発達障害(ADHD・ASD)と障害年金

リード(直答)

発達障害は、障害年金の対象です。ADHDも、ASD(自閉スペクトラム症)も。学歴が高くても、IQが高くても、関係ない。国の認定基準は、発達障害について「知能指数のみに着眼することなく」、対人関係や意思疎通の困難で日常生活や仕事に支障があることに着目して認定する、としています。

大人になってから診断された人が、いちばん最初に引っかかるのは「生まれつきの特性なのに、初診日は大人のときでいいのか」。いいです。知的障害を伴わない発達障害の初診日は、実際にその症状で医療機関を受診した日。社会人になってから受診したなら、その時点の加入制度(厚生年金なら障害厚生年金)で請求します。

このページは、発達障害の申請で特有の3つの詰まりどころ、「働けている」「話せている」「うつと両方ある」を、どう伝えるかを書いています。

審査で本当に見られているのは、この4つ

1. 対人関係と意思疎通の「困難の中身」

認定基準が着目するのは、社会行動やコミュニケーション能力の障害で、対人関係や意思疎通を円滑に行えないこと。抽象的に聞こえますが、中身は具体的です。指示を一度で理解できず、確認を繰り返して周囲との関係が悪化する。雑談の場で何を話せばいいか分からず、職場で孤立する。電話が鳴ると固まる。言われたことを字義どおりに受け取って、トラブルになる。こういう場面の一つひとつが、評価の材料です。

2. 日常生活の7つの場面(発達障害に特有の現れ方)

食事、清潔、お金、通院と服薬、人とのやりとり、危ないときの対処、社会性。発達障害では、この7つが「できない」ではなく「できるときとできないときの差が極端」「手順を決めれば回るが、決めないと崩れる」という形で現れることが多い。金銭管理で言えば、給料日に衝動的に使い切る。清潔で言えば、風呂に入る手順そのものが億劫で何日も空く。「できます」と答える前に、その「できる」に何の支えや工夫が要るかを思い出してください。

3. 就労の「配慮の中身」

発達障害の人は、働いている割合が高い。だから就労欄が結果を左右します。ガイドラインは、働いていることをもって直ちに日常生活能力が向上したとは捉えない、としています。確認されるのは、仕事の種類、内容、職場で受けている援助、他の従業員との意思疎通の状況です。障害者雇用、就労継続支援A型・B型は、1級・2級の可能性を検討する対象。一般雇用でも、業務の限定、指示の書面化、上司の個別フォローがあるなら、それが「配慮の中身」です。

4. 心理検査の数値ではなく、生活

「WAISを受けてからじゃないと申請できない」と思っている人が多い。精神の障害の評価の中心は、検査数値ではなく日常生活能力の状態です。知能検査などは参考にされますが、数値のみで決まらないことが明記されている。検査を待って申請を先延ばしにする必要はありません。

結論を分けた実例

公開されている審査請求の裁決から、発達障害が関わったものを3つ。

7項目すべてが最も重い判定で、2級から1級へ(容認) 自閉症の方で、2級受給中に1級への額改定を請求した事例です。日常生活能力の7項目がすべて最も重い判定で、家族の常時の援助や作業所の配慮が必要な状態を1級に該当すると認め、処分が取り消されました。「作業所に通えている」ことが軽く読まれなかった例です。

「20歳前傷病」と決めつけられていたが、厚生年金加入中の初診だった(容認) 自閉スペクトラム症と軽度知的障害の方で、20歳前初診の障害基礎年金として不支給とされた事例です。発達期から認定対象となる知的障害があったとは認めず、厚生年金加入中の初診日と、発達障害による3級該当を認めて処分が取り消されました。発達障害は「生まれつき=20歳前」と自動で扱われるものではない、という実例です。

通院できなかった事情があれば、3か月を超えた診断書でも(容認) 自閉スペクトラム症の方で、認定日から3か月を超えた現症日の診断書は使えないとされた事例です。新型コロナ感染への不安で通院できなかった事情などから、その診断書で判断できるとして処分が取り消されました。

発達障害が争点になった実例をすべて見る

同じ道を歩いた人が、つまずいたところ

「困っていること」を、言語化できない

発達障害の人が診察で「特に変わりないです」と答えるのは、嘘ではなく、困りごとが「困りごと」として認識されていないからです。毎日起きていることは、本人にとって当たり前になる。だから、誰かに聞いてもらう。家族、支援者、就労支援の担当者に「私が困っているように見えることは何?」と聞く。自分では見えない困難が、他人には見えていることが多い。

