病歴・就労状況等申立書の書き方【精神疾患】— 審査で落ちる書き方と、伝わる書き方(期間別フル記入例つき)
「一番つらかった話」を書いても、伝わらない
アキさん(32歳)は、うつ病で会社を辞めて2年になります。実家で母と暮らしながら、障害年金の申請を決めました。
年金事務所でもらった「病歴・就労状況等申立書」を机に広げて、1時間。書けたのは氏名だけでした。
「発病から現在まで」。そう言われて頭に浮かぶのは、一番苦しかった夜のことです。でも、それをそのまま書けばいいわけではありません。
審査する人は、あなたに会いません。書類だけを読みます。
だから「どれだけつらかったか」ではなく、「生活の何が、どのくらいの頻度でできなかったか」が読み取れない申立書は、素通りされてしまいます。
新しく決まった障害年金の70.3%が精神の障害によるものです(令和6年度)。それだけ多くの人がこの書類を書いていて、同じところでつまずいています。この記事では、つまずきやすい場所を先に潰したうえで、期間別のフル記入例まで載せます。
書き始める前に。初診日の話
申立書は発病時から現在までを書きます。だからこそ、ペンを持つ前に確認してほしいことがあります。
在職中の不調を我慢して、辞めてから初めて病院に行った人が、いちばん大きな行き止まりに当たります。障害年金の種類は、初診日にどの制度に加入していたかで機械的に決まるからです。厚生年金に加入中の初診なら障害厚生年金(3級や障害手当金もあります)。退職後・国民年金期間の初診なら、障害基礎年金だけ(1級・2級のみ)になります。
ここで効くのが、申立書の最初の期間の書き方です。
- 在職中に、内科でも、不眠や食欲不振で受診した記録があれば、そこが初診日と認められる可能性があります(精神科である必要はありません)
- 転院時の紹介状は、初診日を示す強い資料になります。「紹介状をもらった記憶」を先に思い出してください
- 記憶があいまいなまま書き始めない。手帳、レシート、お薬手帳、家族の記憶。先に洗い出す
申立書の1つ目の期間は、初診日の証明と整合していなければなりません。ここが食い違うと、書類全体の信頼が揺らぎます。
「盛ったら終わり」
申立書で症状を実際より重く「盛る」ことに、実利はありません。
医師の診断書と食い違えば、審査側は診断書を信じます。それどころか、申立書全体の信頼が下がります。虚偽の申告や事実と異なる書類で受給した場合は、受け取った年金に利息を上乗せした返還を求められ、悪質な場合は刑事罰もありえます。
一方で、正反対の誤解にも注意してください。「正社員として働いている」「厚生年金を払っている」だけでは、不正ではありません。国のガイドラインは、労働に従事していることをもって直ちに日常生活能力が向上したとは捉えないとしています。障害の状態が続いている限り、就労と受給は両立します。
盛るのもだめ、卑屈に諦めるのも間違いです。事実を、頻度と具体例つきで書く。誇張は要りません。事実を淡々と具体的に書いた申立書のほうが強い。
就労欄が勝負どころ——「働ける=改善」と読まれない書き方
就労の欄は、書き方で読まれ方が変わります。勤務の事実だけを書くと、「働ける=改善」と読まれます。
書くのは、勤務の事実ではなく、その内実です。
- 職場で受けている配慮(業務の限定、免除されている仕事、勤務時間の短縮)
- 欠勤・早退・遅刻の頻度。国のガイドラインも「精神障害による出勤状況への影響(頻回の欠勤・早退・遅刻など)を考慮する」としています
- 帰宅後・休日の状態。ガイドラインは「就労の影響により、就労以外の場面での日常生活能力が著しく低下していることが客観的に確認できる場合は、就労の場面及び就労以外の場面の両方の状況を考慮する」としています
就労継続支援A型・B型、就労移行支援、障害者雇用制度で働いている場合、ガイドラインは1級または2級の可能性を検討すると明記しています。一般企業でも、同程度の援助を受けて働いているなら2級の可能性を検討するとされています。
だから就労状況欄には、在籍の事実だけでなく実態を書きます。
