働きながら障害年金はもらえる?「働ける=改善」と誤解されない伝え方
この記事の結論
働きながら障害年金は受け取れます。受給者209.6万人のうち仕事がある人は34.0%、精神障害では28.3%。65歳未満にかぎると43.1%です(厚生労働省・障害年金受給者実態調査、令和元年)。「正社員として働いている」「厚生年金を払っている」だけでは不正ではなく、障害の状態が続く限り就労と受給は両立します。令和6年度に新しく決まった障害年金の22.1%は、労働に制限がある状態を対象にした3級です。
ただし勤務の事実だけが審査側に伝わると「働ける=改善」と読まれます。ガイドラインは仕事の種類・援助の内容・意思疎通の状況を確認して判断するとしていますが、書類に載っていなければ確認しようがありません。
医師に伝えるのは4点。雇用形態と勤務時間、職場で受けている配慮、それでも起きている支障(欠勤・早退の回数)、仕事以外の時間の生活。「働けている」と「生活が回っている」は別だと伝えてください。
申請や受給が会社に通知される仕組みはありません。職場では年金の話をせず、書類の中でだけ徹底的にオープンに書く。正念場は数年ごとの更新で、勤務実態の記録を止めないことが対策のすべてです。
「働いていたら無理」は誤解。ただし条件がある
働きながら障害年金を受給できるのか。答えは、はっきりしています。「正社員として働いている」「厚生年金を払っている」だけでは不正ではありません。障害の状態が続いている限り、就労と受給は両立し得ます。
数字で確かめます。厚生労働省の障害年金受給者実態調査(令和元年)では、受給者209.6万人のうち仕事がある人は714千人、34.0%です。精神障害では28.3%(725千人中205千人)。内訳は、常勤の会社員・公務員等2.3%、臨時・パート等8.8%、就労継続支援などの障害福祉サービス事業所等9.7%、地域活動支援センター・小規模作業所3.7%、自営・家族従業1.6%。等級で見ると、障害厚生年金3級の精神障害では50.2%が働いていて、2級でも24.8%、障害基礎年金でも27.1%です。
働いている受給者は、例外ではありません。3〜4人に1人です。一方で、仕事がない人の理由のいちばんは「障害のため働けない」(精神障害で38.7%)、次が「病気のため働けない」(13.8%)。「働きたいが、働く場がない」は4.8%。この数字は、あなたが働けていることを審査側がどう読むかの背景にもなります。3級の半数が働き、2級の4人に1人が働いている制度で、「働いている=軽い」という短絡は、制度の実態と合いません。
→ 「働いていたら、障害年金は無理」は誤解ですしかし、裏側の注意もあります。勤務の事実だけが審査側に伝わると「働ける=改善」と誤解されやすい——。つまり「働きながらもらえるか」の答えは、働き方の実態をどこまで伝えられるかで変わります。
この記事では、制度の建て付けと裁決事例、そして障害を抱えて働く人の生活の実態の両面から、「働きながら」の申請・受給・更新のリアルを解説します。
認定基準は「就労禁止」とは書いていない
まず制度の建て付けを押さえましょう。精神の障害の等級判定ガイドラインは、就労している人について「仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断する」としています。
「働いている人には支給しない」とはどこにも書いていません。書いてあるのは「実態を見て判断する」です。
厚労省が医師向けに出している診断書の記載要領も、就労欄について「就労している事実だけで支給決定が判断されることはありません」と明記し、援助や配慮の状況をできる限り記入するよう求めています。
数字でも確かめられます。令和6年度に新しく決まった障害年金146,225件のうち、3級は22.1%。3級は「労働が制限を受ける」状態を対象にした等級で、働いている人が受けることを制度が最初から想定しています。
制度は実態を見ようとしています。問題は、実態が書類に載らなければ、審査側には「就労の事実」しか残らないことです。
「働けている」の中身 — 実態には幅がある
では「実態」とは何か。障害者雇用で働いていても、十分な合理的配慮が得られるとは限りません。雇用形態は非正規が多く、給与だけでは足りない場合があります。求められるスキルや勤怠管理が健常者並のこともあります。
