よくある誤解

「産後うつや更年期は、原因がはっきりしているから対象外」

産後うつや更年期は原因がはっきりしているから対象外? — 認定は原因ではなく、現在の病態と生活の制限で判断されます

・ 確認日

結論

発症のきっかけが何であるかは、対象・対象外を分けません。認定は、現在の病態と生活の制限で判断されます。産後うつ、更年期、過労、環境の変化。どれも「病気と認められない理由」にはなりません。

「一時的なもの」「自分のせい」と考えて、受診も申請も先延ばしにする人がいます。先延ばしにすると、初診日そのものが後ろにずれます。

例外は1つだけあります。法律で、故意の犯罪行為や重大な過失によって障害を負った場合は、給付の全部または一部が行われないことがあります。これは「原因がはっきりしている」こととは別の話です。

なぜ「原因があると対象外」と思われているのか

「原因が分かっているなら、それを取り除けば治る」という発想があるからです。産後なら時間が経てば、更年期なら過ぎれば、と。それは治療の見通しの話であって、いまの状態が制度の対象かどうかとは別です。

もう1つは、「自分のせい」という感覚です。環境や出来事がきっかけだと、「病気ではなく、自分が弱かっただけ」と思い、申請する資格がないと感じます。認定基準には、そのような要件はありません。

制度ではこうなっている

認定基準は状態を見る

「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」の精神の障害の節は、病名と、現在の症状・日常生活能力・労働能力の制限で認定します。発症の原因やきっかけを要件にする記載はありません。

産後うつは、診断名としてはうつ病(気分障害)で、認定基準の気分障害として審査されます。更年期の気分の落ち込みも、うつ病と診断されればうつ病として審査されます。「産後だから」「更年期だから」という理由で、審査の対象から外れることはありません。

初診日はきっかけの受診でも

産後の不調で産婦人科にかかった、更年期の症状で内科や婦人科にかかった。その受診が、のちに精神疾患と診断される流れの中にあれば、そこが初診日になりえます。精神科の受診日を待つ必要はなく、最初の受診日が起点です。

相当因果関係という考え方

別の病気の治療がきっかけで精神疾患を発症した場合、その2つに相当因果関係があるかどうかで、初診日の置き方が変わることがあります。たとえば脳腫瘍の治療後にうつ病を発症した場合、脳腫瘍の初診日を精神疾患の初診日とするかどうかが問題になります。原因があること自体は対象外の理由になりませんが、初診日をどこに置くかには影響します。

例外: 故意の犯罪行為など

国民年金法第70条などは、故意の犯罪行為または重大な過失により障害を負った場合、給付の全部または一部を行わないことがあると定めています。実際に、覚醒剤の使用が直接の原因である障害について、この条文で不支給とされた裁決があります。産後や更年期や過労は、これに当たりません。

数字で見ると

令和6年度に新しく決まった障害年金のうち、精神の障害の診断書によるものは70.3%でした。この中には、産後、更年期、過労、環境の変化など、さまざまなきっかけで発症した人が含まれています。きっかけ別の統計はありませんが、きっかけが理由で門前払いになる運用ではないことは、この割合が示しています。

同じ状況の人が、どうなったか

社会保険審査会の裁決から、この誤解に関わる実例です。原文は厚生労働省の公開資料で確認しています。

高次脳機能障害・うつ病の初診日(令和7年、原文(厚労省PDF)) — 脳腫瘍の治療後に発症した高次脳機能障害とうつ病について、脳腫瘍の治療と高次脳機能障害の相当因果関係は認めず、抑うつ気分で受診した日を初診日と認定して、不支給が取り消されました。原因があっても対象外にはならず、原因の扱いは初診日の置き方に影響する、という例です。

覚醒剤使用による残遺性障害(令和6年、原文(厚労省PDF)) — 事後重症請求に対し、障害は覚醒剤の使用が直接の原因であるとして、国民年金法第70条にもとづき不支給とした処分が維持されました。「原因は問わない」原則の、法律で定められた例外です。産後や更年期とは、まったく別の話です。

→ ほかの実例も読む

自分の場合を確かめる

  • 診断書に書かれるのは原因ではなく、いまの症状と生活の制限です。「産後」「更年期」は対象外の理由になりません。
  • 初診日は、その症状で最初に医師にかかった日です。産婦人科や内科の受診も初診日になりえます。
  • 「一時的なもの」と思って受診を先延ばしにすると、初診日そのものが後ろにずれます。

窓口で聞く一言

主治医に「原因がはっきりしていても、障害年金の対象になりますか」と聞いてください。判断は状態で行われます。

よくある質問

Q. 産後うつで、子どもが育てば治ると言われました。それでも申請できますか。

A. できます。申請の対象かどうかは、いまの状態で決まります。治る見通しがあることは、対象外の理由ではありません。有期認定になり、更新で状態が見直されるだけです。

Q. 職場のパワハラが原因です。労災と両方申請できますか。

A. 両方申請できます。労災の障害補償年金と障害年金が同一の傷病で重なる場合、障害年金は満額支給され、労災の側が減額されます。障害年金が止まるわけではありません。

Q. 自分の性格が原因だと言われました。

A. 性格の問題と診断されたのか、病名がついているのかで違います。病名がついていれば、その病名で認定基準に沿って審査されます。「性格」は診断名ではないので、主治医に、いまの状態の診断名を確認してください。

次に読む

うつ病・双極性障害適応障害・パニック障害は障害年金の対象外?初診日は病名がついた日?

出典

  • 厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第8節 精神の障害・確認日 2026-09-03
  • 国民年金法第70条・厚生年金保険法第73条(故意の犯罪行為等による給付制限)・確認日 2026-09-03
  • 日本年金機構「障害年金業務統計(令和6年度決定分)」・当サイト裁決事例集(91件)・確認日 2026-09-02
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