- 欠勤・遅刻・早退が月に何日あったか
- 上司や同僚のどんな配慮(業務量の調整、声かけ、確認、通院への配慮)で成り立っていたか
- 障害者雇用か一般雇用か
- 辞めた場合は、何が続けられなくなって辞めたのか
アキさんの場合なら「在職していたが、最後の8か月は月5日以上欠勤し、入力作業は毎回上司の確認つきだった」まで書いて、初めて実態が伝わります。
そしてこの実態は、申立書だけに書いても片手落ちになります。診断書の就労欄に同じ実態が載っていないと、書類間で温度差が出るからです。診断書側で何をどう伝えるかは医師に伝えること全リストにまとめてあります。申立書と診断書が同じ生活を描いている状態が、審査で最も強いです。
期間の区切り方 — 手が止まる最初のポイント
ルールはシンプルです。
- 受診した医療機関ごとに区切る(転院したら次の枠)
- 受診しなかった期間も、飛ばさずにひとつの枠にする
- 同じ病院が長い場合は3〜5年ごとに区切る
見落とされがちなのが「受診しなかった期間」。ここを空白にすると、審査側は「よくなって通院をやめた」と読む余地が生まれます。実際は「悪すぎて外に出られなかった」のなら、そう書かなければ伝わりません。
各期間は、①頻度 ②続いた期間 ③受けていた援助 ④できなかったことの具体例、の4つで組み立てます。言葉で説明するより、1人分を通しで見たほうが早いです。③の書き方でつまずきやすい人は家族の援助をどう書くかも見てください。次の章で、アキさんの申立書を発病から現在まで全部見せます。
同じ事実が、書き方でこう変わる(ビフォーアフター)
フル記入例に入る前に、1つの期間で「落ちる書き方」と「伝わる書き方」を並べて見てください。
書き直し前:
毎日つらくて、家事も何もできませんでした。母に迷惑をかけてばかりでした。死にたい気持ちでいっぱいでした。
書き直し後:
週の半分は朝起き上がれず、食事は母が部屋まで運ぶ日が続いた。入浴は週1回できるかどうか。買い物は人と会うのが怖く、月に数回、母に付き添われて夜の時間帯に行くのみだった。金銭管理は母に任せていた。
書き直し前が「嘘」なわけではありません。全部本当のことです。しかし審査側の視点に立つと、前者からは日常生活能力を判定する材料がひとつも取れません。「つらい」「何もできない」「迷惑をかけた」は、どれも程度と頻度が測れない言葉だからです。
後者は同じ生活を、①頻度(週の半分、週1回、月に数回)②受けていた援助(母が運ぶ、付き添い、金銭管理)③できなかったことの具体例(起床、入浴、買い物)で描き直しただけです。つらかった気持ちを消す必要はありません。気持ちに、頻度と具体例を足します。 これだけで同じ事実がまったく違う濃度で伝わります。
なお、診断書の裏面には「日常生活能力の判定」という欄があり、食事・清潔保持・金銭管理と買い物・通院と服薬・対人関係・危機対応・社会性の7項目で評価されます。申立書でも同じ場面を具体的に書いておくと、診断書と申立書が同じ生活を別角度から描くことになり、「書類の整合性」がここで確保されます。
【フル記入例】うつ病・発病から現在までの申立書(アキさんの場合)
前提: アキさん(32歳)。29歳のとき在職中に発病。半年我慢して心療内科を受診、その後悪化して退職。一時期通院が途絶え、現在は転院先に通院中。母と同居。
期間1: 発病から初診まで(令和5年4月頃〜令和5年10月)
令和5年4月頃から、営業事務の業務量が増えたことをきっかけに、寝つきが悪くなり、朝の吐き気と食欲不振が始まった。半年で体重が6kg減った。仕事のミスが増え、月に2〜3回、朝起き上がれず欠勤した。「怠けているだけかもしれない」と受診をためらっていたが、令和5年10月、朝の通勤電車内で涙が止まらなくなり、母の勧めで自宅近くの○○心療内科を受診した。
ポイント: 初診に至るきっかけ、症状の始まり、生活・仕事への影響を時系列で。「受診をためらった理由」まで書くと、発病から初診までの空白が自然に説明できます。
期間2: ○○心療内科への通院(令和5年10月〜令和6年6月)