眠剤の時間で変わる睡眠、気分の浮き沈み、連休でようやく取れる休息。「働けている」とは、こうした波を抱えながら、配慮と自己管理でギリギリ成立している状態であることが少なくありません。国のガイドラインも、就労以外の場面での日常生活能力が著しく低下していることが客観的に確認できる場合は、就労の場面と就労以外の場面の両方の状況を考慮するとしています。
この幅が、審査書類に載るかどうか。それが「働きながら」の申請の分かれ目になります。
就労について、医師に伝えること4点
医師はあなたの職場を見ていません。診察で「働いています」としか伝えていなければ、診断書の就労欄には「就労中」の一言だけが載り、審査側にはいちばん軽く見える形で届きます。伝えるべきことは4つあります。
① 雇用形態と勤務時間
「障害者雇用で、1日7時間の短縮勤務です」「週3日、1日5時間のパートです」「就労継続支援B型に週2回通っています」
一般雇用か障害者雇用か、フルタイムか短時間かは、援助の有無を示す基本情報です。
② 職場で受けている配慮
「業務はデータ入力だけに限定してもらっています」「電話と来客の対応は免除です」「指示は口頭だと理解できないので、必ずチャットの文字でもらう決まりになっています」「週1回、支援員と上司との面談で業務を調整してもらっています」
ここが最も抜け落ちやすく、最も効く情報です。配慮がなければ働けていないという事実が伝わるかどうかで、就労の読まれ方が変わります。
③ それでも起きていること(勤務中の支障)
「指示が2件重なると手が止まって、週2〜3回は上司に整理してもらいます」「欠勤が月1〜2日、早退が月2〜3日あります」「通院日とは別に、朝起き上がれない日があります」
欠勤・遅刻・早退は頻度を数字で。ミスや手が止まることも、頻度つきで伝えます。
④ 仕事以外の時間の生活
「帰宅後は夕食が作れず、食べない日が半分です」「入浴は週2〜3回まで減りました」「休日はほぼ終日横になっていて、洗濯は2週に1回まとめてです」
これが決定的です。仕事にエネルギーを使い果たした結果、日常生活能力の7項目が破綻している——それが実態なら、必ず伝えてください。「働けている」ことと「生活が回っている」ことは別だと、医師に伝わります。
4点を伝えるときも、言っていいのは事実までです。「働いているけど年金がもらえるように書いてください」は、医師の医学的判断への介入になり、警戒を招くだけです。伝えることの全体像は医師に伝えること全リストにまとめています。
就労状況メモの完成形(A4に添える1枚)
4点を紙にすると、こうなります。ユウさん(29歳・ASD・障害者雇用で週5日勤務、一人暮らし。この記事のための架空の例です)が診察前メモに添えた1枚です。
先生へ — 仕事の状況です(ユウ)
働き方
障害者雇用の事務職。週5日・1日7時間の短縮勤務です。
職場でしてもらっていること
- 業務はデータ入力と書類整理に限定(判断が必要な仕事は外してもらっています)
- 指示は必ずチャットの文字でもらう決まり(口頭だと理解できないため)
- 電話対応と来客対応は免除
- 週1回、支援員と上司との三者面談で業務を調整
それでも起きていること
- 指示が2件重なると優先順位が決められず手が止まり、週2〜3回は上司に整理してもらっています
- フロアが騒がしい日は集中できず、席を離れて落ち着くまで退避します
- 通院日とは別に、朝起き上がれず欠勤する日が月1〜2日、早退が月2〜3日あります
帰宅後と休日
- 帰宅後は夕食が作れず、コンビニのおにぎりか食べない日が半々です
- 入浴は週3回程度。休日はほぼ終日横になっています
- 洗濯は2週に1回、部屋の掃除は支援員の訪問前だけです
※上記の配慮がない一般の勤務条件では、就労を続けられないと思います。
最後の一文が効きます。事実を並べるだけでなく、援助と就労継続の因果を一文で結ぶことで、医師も審査側も読み取るべき結論が明確になります(もちろん、実態がそうである場合にだけ書ける一文です)。
このメモは、そのまま病歴・就労状況等申立書の就労欄の下書きにもなります。診断書と申立書が同じ生活を描いている状態は、書類の整合性が重視される近年の審査で最も強い形です。
書類に載せるべき「実態」チェックリスト
診断書の就労欄と病歴・就労状況等申立書の就労状況欄に、以下が入っているかを確認します。
- 雇用形態: 障害者雇用か一般雇用か。正社員か非正規か
- 勤怠の実態: 欠勤・遅刻・早退が月に何日か。休職歴
- 配慮の実態: 業務量の調整、単純作業への変更、上司の確認・声かけ、通院への配慮、時短勤務