「話せているから軽い」と見られる

言葉が流暢で、診察でも理路整然と話せる人は、それだけで軽く見られやすい。でも、話せることと、対人関係を円滑に行えることは別です。「話せますが、相手の意図を読めずに毎回トラブルになります」「言われたことをそのまま受け取って、職場で3回注意を受けました」。話せることを隠す必要はなく、話せても起きている困難を足せばいい。

うつ病との「どっちで申請するか」で止まる

大人の発達障害には、うつ病や不安障害が併存していることが多い。「発達障害で申請すべきか、うつで申請すべきか」で止まる人がいます。止まらなくていい。複数の精神疾患がある場合、どちらか一方ではなく、諸症状を併せた全体像で総合的に認定されます。診断書も精神用1枚に全体を書いてもらうのが基本。分ける必要はありません。

二次障害の経過を、申立書に書かない

学生時代の不登校、職場での度重なる離職、対人トラブルによる休職。発達障害の人の申立書は、経過が長く、書くのが本当にしんどい。でも、その経過こそが「生まれつきの特性が、社会生活でどう困難になったか」を示す唯一の資料です。全部書かなくていい。転機になった出来事(退学、初めての休職、初めて精神科に行ったきっかけ)だけ、時期と一緒に。家族が代筆できる制度もあります。

数字で見ると

厚生労働省の令和6年度の抽出調査では、新規に決まった障害年金の70.3%が精神の障害の診断書によるものでした。発達障害での申請は、その中の標準的なケースの一つです。「発達障害ごときで」というためらいは、実態と逆です。

同じ年度の非該当は13.0%。発達障害でこの側に入る典型は、「就労欄に配慮の中身がない」と「対人関係の困難が具体的に書かれていない」の2つです。どちらも、あなたが伝えれば埋まる部分です。

よくある質問

Q. 手帳は持っていません。先に取るべきですか。

障害者手帳と障害年金は別の制度で、手帳がなくても年金は請求できます。等級も別々に決まります。逆に、年金(精神)が先に決まれば、年金証書で手帳を診断書なしで取得できる仕組みがあります。順番は、年金が先でも構いません。

Q. 子どものころに療育を受けていました。初診日はそのときですか。

医師の診療があったかどうかで決まります。療育機関や学校の相談だけで、医師の診療がなければ初診日にはなりません。療育の過程で医師(小児科・児童精神科)の診察を受けていれば、その日が初診日の候補です。知的障害を伴う場合は出生日が初診日として扱われます。→ 20歳前に初診日があるとき

Q. 障害者雇用で働いています。それでも対象ですか。

ガイドラインは、障害者雇用での就労を1級または2級の可能性を検討する対象としています。働いていることではなく、どんな配慮の中で働けているかが見られます。→ 働きながら

次の一歩

今日やることは、家族か支援者に一つ聞くことです。「私が困っているように見えることは、何?」。答えを、そのままメモする。

そのメモを、次の診察で主治医に渡す。申立書には、転機になった出来事を時期つきで3つ書く。

自分で進めるか、誰かに頼むか迷っているなら → 自分で・アプリで・専門家に頼む、の比べ方

関連コラム

  • 発達障害(ADHD・ASD)で障害年金を申請する方法|初診日・診断書・申立書(/columns/hattatsu-shougai)
  • 働きながら障害年金はもらえる?(/columns/hatarakinagara)
  • 障害者雇用で働きながら障害年金はもらえる? — フルタイム6年で受給できた実例(/columns/shougaisha-koyou-nenkin)
  • 「日常生活能力の判定」7項目 — できる・できないの具体例(/columns/nichijo-seikatsu-7koumoku)
  • 障害者手帳と障害年金の違い(/columns/techou-to-nenkin)
  • 病歴・就労状況等申立書の書き方【精神疾患】(/columns/moushitatesho-kakikata)
  • 20歳前傷病の障害基礎年金(/columns/hatachi-mae)
  • 精神疾患で障害年金を申請するときの必要書類チェックリスト(/columns/hitsuyou-shorui-seishin)

出典

  • 厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第8節 精神の障害(発達障害) ・ 確認日 2026-08-31
  • 厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(就労状況、知能指数の取扱い) ・ 確認日 2026-08-31
  • 厚生労働省「障害年金の業務統計等(令和6年度)」 ・ 確認日 2026-08-31
  • 社会保険審査会 裁決例(該当3件は実例ページに原文リンク)

よくある誤解