2週間に1回通院し、うつ病と診断され服薬を開始した。服薬しながら勤務を続けたが、症状は改善せず、欠勤は月5日以上に増えた。担当業務は上司の判断で入力作業のみに減らされ、提出物は毎回上司の確認を受けていた。昼休みは人と話せず、車の中で一人で過ごしていた。令和6年6月、出社しようとすると動悸と吐き気で玄関から動けない日が週2〜3日続くようになり、退職した。
ポイント: 就労欄の考え方をそのまま本文に反映。「勤務していた」ではなく、欠勤数・業務の変更・受けていた配慮・辞めた直接の理由まで。
期間3: 受診しなかった期間(令和6年7月〜令和7年1月)
退職後、「仕事を辞めたのに通院にお金を使うことへの罪悪感」と、外出自体の困難さから、通院が途絶えた。この期間は症状が最も重く、週の半分は昼まで起き上がれなかった。入浴は週1回できるかどうかで、母に強く促されてようやく入った。食事は母が部屋まで運ぶ日が多く、一人での買い物や外出はできなかった。薬が切れてからは市販の睡眠改善薬でしのいでいた。令和7年1月、心配した母が探した△△クリニックに、母の付き添いで受診を再開した。
ポイント: ここが申立書全体で一番大事な枠になることが多いです。「通わなかった=良くなった」と読まれないよう、通えなかった理由とその間の生活の実態を具体的に書きます。
期間4: △△クリニックへの通院(令和7年1月〜現在)
月2回、母の付き添いで通院している。服薬は継続しているが、飲み忘れが多く、母が毎朝薬を並べて確認している。現在も週の半分は午前中起き上がれない。食事は母が用意したものを1日1〜2回食べる程度。入浴は週1〜2回。買い物は一人ではレジに並べず、月に数回、母に付き添われて空いている夜の時間帯に行くのみ。金銭管理は令和6年秋頃から母に任せている。友人からの連絡には返信できず、この1年、家族以外との交流はない。就労はしておらず、求人を見ると動悸がして閲覧を続けられない。
ポイント: 現在の期間は、診断書の「日常生活能力の判定」7項目(食事・清潔保持・金銭管理と買い物・通院と服薬・対人関係・危機対応・社会性)と同じ場面を意識して書きます。診断書と申立書が、同じ生活を別角度から描く状態を作ります。
この4枠で、文字数にすればおよそ1,000字。「一番つらかった夜」の描写は一行もないのに、生活が立ち行かないことは十分に伝わります。 大げさな言葉を使った箇所もひとつもありません。これが「事実を頻度と具体例で書く」の完成形です。
なお、家族から見た様子を書き添えることにも意味があります。家族や支援者による日常生活状況の具体的なメモ、いわゆる第三者記述は、書類の整合性の裏付けになります。ガイドラインも、家族等の援助の状況を考慮するとしています。アキさんの例で言えば「母から見た一日」のメモは、申立書の記述を裏から支える材料になります。
申請は職場に知られる? — 当事者の鉄則「職場で年金の話はしない」
働きながら申請を考えている人が、就労欄と同じくらい気にするのがこれです。「申立書に勤務先のことを書いたら、会社に知られるのではないか」。
結論から言えば、障害年金の請求は本人(または委任を受けた人)と年金機構の間の手続きで、申請したこと自体が勤務先に通知される仕組みはありません。申立書に勤務実態を書いても、その内容が会社に照会されて本人の同意なく共有される、というものではありません。安心して実態を書いていいです。
ただし、当事者の側から見た処世術は別の話としてあります。障害者雇用で働く人のあいだで、心得として繰り返し語られることがあります。挨拶、しっかりした勤怠管理、感謝と謝罪が言えること——そして、「職場で『障害年金』の話はしない」。
制度上は知られません。でも、自分から話せば当然知られます。そして受給の有無は、職場の人間関係において妬みや詮索の火種になり得ます。
申立書には実態を正直に書きます。職場では話しません。この2つは矛盾しません。書類の中では徹底的にオープンに、書類の外では慎重に、が当事者の知恵です。
一気に書かない。記録を溜めてから整える