- 職場外のコスト: 帰宅後は何もできず横になる、休日は回復に全部使う、家事は家族任せ
- 続けられている理由: 「配慮があるから」なのか「限界を削って」なのか
とくに見落とされるのが「職場外のコスト」です。勤務時間中は取り繕えても、その代償が生活に出ているなら、それは日常生活能力の判定材料になります。診断書にこの実態を反映してもらう方法は診察前メモの作り方で、受け取った診断書の就労欄の確認は診断書のチェックポイントで解説しています。
【実例】ソウタさん(35歳・障害者雇用)の「実態の書き方」
チェックリストを実例で通します。ソウタさん(35歳・双極性障害。この記事のための架空の例です)は、障害者雇用の契約社員として週5日・1日6時間の時短で働きながら申請しました。
申立書の就労状況欄(書き直し前)
現在は障害者雇用で事務の仕事をしています。周りに助けられながら、なんとか頑張って働いています。
書き直し後
障害者雇用の契約社員として、週5日・1日6時間の時短勤務(主治医の意見により残業禁止)。業務はデータ入力に限定され、顧客対応と電話は免除されている。指示は口頭では抜けるため、すべてチャットで文書化してもらっている。直近6か月の欠勤は月2〜4日(いずれも抑うつ症状による起床困難)。通院のため毎月1日の中抜けに配慮を受けている。帰宅後は横になったまま動けず、夕食を抜く日が週3日。家事と金銭管理は同居の姉が行っている。給与は月約11万円で、生活費は姉の援助に依存している。
前者と後者で、事実はひとつも変わっていません。変わったのは解像度だけです。「頑張って働いています」は美徳だが、審査書類の中では「支障なく働けている」と読まれる危険な一文になります。
後者には、雇用形態・時間・業務限定・文書化の配慮・欠勤数・職場外のコスト・経済的実態まで、数えられる形で入っています。審査側が「一人で生活が成立しているか」を判定できる材料が揃って、初めて就労欄は味方になります。
診察前に主治医へ渡すメモも同じ調子でいいです。「仕事は続いています。ただし——」の後ろに、上の後者の内容を箇条書きで並べるだけです。診断書の就労欄は、医師がこの材料を持っているかどうかでまったく違うものになります。
同じ状況の人が、どうなったか
働きながらの請求が、社会保険審査会でどう判断されたか。原文は厚生労働省の公開資料で確認しています。
うつ病・障害認定日請求(平成28〜29年、原文(厚労省PDF)) — 3級とされた処分について、家族の援助を要する日常生活能力と、就労支援での短時間作業も続かなかった経過を総合し、障害認定日に2級に該当するとして原処分が取り消されました。「就労支援でも続かなかった」という事実が書面にあったから、上に動いた例です。
非定型うつ病・障害認定日請求(平成30〜令和元年、原文(厚労省PDF)) — 障害認定日には職場の配慮を受けつつ一般雇用で管理職として週4日勤務し、日常生活能力も比較的保たれていたため、3級にも該当しないとして原処分が維持されました。「配慮があった」だけでは足りず、生活能力の側がどう書かれていたかが結果を分けた例です。
眼瞼けいれん・障害認定日請求(平成28〜29年、原文(厚労省PDF)) — 目を開け続けられず仕事や生活上の作業を続けられない障害は、労働に制限を要する3級に該当するとして、原処分が取り消されました。「労働に制限がある」こと自体が3級の要件だという確認です。
職場で年金の話をしない — その意味
申請を考える人が必ず気にするのが「会社に知られないか」です。制度上の答えはシンプルで、申請したこと自体が勤務先に通知される仕組みはありません。障害年金は非課税なので年末調整の対象にもなりません。
→ 「障害年金を受けると、会社や周りに知られる」は誤解ですその先にあるのが、「職場で『障害年金』の話はしない」という使い分けです。制度上知られなくても、自分から話せば知られます。そして受給の有無は職場の人間関係で妬みや詮索の火種になります。
書類の中では実態を徹底的にオープンに書きます。職場では話しません。この使い分けが、働きながら申請する人の作法です。
診断書の就労欄が「就労中」だけだったら
受け取った診断書の就労欄に、勤務の事実しか書かれていないことがあります。これは伝わっていなかっただけなので、次の診察で事実を追加で伝え、記載を検討してもらう価値があります。
