肢体の障害と障害年金 — 手足・関節・脊椎・麻痺

リード(直答)

人工関節を入れた。脳卒中の後遺症で片側が動かない。事故で脊髄を損傷した。関節リウマチで手が使えない。これらは、障害年金の中でいちばん古くからある「肢体の障害」の分野で、認定基準もいちばん細かく決まっています。

見られるのは、診断名ではなく、動作です。どれくらいの距離を歩けるか、杖や装具が要るか、階段や立ち上がりに支障があるか、手でボタンが留められるか、ペンが持てるか。診断書には、関節の可動域、筋力、そして日常生活動作の一つひとつが、できる・できないで記入されます。

そして、肢体の障害には「1年6か月を待たない」特例が多い。人工関節・人工骨頭を入れた日、手足を切断した日が、そのまま障害認定日になります。このページは、自分の障害がどの基準で見られ、いつから請求できるかを、動作の言葉で書いています。

審査で本当に見られているのは、この4つ

1. 人工関節・人工骨頭・切断(原則の等級が決まっているもの)

下肢の3大関節(股・膝・足)のうち1関節以上に人工骨頭または人工関節を入れた場合は、原則3級です(状態によってはさらに上位)。認定日は入れた日。手足の切断も、切断の部位に応じた基準があり、切断した日が認定日です。3級は障害厚生年金のみの等級なので、初診日に厚生年金に加入していたかが、受け取れるかどうかを分けます。

2. 関節の可動域と筋力(数値)

肢体の診断書には、各関節の可動域(角度)と筋力(段階)が記入されます。これは検査で測る数値で、本人が伝えるものではありません。ただし、測定の日の調子で数値は動きます。痛みや疲労で日によって違うなら、「調子が悪い日はどうか」を主治医に伝えておく価値があります。

3. 日常生活動作(できる・できない)

診断書には、日常生活動作の欄があり、歩く、立つ、座る、階段、片足立ち、つまむ、握る、ボタン、ひもを結ぶ、といった動作が「できる/少し困難/非常に困難/できない」で記入されます。ここが等級を大きく左右します。診察室で「できますか」と聞かれると「できます」と答えがちですが、「時間がかかる」「痛みを我慢すればできる」「補助具があればできる」は、「できる」ではありません。

4. 麻痺・神経の障害(脳卒中・脊髄損傷・神経難病)

脳卒中の後遺症、脊髄損傷、パーキンソン病、重症筋無力症などは、麻痺の範囲と程度、そして日常生活動作の制限で評価されます。片側の手足の用を全く廃した状態は1級、相当程度の障害を残す状態は2級、というように、基準に段階があります。失語症や高次脳機能障害を伴う場合は、精神の基準でも併せて評価され、複数の診断書で請求することがあります。

結論を分けた実例

公開されている審査請求の裁決から、肢体の事例を3つ。

瞬間の筋力ではなく、疲れやすさと変動で2級(容認) 全身型重症筋無力症の方の認定日請求です。診察時の瞬間的な筋力の正常所見だけでなく、易疲労性、時間帯による筋力の変動、日常動作の著しい制限を評価して、2級に該当するとして3級の処分が取り消されました。「測ったときは動いた」と「一日を通してどうか」は別だ、という例です。

下肢の障害と排泄の管理を併せて2級(容認) 両下肢の不全麻痺と二分脊椎の方の事後重症請求です。下肢の障害と、自己導尿・洗腸による排泄管理を要する状態を併せて認定し、2級に該当するとして不支給処分が取り消されました。一つの部位で足りなくても、複数の障害を併せて上位になることがあります。

肘の人工骨頭は、特例の対象にならなかった(棄却) 右肘の脱臼骨折で、橈骨頭の人工骨頭置換日を障害認定日とする主張が争われた事例です。肘の上腕尺骨関節の骨頭置換には当たらず、当時症状固定とも認められないとして処分が維持されました。「人工骨頭=すぐ請求できる」は、部位によって違うことを示す例です。