申立書がしんどい最大の理由は、つらい時期を一気に思い出す作業だからです。
- まず期間の枠だけ作る(病院名と時期を並べるだけ)
- 思い出したことを期間ごとに短いメモで溜める
- 溜まってから4要素の形に整える
思い出す作業と、文章にする作業を分けます。これだけで負担は目に見えて減ります。
このアプリは、まさにこの手順をそのまま画面にしたものです。質問に答えて枠を作り、日々のメモを溜め、たまったメモを申立書の文体に整えます。書いた記録は端末の中だけに保存され、ログインも不要。基本機能は無料で使えます。
よくある質問(FAQ)
Q. 初診日がどうしても思い出せません。申立書は書けませんか? A. 書けます。ただし順序が逆で、先に初診日の候補を絞る作業をしてください。お薬手帳、診察券、健康診断の記録、家計簿やカードの明細、転院時の紹介状の記憶が手がかりになります。
紹介状などの医療機関間の書類で初診日が確定するケースは多くあります。詳しくは初診日がわからないときの調べ方へ。
Q. 働きながらの申請ですが、就労していると不利ですか? A. 「就労の事実」だけが伝わると「働ける=改善」と誤読されやすいのは事実です。ただし実務者が明言している通り、就労と受給は両立し得ます。欠勤・遅刻・早退の頻度、受けている配慮、障害者雇用か否か、業務内容の変更まで具体的に書き、実態を伝えてください。
Q. 症状を少し重めに書いたほうが通りやすいですか? A. 逆です。診断書と食い違った時点で申立書全体の信頼が下がります。虚偽が過ぎれば、利息つきの返還請求や刑事罰に至った例まであると実務者は警告しています。事実を頻度と具体例で書くことがいちばん強い書き方です。
Q. 通院していなかった期間は書かなくてもいいですか? A. 必ず書いてください。空白は「良くなって通院をやめた」と読まれる余地を生みます。通えなかった理由(症状、経済事情、通院への抵抗感)と、その間の生活実態をひとつの枠として書きます。
Q. 申立書は誰かに代わりに書いてもらえますか? A. 本人の申立てとして提出しますが、作成を家族が手伝うこと自体は問題ありません。請求手続き自体も、委任状があれば第三者が行えます。家族から見た生活の様子は、むしろ書類の整合性を支える材料になります。
Q. どのくらいの分量を書けばいいですか? A. 長さより密度です。各期間に「頻度・続いた期間・受けていた援助・できなかったことの具体例」の4要素が入っていれば、本記事のフル記入例程度(全体で1,000字前後)でも十分伝わります。逆に、感情の描写だけで枠が埋まっている申立書は、長くても伝わりません。
Q. 障害年金を申請したことは会社に知られますか? A. 申請したこと自体が勤務先へ通知される仕組みはありません。申立書に勤務実態を書いても、会社へ共有されるものではないので、実態を正直に書いてください。一方で、「職場で自分から年金の話をしない」ことは、処世術としてよく勧められています。
Q. 社労士に依頼したほうがいいですか? A. 初診日の証明が難航しているケース、不支給後の審査請求、カルテが破棄されているケースなどは専門家の力が大きい領域です。一方、通院歴が整理できていて事実を書ける状態なら、自分で書くことは十分可能です。どこに相談すべきかの整理も参考にしてください。
まとめ: 審査員は書類しか読まない
- 書き始める前に初診日を確認する。退職後の初受診なら基礎年金のみ——いちばん大きな行き止まり
- 誇張はしない。事実を頻度と具体例で書く
- 就労は「在籍の事実」でなく「実態」を書く。欠勤・配慮・辞めた理由まで
- 受診しなかった期間を空白にしない。理由と生活実態を書く
- 一気に書かず、メモを溜めてから4要素に整える
※本記事は一般的な制度情報に基づくものです。受給や等級を保証するものではありません。
正式な様式・記載要領は日本年金機構のホームページで、個別の判断は年金事務所・社会保険労務士でご確認ください。
参考リンク
制度の正式な情報・最新の様式は、日本年金機構のホームページおよび 年金事務所でご確認ください。