「就労のことでお伝えできていなかったのですが、実は業務を限定してもらっていて、欠勤も月に1〜2日あります。こちらにまとめてきたので、ご判断の参考にしていただけますか」
「等級が上がるように書いてください」は言いません。伝えるのは事実だけで、記載するかどうかの判断は医師に委ねます。訂正や追加記載の頼み方、応じてもらえなかったときの対処は診断書が実態と違う・軽く書かれたときで詳しく解説しています。
就労欄も含めて診断書が揃ったら、7項目と程度が目安表のどの帯かを確かめておくと、就労がどう効いているかの見当がつきます。
→ 私は何級くらい?更新こそ「働きながら」の正念場
働きながらの受給で、実は申請より神経を使うのが更新(障害状態確認届)です。要点は3つです。
- 更新の診断書も直近の状態で書かれる。日頃から記録を残し、直近数か月の実態を医師に伝える
- 勤務の事実だけ伝わると「働ける=改善」と誤解される。欠勤・早退・配慮の実態まで伝える
- 提出期限から逆算して診察予約を早めに取る
更新までの期間は一律ではなく、1年から5年、または永久認定に分かれます。働き続けている人は、次回の診断書でも就労の事実だけでなく、配慮や勤怠、職場外の生活への影響を伝える必要があります。まずは年金証書に記載された次回診断書提出年月を確認しましょう。令和6年度の再認定304,456件のうち96.7%は継続でしたが、その多くは実態が書面に載っていた人です。
対策は一つしかありません。最短1年で次の診断書が来る前提で、勤務実態の記録を止めないことです。更新のたびに「この1年どうだったか」を記憶から復元する人と、メモを見返すだけの人とでは、診断書に載る実態の精度が違います。
不支給後の再請求では、前回の提出内容と比較されるため、立て直しが難しくなることがあります。大切なのは、前回の提出書類と決定理由を確認し、事実と異なる点や伝わらなかった点を整理してから次の方法を選ぶことです。
なお、等級と収入の関係で補足すると、通常の障害年金(20歳以降初診)には所得制限がありません。収入が上がったこと自体で支給停止になる制度ではない(20歳前傷病のみ本人所得制限がある)。審査で見られるのはあくまで障害の状態です。
「働きながら」を取り巻くお金の全体図
働きながらの受給を考えるとき、年金単体ではなく、障害のある就労生活のお金全体で見ておくと判断を誤りません。年金そのものの額は障害年金はいくらもらえるのかで等級別に整理しています(令和8年度の障害基礎年金2級は年847,300円、障害厚生年金3級の最低保障は635,500円)。
→ いくらもらえる?就労収入と年金の二本柱は、治療環境そのもの
「働けているのに年金をもらうのは後ろめたい」と感じる人は多いが、制度は最初から「稼得能力が制限されている人の所得保障」として設計されています。二本柱がもたらすのは贅沢ではなく、通院を我慢しない、休む判断ができる、悪化の恐怖が減る、という治療環境です。後ろめたさで申請をためらう必要はありません。
厚生年金の保険料を払いながら障害年金を受けることも、二重でも無駄でもありません。納め続けた期間は、将来の老齢年金や、万一の再申請・額改定の土台になります。
→ 「障害年金をもらいながら厚生年金の保険料を払うのは、二重で無駄」は誤解です退職の判断は雇用保険の給付日数もセットで
障害者等の「就職困難者」に該当する場合、基本手当の所定給付日数は、被保険者期間が1年未満なら150日、1年以上なら45歳未満で300日、45歳以上65歳未満で360日とされています。認定区分や受給要件は個別に確認が必要なので、退職前にハローワークへ相談しましょう。
退職後の国保は所得ゼロでも来ます
退職して収入が絶えても国民健康保険料の納付書は届きます。金額に驚いたら、自治体の軽減措置があるのでまず役所に相談してください。障害年金は非課税所得なので、年金受給が国保料の所得割を押し上げることはありません(非課税と「収入扱い」の違い)。
働きながらの障害年金は、この全体図の中心にある「安定装置」です。だからこそ、申請と更新のたびに実態を正確に伝え続ける価値があります。
等級判定ガイドラインは就労をどう見るか
もう一段、審査の内側に踏み込んでおきます。精神の障害の等級は「等級判定ガイドライン」に基づき、診断書の日常生活能力の判定(7項目)と程度(5段階)の組み合わせの目安表を出発点に、考慮要素を加味して決まります。就労はこの「考慮要素」の代表格です。ガイドラインが就労について確認するとしているのは、おおむね次の点になります。
