障害年金「日常生活能力の判定」7項目 — できる・できないの具体例と、医師への伝え方
障害年金の申請書類はたくさんありますが、精神疾患(うつ病・双極性障害・統合失調症・発達障害など)の審査で結果を大きく左右するのは、実は診断書の裏面にある2つの欄です。
- 日常生活能力の判定 — 7つの生活場面を、医師が4段階で評価する欄
- 日常生活能力の程度 — 生活全体を、医師が5段階で評価する欄
実務ではよく、「障害年金の審査は、主治医の診断書で9割決まる」と言われます。
そして、その9割の中心にあるのが、この裏面——とりわけ7項目です。厚生労働省の記載要領では、この7項目は本人や家族からの聴き取りをもとに記載するとされています。つまり、あなたが伝えなければ埋まらない欄です。この記事では、7項目が何を見ているのか、なぜ「実態より軽く」付いてしまうのか、そしてどう対処するのかを解説します。
なぜ裏面がそんなに重要なのか — 「主観を、書類だけで審査する」構造
精神疾患には、血液検査の数値やレントゲンのような客観的な指標がありません。精神疾患専門の実務者が繰り返し指摘しているのはこの点で、目に見えない障害を、主治医の「主観」で作成された診断書で、国が認定するという構造になっています。審査官が本人に会うことは一度もなく、審査はすべて書類だけで行われます。
つまり、あなたの生活のしんどさが診断書の裏面に反映されていなければ、審査上は「存在しなかったこと」になります。逆に、裏面に実態が正しく載りさえすれば、審査はあなたの生活を正しく評価できます。勝負は審査の場ではなく、診察室での「伝達」の段階でほぼ終わっているのです。
もうひとつ、知っておいてほしい実務の現実があります。精神専門の社労士が公表しているこだわりに、こういうものがあります——的確な診断書を入手する鍵は主治医への情報提供だと考え、時間をかけたヒアリングをもとにA4で2〜3枚の資料を作り、主治医に渡している。
プロが報酬をもらって一番力を入れている工程が「医師に生活の実態を紙で伝えること」なのです。これは裏を返せば、自分で申請する人も同じことをやれば、同じ土俵に立てるということです。
7項目は何を見ているのか
「日常生活能力の判定」の7項目は次のとおりです。それぞれ、医師が「できる」から「助言や指導をしてもできない若しくは行わない」までの4段階で評価します。
- 適切な食事
- 身辺の清潔保持
- 金銭管理と買い物
- 通院と服薬
- 他人との意思伝達及び対人関係
- 身辺の安全保持及び危機対応
- 社会性
大切なのは、7項目が問うているのは「病名の重さ」ではなく「生活が実際にどれだけ回っていないか」だということです。審査は「診断名ではなく生活を見ている」のです。同じうつ病でも、生活の壊れ方は人によって全く違うからです。
最重要ルール:「単身で、支援なしで生活したら」を想定する
診断書の裏面には、赤字でこう書かれています。「判断にあたっては、単身で生活するとしたら可能かどうかで判断してください」。
実はこのルール、当事者だけでなく医師も見落とすことがあります。医師向けの記載要領にはさらに踏み込んで、家族との同居や施設入所などで「支援が常態化した環境下で日常生活が安定している場合であっても、単身でかつ支援がない状態で生活した場合を想定して」記載するよう明記されています。
- 実家で母親が3食用意してくれている → 本来は「もし1人だったら自分で用意できるか?」で評価
- 家族が通院に付き添い、服薬を声かけしている → 「声かけがなかったら?」で評価
- 家族が金銭を管理してくれている → 「1人で管理させたら?」で評価
家族と同居していて生活が「一応回っている」人ほど、この想定が抜け落ちて「できる」側にチェックが付きがちです。診察で家族の支援内容を具体的に伝えていないと、医師には「支援ありでなんとか回っている生活」が「自立した生活」に見えてしまいます。
