診断書で困ったとき

リード(直答)

主治医に診断書を頼んだら、渋られた。あるいは断られた。やっと受け取ったら、家での自分より、ずいぶん元気な人のことが書いてある。

この2つは、障害年金でいちばん多い「詰まりどころ」です。そして、どちらも、あなたの伝え方が悪かったせいでも、先生が冷たいせいでもありません。診察室で見えるあなたと、家で過ごすあなたのあいだに、誰も埋めていない隙間があるだけです。

このページでは、その隙間を埋める順番を書きます。「重く書いてもらう」話ではありません。普段のあなたが、漏れなく、事実のまま紙に載るための話です。

いま診断書を手にして提出直前の方は、先に「受け取ったあとに確認する4か所」へ。まだ頼めていない方は、このまま読み進めてください。

審査で本当に見られているのは、この4つ

障害年金の審査では、審査する人があなたに会いません。診断書と申立書に書かれたことがすべてです。だから「診断書で8〜9割決まる」と言われます。では、その診断書のどこが見られているのか。精神の障害用の様式でいうと、次の4か所です。

1. 日常生活の7つの場面

食事、身の回りの清潔、お金の管理と買い物、通院と服薬、人とのやりとり、危ないときの対処、社会的な場への参加。この7つについて「できる」から「できない」までの度合いが評価されます。

たとえば「お金の管理」なら、給料日から10日でなくなる、通販の箱が開けないまま積んである、督促の封筒を見られない。「人とのやりとり」なら、電話が鳴ると心臓が跳ねて出られない、コンビニのレジで声が出ない。こういう場面の一つひとつが、7項目のどれかに対応しています。診察でこの7つの実態が伝わっているか。ここが出発点です。

2. 「一人暮らしで、誰の助けもない」前提で見られる

厚生労働省が医師向けに出している記載要領には、日常生活能力は「単身で生活し、援助を受けていない場合」を想定して判断する、と書かれています。お母さんが週3回ごはんを持ってきてくれる。役所の書類は父が代わりに書いている。職場が仕事を減らしてくれている。こうした支えで回っている生活は、支えを外したらどうなるか、まで含めて評価される仕組みです。ただし、その支えを先生が知らなければ、「一人でできている人」として書かれます。

3. 就労欄には、仕事の中身が書かれる

「働いている」の一言では終わりません。勤務日数、短時間かどうか、休みがちか、職場でどんな配慮を受けているか。診断書の就労欄に書かれるのはそういう中身です。働いていること自体は不利ではありません。働けている理由(配慮や援助)が伝わっていないことが、不利になります。

4. 現症日と空欄

意外と多いのが、内容以前のつまずきです。診断書には「いつの状態を書いたか(現症日)」のルールがあり、認定日請求なら障害認定日から3か月以内の状態でなければ使えません。空欄や記入漏れがあれば出し直しです。受け取ったら、中身を読む前にここを見てください。

結論を分けた実例

公開されている審査請求の裁決から、診断書が争点になったものを3つ。名前は出ませんが、どれも実際にあった話です。

進行する病気なのに「全項目が改善」と書かれていた(容認) 副腎白質ジストロフィーという進行性の病気で、更新時に等級を下げられた方の事例です。審査会は、前回の診断書から全項目が「改善」になっているのは病気の性質と矛盾すると指摘し、診断書は正確性に欠けるとして減額処分を取り消しました。診断書は絶対ではなく、実態との整合性が見られている、ということです。

認定日から3か月を超えた診断書でも認められた(容認) 自閉スペクトラム症の方で、障害認定日から3か月を超えた現症日の診断書は使えないとされた事例です。新型コロナ感染への不安で通院できなかった事情などから、その診断書で判断できるとして処分が取り消されました。「期限を過ぎたからもう無理」と決める前に、通えなかった理由を整理する価値があります。

当時診ていない医師が、カルテなしで書いた診断書(棄却) 統合失調症の認定日請求で、カルテの保存期限が切れていたため、家族の話をもとに作られた診断書が出された事例です。「作成の経過に照らして認定は困難」とされ、却下が維持されました。診断書は、その時期にあなたを診ていた医師の記録に支えられて初めて力を持ちます。過去の状態を証明するときほど、当時の記録が要ります。