ガイドラインの表2「④就労状況」の原文を、そのまま置きます。審査側が読んでいる文言です。
- 「労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断する」
- 「援助や配慮が常態化した環境下では安定した就労ができている場合でも、その援助や配慮がない場合に予想される状態を考慮する」
- 「就労系障害福祉サービス(就労継続支援A型、就労継続支援B型)及び障害者雇用制度による就労については、1級または2級の可能性を検討する。就労移行支援についても同様とする」
- 「障害者雇用制度を利用しない一般企業や自営・家業等で就労している場合でも、就労系障害福祉サービスや障害者雇用制度における支援と同程度の援助を受けて就労している場合は、2級の可能性を検討する」
- 「一般企業(障害者雇用制度による就労を除く)での就労の場合は、月収の状況だけでなく、就労の実態を総合的にみて判断する」
- 「1年を超えて就労を継続できていたとしても、その間における就労の頻度や就労を継続するために受けている援助や配慮の状況も踏まえ、就労の実態が不安定な場合は、それを考慮する」
- 「精神障害による出勤状況への影響(頻回の欠勤・早退・遅刻など)を考慮する」
- 「仕事場での臨機応変な対応や意思疎通に困難な状況が見られる場合は、それを考慮する」
- 知的障害・発達障害では「仕事の内容が専ら単純かつ反復的な業務であれば、それを考慮する」、「常時の管理・指導が必要な場合は、2級の可能性を検討する」
読み方は一つです。
「働いているか」は書かれていない。「どう働けているか」だけが書かれている。
種類・内容・援助・意思疎通・欠勤・不安定さ。この語で書かれていない就労は、審査側には「就労あり」の一語にしか見えません。 裏を返すと、これらが書類に書かれていなければ、審査側は確認しようがなく、「就労あり」という事実だけが残ります。ソウタさんの書き直し後の文例が効くのは、ガイドラインの確認項目に一対一で答えているからです。審査側が確認したい順番に、事実を並べて渡します。それが「実態を書く」の技術的な意味です。
審査の側で、就労がどう読まれるかの実例があります。令和7年6月の厚生労働省の調査報告書に載っている、審査を担当した職員の説明です。「障害等級の目安では2級とされていたが、カルテに症状は落ち着いていること、買い物等ができるとの記載があったほか、一般企業に一般雇用されているものの業務内容は単純作業であり、しばしば休むということを総合的に判断し、就労に制限がある状態として3級とした」。
目安では2級。それが「一般雇用で働いている」と「カルテに買い物ができる」で3級に動いた例です。ここで見てほしいのは、同じ事実が表2では逆の材料にもなることです。「業務内容は単純作業」「しばしば休む」は、表2の「専ら単純かつ反復的な業務」「頻回の欠勤・早退・遅刻」に当たり、2級の可能性を検討する側の材料です。どちらに読まれるかを分けるのは、診断書の就労欄と申立書に、援助・配慮・欠勤の実態がどれだけ具体的に書かれているか。「一般雇用・週5日」とだけあれば前者、「一般雇用だが、上司が毎朝手順を紙で渡し、月に3〜4日欠勤、帰宅後は食事を取らず寝る」とあれば後者です。
障害者雇用や就労支援(A型・B型)での就労は、援助を受けている事実がそのまま雇用形態に表れるため、書類上も伝わりやすいです。問題は次のケースです。
クローズ就労(一般雇用・非開示)の場合
障害を開示せず一般雇用で働いている人は、「配慮を受けていない=支障がない」と読まれやすい、最も誤解されやすいポジションにいます。しかし、クローズだからこそ書けることがあります。
- 公式な配慮の不在と、非公式な帳尻合わせ: 会社の制度としての配慮はないが、同僚が実質的にフォローしている、ミスの出やすい業務から外されている——事実として書ける
- 維持のコスト: 服薬時間を隠す工夫、症状を悟られないための消耗、昼休みに車や個室へ退避している実態
- 勤怠と通院: 有給を通院に充てて余暇がゼロ、体調不良を「私用」として欠勤している回数
- 家庭側の崩壊: 職場で使い切った結果、家事・入浴・食事が崩れている実態(ここが日常生活7項目の判定材料になる)