逆のパターンもあります。くり返し語られるのが「一人暮らしをしているという理由だけで、自立していると判断された」という悔しさです。一人暮らしでも、部屋がごみで埋まっている、風呂に何日も入れない、料理ができず菓子パンだけで過ごしている——そうした実態があるなら、それを具体的に伝える必要があります。
項目別・「実態より軽く付きやすい」ポイント
実務者の解説と受給者の後悔の声を突き合わせると、7項目それぞれに「軽く評価されがちな落とし穴」があります。診察で伝えるとき、メモに書くときのチェックリストとして使ってください。
1. 適切な食事 — 「食べているか」ではなく「栄養バランスを考えて、自分で用意できるか」を見ます。家族が作ったものを食べている、コンビニの菓子パンやお菓子だけで生きている、過食と絶食を繰り返している——これらは「できる」ではありません。「3食食べてます」とだけ答えると、軽く付きます。
2. 身辺の清潔保持 — 入浴・着替え・整髪・部屋の掃除を「自発的に、社会的に受け入れられる水準で」できるか。診察の日だけ身なりを整えて行くと、医師が見るのは「清潔な患者」です。入浴が週何回か、着替えを何日していないか、部屋の状態はどうかを、数字で伝えます。
3. 金銭管理と買い物 — 「買い物に行けるか」ではなく「計画的にやりくりできるか」。判断力が落ちた時期の衝動買い、支払いの滞納、家族による通帳管理は、この項目の重要な事実です。「買い物はできます」で終わらせないでください。
4. 通院と服薬 — 医師の目の前に来られている時点で「できる」に見えやすい、最も過大評価されやすい項目です。家族の付き添いで来ている、予約を何度も飛ばしている、服薬は家族の声かけ頼み、飲み忘れ・まとめ飲みがある——付き添いの実態と失敗の頻度を必ず伝えます。
5. 対人関係 — 診察室で受け答えできることと、日常の対人関係は別物です。友人との連絡を断っている、インターホンに出られない、家族以外と会話していない、職場で孤立していた——「誰と、どのくらい」を伝えます。
6. 身辺の安全保持及び危機対応 — 見落とされやすい項目の代表です。火の消し忘れ、鍵のかけ忘れ、交通の危険への無頓着、パニック時に助けを求められないこと。ヒヤリとした出来事は忘れやすいので、起きたその日に記録しておく価値が最も高い項目です。
7. 社会性 — 銀行・役所の手続き、公共のルールに沿った行動。封を開けられずに溜まった郵便物、家族任せの手続き、ATMや窓口で固まってしまうこと。「社会性」という言葉から想像しにくいぶん、エピソードが空欄になりがちな項目です。
7項目の具体例 — 「伝わらない言い方」と「伝わる言い方」
7項目は「できる/できない」の4段階で評価されますが、判断が難しいのは「できる日もあるが、できない日もある」場合です。
診断書の記載要領では、診察時の一時的な状態ではなく、現症日前おおむね1年程度の変動を含めて、また家族や福祉サービスの支援がない状態を想定して判断するよう示されています。つまり「調子がいい日ならできる」は「できる」ではありません。以下の対比表は、その前提で書いています。
同じ生活でも、伝え方によって診断書の評価は変わります。左が診察室でつい言ってしまう言い方、右が実態が伝わる言い方です。
1. 適切な食事
| つい言ってしまう | 実態が伝わる言い方 |
|---|---|
| 「食事はとれています」 | 「母が作ったものを食べています。自分で用意できたのは今月3回だけです」 |
| 「食欲はあります」 | 「食べる日は菓子パンだけです。1日1食の日が週3日あります」 |
| 「痩せてはいません」 | 「夜中にまとめ食いして、朝と昼は食べられない日が続いています」 |
2. 身辺の清潔保持
| つい言ってしまう | 実態が伝わる言い方 |
|---|---|
| 「お風呂は入っています」 | 「入浴は週1〜2回です。母に3回くらい言われてやっと入ります」 |
| 「一応、着替えはしています」 | 「同じ服を2〜3日着ています。今日は診察なので着替えました」 |
