さかのぼって請求したい(遡及請求)

リード(直答)

障害年金の存在を知ったのが、発症から何年も経ってから。「もっと早く知っていれば」と思った人は、次に必ずこう調べます。「さかのぼって、もらえるのか」。

答えは、条件つきで「はい」です。障害認定日(原則、初診日から1年6か月後)の時点で等級に該当していたなら、その翌月分からさかのぼって受け取れる。ただし、実際に受け取れるのは時効で直近5年分まで。そして、認定日のころの状態を書いた診断書が、もう1枚必要です。

この「もう1枚」が、遡及の壁です。当時の病院にカルテが残っているか。当時、通院していたか。ここで決まります。このページは、その壁を確かめる順番と、壁を越えられなかったときに残る道を書いています。

審査で本当に見られているのは、この3つ

1. 認定日の「前後3か月」の状態

さかのぼる請求(障害認定日請求)には、障害認定日から3か月以内の状態を書いた診断書が必要です。診断書を書くのは、当時あなたを診ていた医師で、当時のカルテにもとづいて書きます。いま通っている病院が当時と同じなら、カルテから書ける。転院していれば、当時の病院に頼む。当時、通院していなければ、原則この診断書は作れません。

2. 当時のカルテに、生活の様子が書いてあるか

診断書は「作れる」だけでは足りません。公開裁決には、こういう棄却例が並びます。当時本人を診察していない医師が、家族の話をもとに作った診断書。認定日から5か月以上あとの状態を書いた診断書と、知人の申述。認定日から21年後の状態と全く同じ内容で書かれた診断書。どれも「当時の診療録から日常生活能力を具体的に確認できない」として退けられています。当時のカルテに、当時の生活の困難が記録されているか。ここが、書類の形より重い。

3. 5年の時効と、請求の「型」

さかのぼりが認められても、受け取れるのは請求時点から直近5年分まで。初診から10年経って請求した人が、10年分もらえるわけではありません。逆に言えば、いま請求すれば、これ以上は消えない。

そして、認定日請求と事後重症請求(今の状態での請求)は、同時に出す型があります。認定日時点では該当しないと判断された場合に備えて、今の状態での請求を併せて行う。遡及か現在かの二者択一で悩む前に、年金事務所で「両方の形で出せるか」を確認してください。

結論を分けた実例

公開されている審査請求の裁決から、認定日の診断書が争点になったものを3つ。

認定日から3か月を超えた診断書でも、事情があれば(容認) 自閉スペクトラム症の方で、認定日から3か月を超えた現症日の診断書は使えないとされた事例です。新型コロナ感染への不安で通院できなかった事情などから、その診断書で判断できるとして処分が取り消されました。「期限を過ぎたからもう無理」と決める前に、通えなかった理由を整理する価値があります。

認定日には該当せず、今の状態で2級(一部容認) 気分変調症の方で、認定日請求と事後重症請求を併せて出していた事例です。障害認定日の時点は等級に該当しないとされました。一方、請求日の時点はヘルパーを要する生活状況などから2級に該当するとして、事後重症の部分を3級とした処分が取り消されました。さかのぼりが通らなくても、同時に出していた「今の請求」が救った形です。

約15年前の状態を、あとから作った診断書では(棄却) うつ病の方の認定日請求です。約15年前の障害認定日の状態を当時の診療録で具体的に確認できず、あとから作成された追加の診断書も客観的資料にもとづくと認められないため、処分が維持されました。時間が経つほど、当時の記録だけが頼りになります。

認定日・遡及が争点になった実例をすべて見る

同じ道を歩いた人が、つまずいたところ

「5年分」を、まとまったお金として先に数える

遡及が通れば、最大5年分がまとめて振り込まれます。その金額を先に計算して、生活の計画を立ててしまう。でも、遡及は資料の要件がいちばん厳しい請求です。通らなかったときの落差が大きい。まず「今の状態での請求」を確実に組み立てて、遡及は「通ればプラス」として並行する。順番を逆にしないでください。