「クローズで普通に働けているなら等級は無理」と一律には言えません。等級のハードルが上がるのは事実だが(h30_r01-07_01 の例のように、配慮を受けつつ一般雇用で勤務し生活能力も保たれていれば3級にも届かないことがあります)、審査が見るのはあくまで援助の要否と生活の支障です。開示していないことは、援助が不要であることを意味しない——この一文を、頻度と具体例で証明するのがクローズ就労の申立書になります。
なお、申請のために職場へ開示する必要はありません。前述の通り、申請が会社に伝わる仕組みはありません。クローズのまま申請して構いません。
更新の90日前チェックリスト
働きながらの更新を、運任せにしないための逆算リストを置いておきます。障害状態確認届の提出期限(誕生月の末日)から逆算して——
90日前
提出用紙が届いているか確認。診察の予約を取る(期限直前は混む)。この1年のメモを読み返し、勤怠・配慮・生活の変化を整理する。
60日前
診察で医師に「更新の診断書をお願いしたい」と伝え、直近数か月の実態メモ(A4一枚)を渡す。就労中であることに触れ、欠勤・配慮の実態も書いてほしい旨を相談する。
30日前
診断書を受け取り、7つのポイント+就労欄を確認。実態と食い違う箇所は事実を追加で伝える。
提出
控えのコピーを取ってから提出。次回の提出年月をカレンダーへ。
期限に遅れると年金が一時差し止めになり得ます。「診察の予約が取れなかった」は、精神科の予約事情では現実に起きます。90日前始動が、期限逆算の基本です。
就労移行・A型・B型で働いている場合
一般就労・障害者雇用のほかに、就労移行支援や就労継続支援A型・B型で「働いている」人も多いです。ここも整理しておきます。
等級判定ガイドラインの考え方では、就労系福祉サービスの利用は一般企業での就労とは区別して評価されます。B型(雇用契約なし・工賃)での作業は、それ自体が「援助のある環境での活動」であり、「働けている=改善」とは読まれにくいです。
A型(雇用契約あり)は雇用の形を取るぶん、支援員の関与・作業内容の調整・出席率まで書いて、援助の実態を示すことが大事になります。
いずれの場合も、書類には「事業所名」ではなく中身を書きます。週何日通えているか(通えなかった週も)、支援員のどんな声かけで作業が成立しているか、工賃・給与はいくらか、体調で早退した頻度。福祉サービスの利用記録(事業所が持っている)は客観資料にもなるので、更新や申請の際に個別支援計画やモニタリング記録の写しをもらっておくのも実務的な一手です。
「働きながら」にまつわる誤解を、最後に全部潰す
誤解①「就労を隠したほうが通りやすい」
論外です。厚生年金の加入記録は審査側から丸見えであり、隠す意味がない上に虚偽になります。事実と異なる申告での受給は返還請求、悪質なら刑事罰まであり得ます。書くべきは「就労の事実+実態」であって、隠蔽でも誇張でもありません。
誤解②「厚生年金を払いながら障害年金をもらうのはズルい」
制度上、まったく問題ありません。障害の状態が続く限り就労と受給は両立します。むしろ厚生年金を納め続けることは、将来の老齢年金や、万一の再申請・額改定の土台になります。
誤解③「昇給・昇格したら報告義務がある」
収入の変化を年金機構へ随時報告する義務はない(20歳前傷病の所得制限を除く)。障害状態は更新のタイミングで診断書により確認されます。ただし、更新時の診断書には就労状況が書かれるので、実態の変化は結局そこで伝わります。日頃の記録を正確に、が唯一の正解であることは変わりません。
誤解④「年金をもらうと税金・扶養で損をする」
障害年金は非課税所得です。所得税・住民税はかからず、確定申告も不要(他の所得がある場合はその分のみ申告)。配偶者の扶養(税法上)の判定にも障害年金は含まれません。社会保険の扶養(130万円/180万円基準)では収入に算入される点だけ注意が要りますが、「もらうと損」になる場面はほぼありません。
こうした誤解の多くは、「働いているのにもらうのは後ろめたい」という感情が根にあります。就労収入と年金の二本柱は、贅沢ではなく、無理をしない働き方——欠勤する判断、通院を削らない判断——を可能にする治療環境そのものです。堂々と、正確に、申請すればいいです。
記録が、申請と更新と診察を全部支える
その日の実態を1〜2行で溜めるアプリを作りました。「今日は早退。午後から動けず」「上司に確認してもらってやっと提出」。溜まったメモは、診察で医師に渡す書類になり、申立書の就労欄の材料になり、更新のたびの土台になります。記録は端末の中だけ、ログイン不要、基本機能は無料。
よくある質問(FAQ)