| 「部屋は散らかっています」 | 「自室の掃除は3か月していません。床が見えない状態です」 |
3. 金銭管理と買い物
| つい言ってしまう | 実態が伝わる言い方 |
|---|---|
| 「買い物は行けています」 | 「月に数回、母の車で行きます。店内が混んでいると車で待っています」 |
| 「お金の管理は苦手です」 | 「通帳とカードは1年前から母が管理しています。判断がつかないままネットで7万円使ってしまったためです」 |
| 「支払いはできています」 | 「請求書の封筒が開けられず、電気を止められたことが2回あります」 |
4. 通院と服薬
| つい言ってしまう | 実態が伝わる言い方 |
|---|---|
| 「ちゃんと通えています」 | 「今日も母に付き添ってもらいました。1人だと2回に1回はキャンセルしてしまいます」 |
| 「薬は飲んでいます」 | 「母が朝晩、声をかけてくれるので飲めています。声かけがない日は忘れます」 |
| 「たまに飲み忘れます」 | 「週2〜3回飲み忘れ、思い出したときにまとめて飲んでしまうことがあります」 |
5. 他人との意思伝達及び対人関係
| つい言ってしまう | 実態が伝わる言い方 |
|---|---|
| 「人と話すのは苦手です」 | 「この半年、会話したのは母と先生だけです」 |
| 「友達とは連絡しています」 | 「LINEは来ますが、半年以上返せていません」 |
| 「家にいることが多いです」 | 「宅配のインターホンに出られず、居留守を使って再配達にしています」 |
6. 身辺の安全保持及び危機対応
| つい言ってしまう | 実態が伝わる言い方 |
|---|---|
| 「特に問題はないです」 | 「先月、鍋を火にかけたまま眠ってしまい、母が気づいて止めました」 |
| 「不注意なところがあります」 | 「玄関の鍵をかけ忘れて外出することが月に2〜3回あります」 |
| 「困ったら家族に言います」 | 「体調が急変しても自分から言い出せず、母が様子を見に来て気づくことが多いです」 |
7. 社会性
| つい言ってしまう | 実態が伝わる言い方 |
|---|---|
| 「手続きは家族に頼んでいます」 | 「役所からの封筒は開けられず溜まっています。年金も保険も全部母がやっています」 |
| 「銀行には行けます」 | 「ATMで後ろに人が並ぶと操作できなくなり、何もせず帰ったことがあります」 |
| 「近所付き合いはないです」 | 「回覧板を隣に回すことができず、母に頼んでいます」 |
右側の言い方に共通しているのは、「頻度」「具体的な出来事」「誰の助けがあるか」の3点セットです。この3つが入っていれば、医師は診断書の該当欄を実態に沿って埋められます。
なお、7項目のほかに就労状況や服薬しても残る症状など、伝えるべき情報は他にもあります。全体像は障害年金の診断書で医師に伝えること全リストにまとめています。
7項目とセットの「日常生活能力の程度」(1)〜(5)
裏面にはもうひとつ、「日常生活能力の程度」という5段階の欄があります。7項目が場面ごとの拡大鏡だとすれば、程度は生活全体を引きで見た一枚絵です。かみ砕くと——
- (1) 精神障害はあるが、社会生活は普通にできる
- (2) 日常生活・社会生活に多少の制限がある
- (3) 日常生活・社会生活に制限があり、時に応じて援助が必要
- (4) 日常生活に著しい制限があり、常時ではないが援助が必要
- (5) 身のまわりのことがほとんどできず、常時の援助が必要
審査では、7項目の平均とこの程度を組み合わせた「目安表」が使われます(計算方法は次の記事で)。ここで覚えておいてほしいのは、7項目と程度は互いの答え合わせに使われるということです。
7項目はかなり重いのに程度が(2)、あるいはその逆——という診断書は、審査側から見ると「どちらが本当?」という書類になります。診察で伝える生活の実態が一貫していれば、この2つは自然と揃います。ちぐはぐな診断書は、伝達が断片的だったことの表れなのです。
