リード(直答)
統合失調症は、障害年金の対象として、認定基準に名前で書かれている病気です。「対象になるか」で悩む必要はありません。悩みどころは別のところにあります。
一つは、初診日。10代の不登校のころに一度受診していた、幻聴が始まる前に不眠で内科にかかっていた。どこを初診とするかで、納付要件も、基礎か厚生かも変わる。もう一つは、経過の伝え方。認定基準は、統合失調症について「発病時からの療養および症状の経過を十分考慮する」としています。いまの診察室の様子だけでなく、これまでの波が伝わっているかが見られる。
そして、本人が自分の状態を「困っている」と感じにくい病気でもある。だから家族が動くことが多い。このページは、本人にも家族にも読めるように書いています。
審査で本当に見られているのは、この4つ
1. 発病からの経過
数年かけて良くなることも、急に悪化することもある病気として、制度側にも織り込まれています。入院の回数と時期、再発のきっかけ、服薬が途切れた時期とそのあと何が起きたか。「いまは落ち着いている」でも、そこに至るまでの経過が診断書と申立書に載っていれば、評価は「いまの一点」ではなく「線」で行われます。
2. 陽性症状だけでなく、陰性症状
幻聴や妄想は目立つので、診断書に載りやすい。見落とされやすいのは陰性症状です。意欲が出ない、一日中横になっている、人と話すのが極端に減った、身なりに構わなくなった。これらは「病気」ではなく「性格」や「怠け」に見えてしまう。でも、日常生活能力の7つの場面(食事、清潔、お金、通院と服薬、人とのやりとり、危ないときの対処、社会性)で見られているのは、まさにこの部分です。
3. 服薬と通院が、誰の支えで続いているか
服薬を自分で管理できているか、家族が毎日確認しているか、訪問看護が入っているか。「通院と服薬」は7項目の一つで、「一人暮らしで誰の助けもない」前提で評価されます。家族が薬を出して、飲んだのを見届けている生活は、「服薬できている」ではなく「援助があって服薬が成立している」と伝わる必要があります。
4. 働いているなら、その中身
作業所、就労継続支援B型、障害者雇用で働いている人は多い。ガイドラインは、これらの就労を1級・2級の可能性を検討する対象としています。働いていることではなく、どんな配慮と支えの中で働けているかが見られます。
結論を分けた実例
公開されている審査請求の裁決から、統合失調症の事例を3つ。
常時の援助を要する状態で、1級(容認) 旧厚生年金保険法のもとで初診日があった方の事例です。障害認定日の状態は、日常生活に常時の援助を要する1級相当と認められ、処分が取り消されました。
「家事ができる日もある」で、1級は認められず(棄却) 統合失調感情障害の方で、2級への減額改定を争った事例です。社会資源に依存し就労は困難であるものの、自ら家事を行える日もあるなど、日常生活が全面的に不能な1級の状態ではないとして、2級が維持されました。1級と2級の境目が、どこにあるかを示す例です。
不登校のときの受診は、初診ではなかった(容認) 不登校のときに受診した記録があり、それを初診日とすると20歳前傷病になる事例です。審査会は、当時の受診は統合失調症によるものではなく、後年の精神科受診が初診日だと認定しました。その結果、通常の障害基礎年金として納付要件を満たし、処分が取り消されました。「昔の受診があるから20歳前」と自動では決まりません。
同じ道を歩いた人が、つまずいたところ
本人が「困っていない」と言う
病識が持ちにくいのは、この病気の症状の一部です。本人が「大丈夫」「働ける」と言うとき、家族はどうすればいいか。本人の言葉を否定せずに、家族が見ている事実を「別の情報」として診察に持ち込むことです。「本人は大丈夫と言っていますが、この1か月、入浴は2回でした」「服薬は私が毎朝手渡しています」。家族の同席は毎回でなくていい。年に1〜2回で、先生の見え方が変わります。申立書も、家族が代筆できます。
落ち着いている時期に、申請する
再発を繰り返す病気なので、「いまは落ち着いているから申請しても通らない」と待ってしまう。でも、認定基準は経過を考慮するとしています。落ち着いている時期の申請でも、これまでの入院歴と再発の経過、いまの生活が誰の支えで成り立っているかが載っていれば、評価はいまの一点では行われない。むしろ、落ち着いている時期のほうが、書類を整える体力がある。
昔の受診を、どう扱うか分からない
10代の不登校のとき、大学のころの不眠。統合失調症の人は、発症前に別の症状で受診していることが多い。それが初診になるかどうかは、当時の受診が「この病気の症状によるもの」だったかで決まります。上の実例のとおり、審査会は「不登校時の受診は統合失調症によるものではない」と判断することもある。自分で決めず、当時の記録と、いまの主治医の見立てを整理して、年金事務所に「この流れです」と示してください。→ 初診日が証明できないとき
更新で「良くなった」と書かれる
統合失調症は、治療で陽性症状が落ち着くと、診察室では「だいぶ良い」に見えます。でも陰性症状と生活の支えは変わっていない。更新の診察でも、初回と同じです。良くなった部分は事実として、続いている困難も事実として、両方が載るように。→ 更新が不安・下がった
数字で見ると
厚生労働省の令和6年度の抽出調査では、新規に決まった障害年金の70.3%が精神の障害の診断書によるものでした。統合失調症は、その中でも認定基準に名前で書かれた、制度の中心にある病気の一つです。
精神の障害の等級判定ガイドラインは、都道府県による認定のばらつきをなくすために平成28年に作られ、誰でも読めます。「どうせ運次第」ではなく、公表された物差しに沿って実態を伝えることに意味がある制度です。
よくある質問
Q. 本人が申請を嫌がります。家族だけで進められますか。
年金事務所の相談も書類の提出も、家族が代理で行えます。申立書も家族が代筆できます(代筆者の氏名と続柄を書く欄があります)。ただし、診断書は本人の受診が必要です。本人の同意なく進めることは難しいので、「年金は生活のための権利で、あなたの価値を決めるものではない」ことを、時間をかけて伝えてください。
Q. 幻聴はもうありません。それでも対象ですか。
陽性症状がなくても、陰性症状と日常生活の制限があれば、それが評価の対象です。「幻聴がない=軽い」ではありません。意欲、対人関係、身の回りのこと、服薬の管理が、誰の支えでどう回っているかを伝えてください。
Q. 依存症も併せて診断されています。
アルコールや薬物による障害は、幻覚や妄想などの精神病性障害を示している場合は認定の対象になりえます。統合失調症と併存している場合は、全体像で総合的に認定されます。診断名の数ではなく、生活の支障が漏れなく載っているかが大事です。
次の一歩
家族が読んでいるなら、今日やることは一つです。この1か月の、本人の入浴・食事・服薬・外出を、思い出せる範囲で数字にする。「入浴2回」「服薬は毎朝手渡し」「外出は通院のみ」。それを次の診察に持っていく。
本人が読んでいるなら、いま落ち着いているうちに、これまでの入院と再発の時期を年表にしてください。それが申立書の骨になります。
自分で進めるか、誰かに頼むか迷っているなら → 自分で・アプリで・専門家に頼む、の比べ方
関連コラム
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出典
- 厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第8節 精神の障害(統合失調症、依存症) ・ 確認日 2026-08-31
- 厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」 ・ 確認日 2026-08-31
- 厚生労働省「障害年金の業務統計等(令和6年度)」 ・ 確認日 2026-08-31
- 社会保険審査会 裁決例(該当3件は実例ページに原文リンク)