Q. フルタイム勤務でも障害年金はもらえますか?
A. 制度上、就労自体は欠格事由ではありません。ただし援助や配慮なしにフルタイム就労が安定して続いている場合、精神の障害では等級該当のハードルは高くなります。配慮・欠勤・職場外の生活への影響など、実態次第です。
Q. 障害者雇用だと審査で有利ですか?
A. 「有利」というより、配慮を受けて働いている事実が客観的に示しやすい、が正確です。逆に一般雇用でも、実際に受けている配慮や勤怠の実態を具体的に書けば伝わります。雇用形態は必ず書類に明記してください。
Q. 受給していることは会社にバレますか?
A. 申請・受給が勤務先に通知される仕組みはありません。年末調整でも障害年金は非課税所得のため申告対象になりません。ただし自分から話せば当然知られます。職場で年金の話をしないのが無難です。
Q. 働き始めたら支給停止になりますか?
A. 就労開始が自動で停止につながる制度ではありません。次の更新時に、就労を含む直近の障害状態で審査されます。勤務の事実だけでなく実態(配慮・欠勤・生活への影響)が診断書に載るようにすることが重要です。
Q. 収入が増えたら減額されますか?
A. 通常の障害年金に所得制限はありません(20歳前傷病による障害基礎年金のみ本人の所得制限があります)。
Q. 時短勤務や在宅勤務は書いたほうがいいですか?
A. 必ず書いてください。時短・在宅・業務限定・通院配慮は、いずれも「援助・配慮を受けて就労が成立している」ことを示す客観的な事実で、認定ガイドラインが確認するとしている項目そのものです。
Q. 更新の間隔は自分で選べますか?
A. 選べません。更新期間は個別に決まり、1年から5年または永久認定があります。年金証書の次回診断書提出年月を確認し、勤務実態の記録を継続してください。
Q. 3級でも働きながらもらえますか?
A. 3級(障害厚生年金のみ)はもともと「労働が制限を受ける」状態を対象にした等級で、就労との両立が制度上想定されています。初診日が厚生年金加入中にあることが前提です。令和6年度の新規裁定の22.1%が3級でした。
Q. 働いていることは、医師にどこまで伝えるべきですか?
A. 「働いています」だけでは足りません。雇用形態と勤務時間、職場で受けている配慮、欠勤・早退の頻度や勤務中の支障、そして帰宅後・休日の生活の4点を伝えてください。この4点が診断書に反映されるかどうかで、就労の読まれ方が変わります。
Q. 働いていることを医師に言わないほうが有利ですか?
A. 隠すのは虚偽であり、審査側は厚生年金の加入記録を確認できるため意味もありません。就労と受給は両立し得ます。大事なのは勤務の事実だけでなく、配慮や欠勤の実態まで伝えることです。
Q. 診察で仕事の話をすると「働けているなら大丈夫」と言われてしまいます。
A. 勤務の事実だけが伝わると、そう受け取られやすくなります。配慮の内容(業務の限定、免除されている仕事)と、帰宅後や休日の生活の実態をセットで伝えてください。紙にまとめて渡すと、限られた診察時間でも伝わります。
Q. 働きながら受給している人は、実際にどのくらいいますか?
A. 厚生労働省の障害年金受給者実態調査(令和元年)では、受給者209.6万人のうち34.0%に仕事があります。精神障害では28.3%、65歳未満の受給者全体では43.1%。障害厚生年金3級の精神障害では50.2%が働いています。働いている受給者は例外ではなく、3〜4人に1人です。