働いている人の7項目 — 「仕事に行けている」で上書きされない
働きながら申請する人が押さえておきたいのは、就労の事実が7項目の評価を軽く見せる方向に働きやすいということです。「会社に行けている=通院も服薬も対人関係もできるだろう」という推定が、医師にも審査側にも働きます。
でも実際の生活はどうでしょうか。よくある実態は、こうです——仕事に全エネルギーを使い果たし、帰宅後は食事も入浴もできず倒れている。休日は寝たきりで、家事は同居家族が全部やっている。職場では上司が業務を細かく区切って指示し、電話対応を免除されている。
これらはすべて7項目の材料です。食事・清潔保持は「平日の帰宅後と休日の実態」で、対人関係は「職場での援助・配慮の内容」で、社会性は「手続きを家族に任せている事実」で書けます。
障害者雇用や配慮の内容は、審査の総合評価でも考慮される要素です(→働きながら障害年金は受け取れる?)。「働けているから軽い」ではなく、「どんな援助があって、どこまでしか働けていないか」まで伝えることが、就労中の申請の核心です。
「診察室では元気に見える」問題
最も多く語られる後悔が、これです。
家では寝たきりに近いのに、診察の数分だけは気力を振り絞って身なりを整え、「大丈夫です」と答えてしまった。診断書が届いたら、実態よりずっと軽い評価になっていた。
医師が見ているのは、月に1〜2回、診察室での数分間のあなたです。その数分がたまたま調子のよい時間帯なら、医師の主観に映るあなたは「回復傾向」です。悪気のある人は誰もいないのに、診断書と実態がずれていく——精神の障害年金で最も多いすれ違いです。
そしてこのすれ違いは、取り返すのが難しい。一度不支給になって2度目の申請をすると、審査側には前回の内容が申し送りされた調書が作られ、前回との比較が厳格に行われるため、難易度が格段に上がります。
専門家が関与しても2度目は通らなかった例が公表されているほどです。だからこそ、最初の申請で実態を伝えきることに全力を注ぐ価値があります。
対策はシンプルで、診察室の外の生活を、紙で渡すことです。口頭で伝えようとすると、緊張やその日の調子で抜け落ちます。7項目に沿って書いたメモを渡せば、医師は診断書の該当欄と突き合わせながら読めます。
完成形①:本人が渡す7項目メモ(アキさんの例)
断片的な例文ではイメージしにくいので、1人分の完成形を載せます。アキさん(32歳)は、うつ病で会社を退職し、実家で母親と2人で暮らしています。診察前に主治医へ渡したメモの全文です。
先生へ — 最近1か月の生活の様子です(アキ)
1. 食事:自分で用意できたのは月に数回。ほとんどは母が作るか、母が買ってきた菓子パンをそのまま食べています。食欲がなく1日1食の日が週に3日ほどあります。
2. 清潔保持:入浴は週1〜2回。母に「お風呂わいたよ」と何度か言われてやっと入ります。着替えは2〜3日同じ服のことが多いです。自室の掃除は3か月していません(母が時々ごみだけ回収)。
3. 金銭管理と買い物:通帳とカードは母が管理しています。以前、判断がつかないままネットで7万円の買い物をしてしまったためです。買い物は週1回、母の運転で同行しますが、店内で人が多いと車で待っています。
4. 通院と服薬:通院は母の付き添いがあれば行けます。1人では2回に1回キャンセルしてしまいます。服薬は母が朝晩声をかけてくれて成立しています。声かけがない日は飲み忘れます。
5. 対人関係:友人からの連絡は半年以上返せていません。宅配の受け取りやインターホンに出ることができず、居留守を使います。会話は母とだけです。
6. 危機対応:先月、鍋を火にかけたまま眠ってしまい、母が気づいて止めました。体調が急に悪くなっても自分から助けを求められず、母が様子を見に来て気づくことが多いです。
7. 社会性:役所からの書類は封を開けられず溜まっています。年金や保険の手続きはすべて母がやっています。銀行のATMは、後ろに人が並ぶと操作できず帰ってきたことがあります。
