リード(直答)
最初に行った病院に電話したら、「カルテはもう残っていません」と言われた。あるいは、その病院自体がもうない。もっと前の段階で、「最初の病院がどこだったか」からして思い出せない。
ここで止まってしまう人が、本当に多い。障害年金は「初診日」が起点で、ここが決まらないと納付要件も、どの年金になるかも決まりません。だから「証明できない=終わり」に見える。
でも、制度はこの状況を最初から想定しています。カルテが残っていない人のために、公式の様式と、代わりの証明の道が用意されている。証明書が取れないこと自体が「疑わしい」と扱われるわけではありません。
このページは、その道を、いま手元にあるものから順に歩けるように書いてあります。まず最初の一歩は、病院に電話することでも、年金事務所に行くことでもなく、家の中を探すことです。
審査で本当に見られているのは、この3つ
1. 「その日」より「その日を支える資料の整合性」
初診日の認定は、1枚の証明書で決まるのではなく、複数の資料が矛盾なく同じ時期を指しているか、で判断されます。お薬手帳、診察券、領収書、紹介状、健康診断の記録、手帳のメモ、当時の家族や友人の記憶。一つひとつは弱くても、重なると強くなる。逆に、一つでも辻褄が合わないものがあると、全体の信用が揺らぎます。
だから、「昔の受診は言わないほうが有利」「受診を遅らせたほうがいい」という話は、おすすめできません。ありのままの経過のほうが、結局いちばん強い。
2. 「初診」の定義は、あなたが思っているより広い
初診日は、その症状で「初めて医師の診療を受けた日」です。診断名がついた日ではありません。精神科でなくてもいい。眠れなくて内科に行った日、頭痛で脳神経外科に行った日が初診になりえます。薬が出なかった「様子を見ましょう」の受診も、検査だけの受診も、診療は診療です。
ここを狭く考えて「正式にうつ病と言われたのは去年」と申告すると、あとで昔の内科の記録が出てきたときに矛盾になります。思い出す範囲を、最初から広く取ってください。
3. どの制度に入っていた日か
同じ症状でも、初診日が会社員のとき(厚生年金)か、退職後(国民年金)かで、受け取れる年金の種類と額が変わります。20歳より前なら納付要件は問われません。つまり審査側は「いつ」と同時に「そのとき何に加入していたか」を見ています。退職や転職の前後に受診があった人は、月単位で丁寧に。
結論を分けた実例
公開されている審査請求の裁決から、初診日が争点になったものを4つ。
お薬手帳の調剤記録で初診日が認められた(一部容認) 糖尿病から慢性腎不全に至り、人工透析を受けている方の事例です。カルテではなく、お薬手帳の調剤記録から初診日が認定され、透析中であることから2級と判断されて、処分が取り消されました。お薬手帳は、あなたが思っている以上に強い資料です。
診察券と、初診のときの薬袋(容認) うつ病の方で、初診日を確認できないとして却下されていた事例です。診察券と、初診時に処方された抗うつ薬の薬袋などから、申し立てた受診日が初診日と認められました。引き出しの奥の薬袋が、決め手になることがあります。
消印つきの手紙と、院内の賞状(容認) 統合失調症の方で、古い診療録が残っていなかった事例です。後の病院の記録に加えて、入院中に届いた消印つきの手紙、院内の大会でもらった賞状などから、「遅くともこの日には入院していた」と認定され、処分が取り消されました。「医療の記録」でなくても、日付が入っていて、その場所にいたことを示すものは資料になります。
あとから出した初診日の資料は、扱ってもらえなかった(棄却) 糖尿病性腎症の方で、不支給の処分が出たあとに、別の初診日を裏づける資料を提出した事例です。最初の請求で初診日を変えたとは扱えず、新しい初診日で改めて請求すべき、として処分は維持されました。初診日は、出す前に固める。あとから足すのは、別の手続きになります。
同じ道を歩いた人が、つまずいたところ
病院に電話する前に、家の中を探していない
「カルテがない」と言われた瞬間に、手が止まる。でも、証明の材料の半分は、病院ではなく家にあります。
まず、お薬手帳。何冊もあるなら全部。次に、財布とカードケースの診察券。古いスマホの写真(病院の前で撮ったもの、処方薬の写真)。医療費の領収書、確定申告の医療費控除の控え。会社の健康診断の結果。学生なら母子手帳、学校の保健記録。引っ越しの前後で捨てた記憶がなければ、段ボールの中。
これを、日付順に並べる。1日単位で特定できなくても、「この期間のどこかに初診がある」と示せて、その期間ずっと同じ制度に加入していたなら、認められる取り扱いがあります。だから「何月か思い出せない」で諦めないでください。退職の時期、引っ越し、子どもの入学。生活の節目で、期間を絞れます。
そもそも、最初の病院がどこか思い出せない
「調子が悪くなったのは、たぶん前の会社にいたころ」。そこまでしか出てこない人は多い。症状が重かった時期ほど、記憶はあいまいです。それは怠慢ではなく、病気のせいです。
思い出すコツは、病院ではなく生活から辿ること。当時の勤め先と、辞めた月。住んでいた街と、引っ越した月。家族に「あのころ、どこか病院に行ってなかった?」と聞く。マイナポータルで過去の医療費通知や薬剤情報を確認する(2021年9月以降の分が見られます)。加入していた健康保険組合に医療費通知の再発行を頼む。当時のスマホやパソコンの検索履歴、カレンダー、LINEのやりとり。「病院 〇〇駅」で検索した記憶が、日付つきで残っていることがあります。
一つ手がかりが出ると、芋づるで出てきます。全部を一度に思い出そうとしなくていい。
「もう残っていないだろう」と電話をやめる