診断書が争点になった実例をすべて見る

同じ道を歩いた人が、つまずいたところ

診察の日だけ、ちゃんとしてしまう

通院の日は、なんとか身支度をして、それなりの顔で診察室に入る。先生が見ているのはその姿です。家で3日お風呂に入れなかったこと、起き上がれずに昼を抜いたこと、宅配の受け取りができなくてインターホンを無視したこと。「変わりありません」で終わった診察の裏側は、あなたが言わない限り、先生には見えません。

対処は、演じることをやめる、ではありません。診察の前に「普段のいちばん大変な日」を思い出して、紙に3行だけ書いておくことです。頻度と期間で書いてあると、先生はそのまま診断書の項目に落とせます。正確な数字でなくて構いません。

たとえば、こんな3行です。

・お風呂は週1回くらい。洗濯は2週間ためてから母に頼んでいます

・食事は母が持ってくる日(週3日)以外は、菓子パンか抜き

・先月は10日くらい家から出ていません。通院日も行けずに1回飛ばしました

書き終えたら、それを診察で渡すだけです。読み上げなくていい。障害年金を専門にしている社労士の多くが、依頼者にまずこの「症状メモを毎回渡す」習慣を勧めています。書けなかった日があってもいい。次の診察までに、思い出せた分だけで足ります。

「できません」と言うのが、先生に悪い気がする

多くの人が、先生との関係を壊したくなくて、大変さを飲み込みます。その気持ちは大事にしていい。だから、言い方だけ変えます。「入浴できません」ではなく「お風呂に入れるようになりたいのですが、いまは週1回が精一杯です」。伝わる事実は同じで、診察の空気は守れます。実態を偽る言い換えではなく、伝え方の工夫です。

口で言うのが難しければ、紙で渡していい。「診察で話せないなら、印刷して渡してしまえばいい」。実際にそうして、家での状態がそのまま診断書に載った人は少なくありません。

助けてもらっていることを、言い忘れる

「ごはんは食べています」「買い物も行けています」。嘘ではない。でも、そのごはんは母が作り置きしたもので、買い物は姉が車を出して一緒に行っている。本人にとっては当たり前すぎて、言うほどのことに思えない。ここが、いちばん静かに落ちる穴です。

診断書は「一人暮らしで、誰の助けもない」前提で評価されます。だから、援助は「誰が・何を・どのくらい」の形で伝えると、そのまま載ります。「母が週3回、夕食を持ってきてくれる」「役所の書類は父が代わりに書いている」「職場が電話対応を外してくれている」。一見できているように見える生活が、誰のどんな支えで成り立っているか。これは大げさに言うことではなく、正確に言うことです。家族に一度、診察に同席してもらうのも有効です。毎回でなくていい。年に1〜2回で、先生の見え方が変わります。

頼んだら、渋られた・断られた

断られた人の話を集めると、理由は5つの型に分かれます。「まだ軽いと思う」「もらえないから無駄」「診察室の情報だけでは書けない」「書き方が分からない」「忙しい」。どれも、あなたの症状が本当に軽いという判定ではありません。先生は病気の専門家であって、年金の専門家ではない。そこを埋めるのは、あなたと、あなたの側に立つ人の仕事です。

だから、準備で解けることが多い。生活実態のメモを渡す。厚労省の「診断書記載要領」を「参考にこちらを」と添える(失礼ではありません。国が医師向けに出している公式の資料です)。年金事務所で、必要な診断書の種類と現症日を確認してから頼む。口頭が難しければ手紙で頼む。

それでも断られたら。医師法第19条第2項は、診察した医師は診断書の交付を求められたら「正当の事由がなければ、これを拒んではならない」と定めています。「軽いと思うから」は、内容を軽く書く理由にはなっても、交付そのものを断る正当な事由とは限りません。病院の相談員(ソーシャルワーカー)や年金事務所に、その旨を相談する道があります。内容をどう書くかは先生の医学的判断ですが、「書いてもらえるかどうか」は別の問題です。

