リード(直答)
がんは、障害年金の対象です。多くの人がそれを知らない。「がん=医療費の話」で、年金は頭に浮かばない。でも、抗がん剤の副作用で日中の半分は横になっている、手術のあと働けなくなった、再発して治療が続いている。こういう状態は、認定基準の中に、はっきりと書かれています。
見られるのは、病期(ステージ)や腫瘍の大きさではありません。認定基準は、①がんそのものによる局所の障害、②がんによる全身の衰弱や機能の障害、③治療の効果として起こる全身衰弱や機能の障害(抗がん剤などの副作用を含む)を総合して判断する、としています。つまり、倦怠感や副作用で生活がどれだけ制限されているかが、評価の中心です。
このページは、「がんで年金?」という最初の驚きから、「自分の場合、何を伝えればいいか」まで、一本の道で書いています。
審査で本当に見られているのは、この4つ
1. 一般状態区分(日中、どれだけ横になっているか)
内部疾患やがんの診断書には、日常生活の制限度を5段階で示す「一般状態区分」の欄があります。無症状で普通に働ける段階から、終日横になって介助が必要な段階まで。目安として、「日中の50%以上就床している」状態が2級、「終日就床し常に介助が必要」が1級、「軽い労働はできないが、日常生活はできる」が3級のあたりです。
だから、伝えるべきことは「1日のうち何時間、横になっているか」「週に何日、外出できるか」という数字です。
2. 治療の副作用
抗がん剤による強い倦怠感、手足のしびれ、吐き気、味覚の変化、感染への弱さ。これらは「治療の効果として起こる障害」として、認定の対象です。「治療のせいだから病気の症状ではない」と自分で切り分けないでください。治療が続いている限り、副作用は生活の制限です。
3. 局所の障害
手術で失ったもの、機能。人工肛門や尿路変更、喉頭の全摘、手足の切断、乳房の切除後の上肢の運動制限。これらはそれぞれの部位の認定基準でも評価され、複数の障害を併せて上位の等級になることがあります。人工肛門は造設から6か月、喉頭全摘はその日が認定日になる特例があり、1年6か月を待ちません。
4. 血液のがん(白血病・リンパ腫・骨髄腫)
血液・造血器のがんは、検査所見(ヘモグロビン、血小板、好中球など)と一般状態区分の組み合わせで認定されます。造血幹細胞移植を受けた場合、術後1年間は従前の等級が維持されます。移植=打ち切りではありません。
結論を分けた実例
公開されている審査請求の裁決から、がんの事例を3つ。
肝転移と抗がん剤の副作用を総合して、2級(容認) 乳がんで肝転移のある方の事後重症請求です。一般状態区分「エ」(日中の50%以上就床)、肝転移、抗がん剤の副作用、予後などを総合して2級に該当すると認められ、処分が取り消されました。
化学療法後の倦怠感としびれで、3級(容認) 乳がんの術後局所再発の方の事例です。化学療法後の強い全身倦怠感、手足のしびれ、家事や外出・労働の制限を総合して、悪性新生物による障害が3級に該当するとして処分が取り消されました。副作用が「労働の制限」として評価された例です。
更新で下げられたが、修正診断書で2級継続(容認) 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫の方で、更新時に等級を下げられた事例です。修正された診断書が採用され、難治性の下痢、繰り返す入院、車椅子の生活などを総合して2級の継続が認められ、処分が取り消されました。
同じ道を歩いた人が、つまずいたところ
「がんは対象外」と思って、調べもしない
いちばん多いつまずきは、申請しないことです。がんの治療中は、病院からもらう案内が医療費と高額療養費に集中していて、年金は出てこない。相談支援センターに「障害年金の対象になるか」と聞いてみてください。「聞かれたことがない」と言われても、認定基準には書いてあります。
診察で、副作用のつらさを言わない
主治医との会話は、治療の効果と次の予定で埋まります。「だるくて一日中寝ている」「食事が作れない」「階段が上れない」は、治療の話の中では出てこない。診断書の一般状態区分は、この生活の実態から書かれます。次の診察で、「1日に横になっている時間」と「できなくなった家事」を、1行ずつ伝えてください。
「治療が終わったら元に戻る」と思って、申請を待つ
治療中の状態で請求できます。事後重症請求なら、請求した月の翌月分から。治療が終わって落ち着いてから、では、治療中のいちばんつらい時期が年金の対象から外れます。いま横になっている時間が長いなら、いま請求する意味がある。
初診日を、がんと診断された日だと思う
初診日は、その症状で初めて医師の診療を受けた日です。がんと確定した日ではなく、体調不良や健診の異常のあとに受診した日。数か月から1年、ずれることがあり、それが会社員のときか退職後かで制度が変わります。特に、休職・退職を挟んでいる人は、月単位で丁寧に。→ 初診日が証明できないとき
数字で見ると
一般状態区分の目安は、「日中の50%以上就床」で2級です。1日24時間のうち、日中を12時間とすれば、6時間以上横になっている生活。それを、数字で伝えられるかどうかが分かれ目です。
障害厚生年金なら3級もあります。「軽い労働はできないが、日常生活はできる」段階が3級の目安。抗がん剤で働けない期間は、ここに当たることが多い。
よくある質問
Q. がんの治療で休職し、傷病手当金をもらっています。
傷病手当金は通算1年6か月で終わり、障害年金の認定日は初診日から1年6か月。手当金が尽きるころに年金を請求できる設計です。受給中でも申請でき、両方が決まれば調整されるだけ。→ 傷病手当金から障害年金へ
Q. 寛解しました。年金は止まりますか。
更新(障害状態確認届)で、その時点の状態が確認されます。治療が終わり、生活の制限がなくなれば、等級に該当しなくなることはあります。ただし、それまで受け取った分を返すことはなく、再発や悪化のときは再開を求める手続きがあります。→ 更新が不安・下がった
Q. 痛みがひどいです。痛みは対象外と聞きました。
痛みそのものは原則対象外ですが、認定基準は例外を挙げていて、悪性新生物に随伴する疼痛はその一つです。発作の頻度、強さ、持続時間で判断され、軽い労働以外に支障がある場合は3級などに該当しえます。痛みの記録(いつ、どれくらい、何ができなかったか)を残してください。
次の一歩
今日やることは、この1週間を思い出して、「横になっていた時間」を1日ごとに書くことです。だいたいでいい。
次の診察で、それを主治医に見せて、「一般状態区分はどこになりますか」と聞く。それが、がんの障害年金のすべての出発点です。
自分で進めるか、誰かに頼むか迷っているなら → 自分で・アプリで・専門家に頼む、の比べ方
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出典
- 厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第16節 悪性新生物による障害、第14節 血液・造血器疾患による障害 ・ 確認日 2026-08-31
- 日本年金機構「障害認定日の特例」(人工肛門・喉頭全摘等) ・ 確認日 2026-08-31
- 社会保険審査会 裁決例(該当3件は実例ページに原文リンク)