カルテの法定保存は5年です。でも、実際にはそれより長く残っていることがよくあります。13年前のカルテが、かかった病院すべてに電話したら出てきた、という人がいます。閉院していても、引き継いだ医療機関や、地域の医師会にカルテが移っていることがある。
電話が怖い人は多い。だから、聞くことを紙に書いておく。「〇年ごろに受診した△△です。診療録が残っているか確認をお願いします。障害年金の初診日の証明に必要です」。これだけです。残っていれば「受診状況等証明書」を頼む。残っていなければ「残っていない」と言われた日付と担当者名をメモする。その記録自体が、次の手続きで使えます。
なお、自分のカルテは、個人情報保護法にもとづいて開示を請求できます。閉院していなければ、昔の病院でも対象です。
年金事務所で、あいまいな記憶を断定して話す
「たしか2015年の春だったと思います」。この一言が、相談の記録(事跡)に残ります。あとで資料を見て2013年だと分かったとき、「最初は2015年と言っていた」が矛盾として残る。
初診日がはっきりしないうちは、「確認中です」でいい。断定しなくていい。年金事務所の相談は予約制なので、家の中の資料を並べてから予約する順番が安全です。窓口の説明も、そのまま鵜呑みにしないでください。20歳前の初診なのに「未納だからもらえない」と案内された、初診日を後ろにずらすよう勧められた、という話が実際にあります。おかしいと思ったら、このページに戻って確かめてください。
第三者証明を「頼める人がいない」で止める
第三者証明は、初診当時のことを知っている「家族以外」の人に、「当時この病院にかかっていた」と書いてもらう書類です。三親等内の親族(親・きょうだい・おじおば)には頼めません。原則2人分。
「頼める人がいない」と感じたら、範囲を広げます。当時の担任の先生、部活の顧問、職場の上司や同僚、隣の家の人、民生委員、通っていた塾の先生。実際に、小学生のときの入院を元担任らの証明で初診と認めた裁決があります。頼む相手に渡せる公式の説明資料が年金機構のサイトにあるので、口で説明しなくていい。「これを読んで、覚えている範囲で書いてください」で足ります。
20歳より後の初診では、第三者証明は診察券などの客観的な資料と組み合わせて使います。20歳前の初診なら、第三者証明だけでも認められる場合があります。
「いつか申請しよう」で、資料だけが減っていく
記録は、時間とともに失われます。カルテは廃棄され、病院は閉じ、証明してくれる人は転居し、記憶は薄れる。申請そのものに時効はなく、初診日が30年前でも請求できます。でも、証明の材料は待ってくれない。
だから、いま申請するつもりがなくても、初診日の資料の確認だけは今日始めてください。病院名と、だいたいの時期を、スマホのメモに書く。それだけで、数年後の自分がずいぶん楽になります。
数字で見ると
カルテが残っていないケースは、制度側も想定済みです。そのために「受診状況等証明書が添付できない申立書」という公式の様式と、第三者証明・参考資料による認定の取り扱いが、平成27年から明文で定められています。20歳前の初診については、2番目以降の病院の記録で「20歳前に初診がある」と示せれば、最初の病院の証明が不要になる緩和も、平成31年2月から始まっています。
つまりこの10年で、道は増えています。「昔は無理だったらしい」という話を聞いても、いまの制度で確かめてください。
よくある質問
Q. 最初は内科で、精神科に行ったのはずっと後です。初診日はどちらですか。
原則は、その症状で最初に診療を受けた内科の日です。不眠や体調不良で内科にかかり、あとで精神科を紹介された、という流れなら、内科が初診の医療機関にあたる可能性が高い。「精神科の初診」を申告してしまうと、あとで内科の記録と矛盾します。両方の日付を整理して、年金事務所に「この流れです」と示してください。
Q. カウンセリングにはずっと通っていました。それは初診になりますか。
医師のいないカウンセリングルームや学校のカウンセラーへの相談は、それだけでは初診日になりません。初診日は「医師または歯科医師の診療」を受けた日です。カウンセラーに勧められて受診した内科などが初診になりえます。
Q. 長く通院していない期間があります。その後の再受診が初診になりますか。
いわゆる「社会的治癒」の考え方があり、通院も服薬もせずに普通に生活できていた期間が長い場合、再発後の受診を初診とみる余地があります。ただし明確な基準は公表されておらず、個別判断です。復職して働いていても症状と治療が続いていた場合は認められなかった裁決もあります。通院していなかった期間と、その間の生活を整理して、年金事務所や社労士に相談してください。
Q. 健康診断で引っかかった年と、病院に行った年が違います。
健診で数値の異常を指摘されただけの日は、原則として初診日になりません。初診日は、そのあと治療のために医師の診療を受けた日です。どちらの年に何に加入していたかで制度が変わることがあるので、分けて整理してください。
次の一歩
今日やることは一つです。お薬手帳と診察券を、全部、机の上に出す。日付順に並べて、スマホで写真を撮る。それが、このページで言う「最初の一歩」です。
病院に電話するのは、そのあと。聞くことを紙に書いてから。
自分で進めるか、誰かに頼むか迷っているなら → 自分で・アプリで・専門家に頼む、の比べ方
しんどくて手が止まっているなら → 申請がしんどいときの「小分け」の進め方
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出典
- 日本年金機構「受診状況等証明書」「受診状況等証明書が添付できない申立書」「第三者証明」各様式・記入例 ・ 確認日 2026-08-31
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