受け取って、そのまま封筒に入れてしまう

提出後に誤りに気づいても、差し替えが認められる保証はありません。追加の診断書代を払ったのに、訂正版は受け付けてもらえなかった、という話は珍しくない。提出前の確認が、実質的に最後の機会です。

見るのは4か所。現症日が要件に合っているか。空欄がないか。日常生活の7項目と「日常生活能力の程度」の5段階が、普段のあなたと合っているか。就労欄に、配慮や休みがちな実態が入っているか。

事実と違う箇所があったら、記録を添えて先生に相談することは失礼ではありません。「等級を上げてほしい」ではなく「ここは実際こうです」と、事実の訂正をお願いする。内容を確認するのは請求者の正当な行動です。

数字で見ると

厚生労働省の令和6年度の抽出調査では、新規に決まった障害年金のうち70.3%が精神の障害の診断書によるものでした。うつ病や発達障害での申請は、制度の中でいちばん標準的なケースです。「精神疾患ごときで」というためらいは、実態と逆です。

同じ年度の新規裁定は146,225件、非該当は18,982件(13.0%)。裏を返せば、87%は支給に至っています。診断書で詰まっている今の状態は、この87%に入る前の、ごく普通の通過点です。

よくある質問

Q. 転院したばかりで、今の先生は私のことをよく知りません。書いてもらえますか。

現在の障害状態の診断書は、いま診てもらっている医師が書きます。転院して日が浅くても、診療にもとづいて書ける範囲で作成できます。これまでの経過を伝える資料(前の病院の紹介状、お薬手帳、あなたのメモ)を渡すと書きやすくなります。「転院したから書いてもらえない」は原則、誤解です。ただし障害認定日の時点の診断書は、当時の病院に頼みます。

Q. 薬をやめています。不利になりますか。

審査では服薬状況が考慮されますが、等級判定ガイドラインには、通院や薬物治療が困難な場合は「その理由や他の治療の有無及びその内容を考慮する」とあります。先生の方針で処方が止まっている、副作用が強い、体質に合わない。理由があるのに「服薬なし」とだけ伝わると、軽いと受け取られる余地が残ります。飲んでいない理由を、診察と書類で一言添えてください。

Q. 心理検査を受けていません。先に検査が必要ですか。

精神の障害の評価の中心は、検査の数値ではなく日常生活能力の状態です。心理検査を受けていないことは申請の妨げになりません。「検査を受けてからじゃないと」と先延ばしにする必要はありません。

Q. 精神科ではなく、内科の先生にしかかかっていません。

精神科の先生でなくても、当時あなたを診察していたなら、その診断書が使えないとは限りません。公開されている裁決に、そう判断したものがあります。下垂体の病気に伴う精神症状の事例で、精神科以外の医師の診断書を出す機会を与えなかった手続きが不適正とされ、処分が取り消されました。まず、いまの先生に相談してください。書けないと言われたら、その理由を聞いて、年金事務所に持ち込む。それが順番です。

Q. 通院がぎりぎりで、診察に行ける自信がありません。

日本年金機構の医師向け案内では、診断書に必要な事項を記入できる場合には、オンライン診療にもとづく診断書の作成も認められています。体調や距離の問題で通院が難しい方は、オンライン診療に対応した医療機関という選択肢も含めて、先生と相談できます。

次の一歩

診察がまだなら、「普段のいちばん大変な日」を3行、紙に書くところから。頻度と期間で。それを次の診察で渡す。それだけで、診断書に載る景色が変わります。

診断書を手にしているなら、封をする前に4か所を確認する。合っていれば、そのまま次の書類へ。違っていれば、記録を添えて先生に相談する。

自分でやるか、誰かに頼むか迷っているなら → 自分で・アプリで・専門家に頼む、の比べ方

しんどくて手が止まっているなら → 申請がしんどいときの「小分け」の進め方

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出典

  • 厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」・「診断書(精神の障害用)記載要領」 ・ 確認日 2026-08-31
  • 医師法第19条第2項 ・ 確認日 2026-08-31
  • 厚生労働省「障害年金の業務統計等(令和6年度)」 ・ 確認日 2026-08-31
  • 社会保険審査会 裁決例(該当3件は実例ページに原文リンク)

よくある誤解