認定日のころの通院の「空白」を、あとで知る

「認定日のころ、通院していましたか」。この質問に「あの時期はしんどすぎて行けなかった」と答える人は多い。通院していない期間があると、認定日請求ができず、事後重症請求になることがあります。そして、これは申請の段階まで知られていない。初診日が分かった時点で、1年6か月後の前後3か月に通院記録があるかを、先に確かめてください。

当時の病院に、聞く前から諦める

認定日のころの病院が今と違う場合、当時の病院に診断書を頼むことになります。「もう何年も行っていないのに、書いてくれるはずがない」と、電話する前に諦める人が多い。カルテが残っていれば、当時の記録から書ける医師は少なくありません。頼み方は、いまの主治医への頼み方と同じです。年金事務所で必要な診断書の種類と現症日を確認してから、「障害認定日時点の診断書」であることを明確にして依頼する。

事後重症の「65歳の壁」を知らない

今の状態での請求(事後重症)は、65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があります。申請そのものに時効はなく、初診日が30年前でも請求できますが、この請求方法には年齢の期限がある。65歳が近い人は、遡及の組み立てに時間をかけすぎないでください。先に、今の状態での請求を出す。

数字で見ると

初診日が何十年前でも、申請はできます。時効があるのは「さかのぼって受け取れる分」だけで、これが直近5年分。「もう時効だろう」と諦めるのは、たいてい誤解です。

年金は、受給権が発生した月の翌月分から始まります。認定日請求なら認定日のある月の翌月から(5年分まで)、事後重症なら請求した月の翌月から。事後重症は、請求が1か月遅れるごとに、1か月分が消える仕組みです。遡及を検討している間にも、この時計は動いています。

よくある質問

Q. 遡及のための診断書は、いくらかかりますか。

診断書などの文書料は病院ごとに定められ、原則自己負担です。遡及請求では、認定日時点の分と現在の分で2通必要になるため、費用も2通分かかります。通らなくても返ってきません。費用も含めて計画を立ててください。

Q. 認定日のころは働いていました。遡及は無理ですか。

働いていたこと自体で決まりません。認定日の時点の働き方の中身(配慮、休みがち、援助)が、当時の記録に残っているかどうかです。ただ、一般雇用でフルタイムを問題なくこなせていた記録なら、認定日時点は等級に該当しにくいのは事実です。その場合も、今の状態での請求は別に立てられます。

Q. 社会的治癒があると、認定日が変わると聞きました。

長く通院も服薬もせずに生活できていた期間がある場合、再発後の受診を初診とみて、認定日もそこから数える考え方(社会的治癒)が実務上あります。ただし明確な基準は公表されておらず、復職して働いていても症状と治療が続いていた場合は認められなかった裁決もあります。→ 初診日が証明できないとき

次の一歩

今日やることは、初診日から1年6か月後の日付を計算して、その前後3か月に通院していたかを確かめることです。お薬手帳、診察券、領収書で。

通院していたなら、当時の病院にカルテが残っているかを電話で確認する。していなかったなら、今の状態での請求を先に組み立てる。どちらの場合も、年金事務所で「認定日請求と事後重症を同時に出せるか」を聞いてください。

自分で進めるか、誰かに頼むか迷っているなら → 自分で・アプリで・専門家に頼む、の比べ方(遡及は、頼む価値が大きい場面の一つです)

関連コラム

  • 障害年金の遡及請求 — 最大5年分をさかのぼる条件と、「認定日の診断書」の現実(/columns/sokyuu-seikyuu)
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出典

  • 日本年金機構「障害認定日による請求」「事後重症による請求」 ・ 確認日 2026-08-31
  • 国民年金法第102条(時効)・第30条の2(事後重症の年齢要件) ・ 確認日 2026-08-31
  • 社会保険審査会 裁決例(該当3件は実例ページに原文リンク)

よくある誤解