肢体の障害の実例をすべて見る

同じ道を歩いた人が、つまずいたところ

診察室で「できます」と答える

診断書の日常生活動作の欄は、主治医があなたに聞きながら書くことが多い。「階段は?」「上れます」。でも実際は、手すりを両手で掴んで、一段ずつ、休みながら。それは「非常に困難」です。診察の前に、動作の一覧を見て、「時間がかかる」「痛みを我慢して」「補助具で」「人の手を借りて」を、正直に書き出してください。それを主治医に渡す。

「痛みは対象外」と聞いて、諦める

痛みそのものは原則対象外です。でも、痛みが原因で生じている運動機能の制限や日常生活の制限は、それぞれの部位の基準で評価されます。また、神経損傷による灼熱痛(カウザルギー)や特定の神経痛は、例外として対象になります。「痛くて歩けない」は、「歩けない」として評価される。

人工関節を入れて、1年6か月待っている

待たなくていい。下肢の3大関節の人工関節・人工骨頭は、入れた日が認定日です。手術が終わったら請求できます。ただし、初診日が国民年金のとき(退職後・自営業)なら、3級がないので、2級以上の状態でなければ年金は出ない。ここを先に確認してください。

初診日を、手術した病院だと思う

変形性関節症なら、最初に膝や股関節の痛みで受診した整形外科。脳卒中なら、倒れて運ばれた病院。脊髄損傷なら、事故の日。人工関節を入れた病院の初診ではありません。何年も前の整形外科なら、カルテの確認を早めに。→ 初診日が証明できないとき

数字で見ると

障害厚生年金3級の最低保障は年635,500円(令和8年度)。人工関節で3級なら、この額が下限です。2級になれば障害基礎年金847,300円との二階建て。

肢体の障害は、精神の障害と違い、働いていることの影響が小さい分野です。人工関節を入れて働いている人も、原則3級は変わりません。

よくある質問

Q. 人工関節を入れて、普通に歩けています。それでも3級ですか。

はい。認定基準は、下肢の3大関節に人工関節・人工骨頭を入れた場合を原則3級としており、歩けていることは関係ありません。ただし3級は障害厚生年金のみです。

Q. 脳卒中の後遺症で、言葉も出にくいです。

麻痺は肢体の基準で、失語症は音声言語機能の障害として、また高次脳機能障害(器質性精神障害)の症状として、両面から評価されえます。複数の診断書で請求することがあるので、年金事務所で様式を確認してください。「話せるけれど仕事の会話にならない」レベルの支障も、伝える価値があります。

Q. 線維筋痛症です。診断書の書き方が分からないと言われました。

線維筋痛症・慢性疲労症候群・化学物質過敏症・脳脊髄液減少症については、診断書を作成する医師向けの留意事項が日本年金機構から公表されています。主治医に、その公式資料の存在を伝えてください。

次の一歩

今日やることは、日常生活動作の一覧(歩く・立つ・座る・階段・片足立ち・つまむ・握る・ボタン・ひも)について、「時間がかかる/痛みを我慢して/補助具で/人の手を借りて」のどれに当たるかを書き出すことです。

人工関節・切断の方は、初診日が会社員のときかどうかを先に確認する。

自分で進めるか、誰かに頼むか迷っているなら → 自分で・アプリで・専門家に頼む、の比べ方

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出典

  • 厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第7節 肢体の障害(上肢・下肢・体幹脊柱・肢体の機能)、第9節 神経系統の障害 ・ 確認日 2026-08-31
  • 日本年金機構「障害認定日の特例」(人工関節・人工骨頭・切断) ・ 確認日 2026-08-31
  • 日本年金機構「線維筋痛症等の診断書作成にあたっての留意事項」 ・ 確認日 2026-08-31
  • 社会保険審査会 裁決例(該当3件は実例ページに原文リンク)