は端末の中だけ、ログイン不要、基本機能は無料。
よくある質問(FAQ)
Q. 保険料を一度も払っていませんが、本当に受給できますか?
A. 初診日が20歳前(厚生年金非加入期間)にあれば、納付要件は問われません。それが20歳前傷病による障害基礎年金の核心です。ただし1級・2級に該当する障害状態であることは必要です。
Q. 通常の障害年金と何が違いますか?
A. 納付要件が不要な代わりに、本人の前年所得による支給制限(半額停止・全額停止)があります。また基礎年金のみなので3級相当では受給できません。
Q. 高校卒業後すぐ就職し、在職中(19歳)に初診でした。20歳前傷病ですか?
A. いいえ。20歳前でも厚生年金加入中の初診は通常の障害厚生年金の扱いです。納付要件は問われますが、3級や障害手当金を含む厚生年金の保障対象になります。
Q. 20歳になったら自動的にもらえますか?
A. 自動ではありません。請求手続きが必要です。障害認定日(20歳前初診で認定日が20歳前に来る場合は20歳到達日)の前後3か月以内の診断書を用意して請求します。
Q. 10代の頃の病院がもう閉院しています。
A. 転院先の紹介状やカルテに前医の情報が残っていれば初診日を確定できるケースがあります。学校の記録などの参考資料も使えますし、20歳前の初診日なら第三者証明2名分だけで認められる道もあります。初診日がわからないときの調べ方で手順を解説しています。
Q. 親が代わりに手続きできますか?
A. 一般的な制度相談は親もできます。個人情報を含む相談や代理手続きには原則として本人の委任状が必要です。医療機関への照会に必要な書類も事前に確認してください。親が見てきた生活状況のメモは、申立書などを作る際の材料にもなります。
Q. 発達障害と知的障害で扱いは違いますか?
A. 先天性の知的障害(精神遅滞)は出生日が初診日として扱われます。後天的な原因による知的障害は扱いが異なります。発達障害は原則として、その傷病について初めて診療を受けた日が初診日です。10代で受診していれば20歳前傷病、成人後の初受診なら通常の類型になります。
まとめ
- 年金制度に加入していない20歳前に初診日がある傷病は、保険料の納付要件を問われない。「払っていないからもらえない」ではない
- 裏返しの特有ルール: 本人の所得制限あり(令和8年度は3,761,000円/4,794,000円が基準)、3級なし、厚生年金加入中の初診は対象外
- 請求の合図は20歳の誕生日。認定日前後3か月の診断書で請求する
- 不登校・保健室・カウンセラー・通知表——10代の記録がそのまま審査資料になる。裁決でも元担任の証明や療育手帳から認められた例がある
- 親も一般的な制度相談ができ、委任状があれば代理手続きを進められる。親の目線の記録は生活状況を整理する材料になる
- 申立書は生育歴から4要素で。先天性の知的障害は出生日が初診日
出典
- 国民年金法第30条の4(20歳前の傷病による障害基礎年金)、第36条の3(所得による支給停止)・確認日 2026-09-03
- 日本年金機構「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」(令和8年度の所得基準額と10月改定)・確認日 2026-09-03
- 厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(知的障害・発達障害の考慮事項)・確認日 2026-09-03
- 厚生労働省「令和8年度の年金額」・確認日 2026-09-02
- 当サイト 裁決事例集(91件)・確認日 2026-09-02
※本記事は一般的な制度情報に基づくものです。受給や等級を保証するものではありません。所得制限の金額など最新の基準は日本年金機構のホームページで、個別の判断は年金事務所・社会保険労務士でご確認ください。
参考リンク
制度の正式な情報・最新の様式は、日本年金機構のホームページおよび 年金事務所でご確認ください。