Q. 一般雇用で働いていると、障害者雇用より不利ですか?
A. 雇用形態そのものではなく、援助の実態で見られます。ガイドラインは、障害者雇用制度を使わない一般企業での就労でも「就労系障害福祉サービスや障害者雇用制度における支援と同程度の援助を受けて就労している場合は、2級の可能性を検討する」としています。一般雇用の人ほど、受けている配慮(手順の紙、業務の限定、欠勤の扱い、上司の声かけ)を書面に載せないと、援助ゼロで働けていると読まれます。
まとめ
- 就労と受給は両立します。「働いていたら不正」は誤解です。令和6年度の新規裁定の22.1%は3級
- ただし勤務の事実だけが伝わると「働ける=改善」と読まれます。実態(配慮・欠勤・職場外の消耗)を書類に載せる
- 国のガイドラインは、就労継続支援A型・B型、就労移行支援、障害者雇用制度による就労については1級または2級の可能性を検討するとしています
- 職場では年金の話をしなくてよい。書類の中でだけ、徹底的にオープンに
- 正念場は数年ごとの更新。令和6年度の再認定304,456件のうち96.7%は継続でしたが、日々の記録が申請・診察・更新のすべてを支えます
出典
- 厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(就労状況の考慮要素、就労系福祉サービス・障害者雇用の取り扱い)・確認日 2026-09-03
- 日本年金機構「診断書(精神の障害用)記載要領」(就労している事実だけで判断されない旨)・確認日 2026-09-03
- 日本年金機構「障害年金業務統計(令和6年度決定分)」・厚生労働省「令和6年度の障害年金の認定状況についての調査」(新規裁定146,225件、3級22.1%、再認定304,456件・継続96.7%)・確認日 2026-09-02
- 雇用保険法(就職困難者の所定給付日数150日/300日/360日)・確認日 2026-09-03
- 日本年金機構「令和8年度の年金額」(障害基礎年金2級 847,300円、障害厚生年金3級の最低保障635,500円)・確認日 2026-09-02
- 当サイト 裁決事例集(91件)・確認日 2026-09-02
- 厚生労働省「年金制度基礎調査(障害年金受給者実態調査)令和元年」第15・16表(仕事の状況別。受給者2,096千人のうち仕事あり714千人=34.0%、精神障害725千人のうち205千人=28.3%、等級別・仕事の内容別・仕事なしの理由別)・確認日 2026-09-27
- 厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」表2「④就労状況」・確認日 2026-09-27
- 厚生労働省「令和6年度の障害年金の認定状況についての調査報告書」別添2(審査担当職員のヒアリング)・確認日 2026-09-27
※本記事は一般的な制度情報に基づくものです。受給や等級を保証するものではありません。個別の判断は年金事務所・社会保険労務士でご確認ください。
参考リンク
制度の正式な情報・最新の様式は、日本年金機構のホームページおよび 年金事務所でご確認ください。