※もし1人で暮らしたら、食事・服薬・金銭・手続きは回らないと思います。
ポイントは3つ。(1)7項目の並び順どおりに書く(医師が診断書に転記しやすい)、(2)頻度と具体例で書く(「つらい」ではなく「週3日」「3か月していない」)、(3)最後に単身想定の一文を添える。
完成形②:家族が添える一言メモ(アキさんの母の例)
本人が「大丈夫です」と言ってしまう問題への、もうひとつの対策が家族の視点です。本人が伝えるのが難しい場合は、家族などにサポートしてもらえます。アキさんの母が、本人のメモに添えた半紙分の手書きメモです。
先生へ(アキの母です)
本人のメモのとおりですが、母から見た様子を補足します。本人は先生の前では気を張って、実際より元気に見えると思います。家では日中ほぼ自室で横になっており、私が声をかけないと食事も薬も抜けます。一番心配なのは、火の消し忘れが続いていることと、悪いときに「消えたい」と口にすることです。仕事は私がパートを週2日に減らして家にいるようにしています。
家族メモの役割は、症状を訴えることではなく、「本人の申告と実態のギャップ」を埋める証言です。同居家族だからこそ書ける、頻度と場面の情報に絞るのがコツです。
メモで「やってはいけないこと」4つ
せっかくのメモが逆効果になるパターンもあります。
(1) 盛らない。 実態より重く書くのは論外です。診断書・申立書・カルテの間に矛盾が生まれ、審査で最も不利に働きます。実務者いわく「盛った書類はすぐ分かる」。事実だけで、精神の障害年金は十分に伝わります。
(2) 感情語だけで埋めない。 「毎日つらい」「死にたいほど苦しい」だけが並ぶメモは、医師が診断書の欄に転記できません。気持ちを消す必要はありませんが、必ず頻度と場面(「週3日」「入浴のとき」)を添えます。
(3) 長くしすぎない。 A4で1〜2枚まで。10枚の手記は、多忙な医師には読まれません。専門家が医師に渡す資料もA4で2〜3枚です。書ききれない分は日々の記録として手元に残し、聞かれたら出せるようにしておきます。
(4) 等級や結果への要望を書かない。 「2級で書いてください」は一発で信頼を失います。書いていいのは生活の事実まで。評価は医師の仕事です。
診察当日の渡し方 — 30秒の台本
メモを作っても、渡す瞬間が一番緊張します。うまくいく渡し方は、だいたいこの形です。
診察の冒頭で——「先生、うまく話せないことが多いので、最近の生活の様子を紙にまとめてきました。診断書を書いていただくときの参考に、お時間のあるときに読んでいただけますか」
ポイントは、冒頭で渡すこと(最後だと「今日はもう時間が…」になります)、「参考に」という言葉を使うこと(指示ではなくお願いの形になります)、そして読む場所を診察時間の外に逃がすことです。その場で全部読んでもらう必要はありません。カルテに挟まれば、診断書を書くときに必ず参照されます。
言い出せずに持ち帰ってしまった日があっても、自分を責めないでください。メモは次回も使えますし、書いた記録自体が申立書の材料として残ります。渡せなかった日のメモも、無駄には一切なりません。
ケース:7項目が「軽く」付いた診断書は、こう直っていく
流れを立体的にイメージできるよう、アキさんのケースを最初から追ってみます。
1回目の診察(メモなし)。 アキさんは緊張のなか「眠れてはいます」「食欲は…まあ」と答え、診察は5分で終了。後日、母が試しに聞いてみると、主治医の心証は「服薬でやや安定してきている」。
もしこの時点で診断書を頼んでいたら、7項目の多くに「おおむねできる(2点)」が付き、平均は2.1前後——目安表では「2級または3級」のさらに下、不支給も十分あり得る帯でした。
2回目の診察(メモ持参)。 前述の7項目メモを冒頭で渡しました。主治医は黙って読み、「ネットで7万円の買い物というのは、いつごろ?」「火の消し忘れは初めて?」と、メモの具体的な事実を起点にした質問が初めて出ました。診察時間は同じ数分でも、カルテに残る情報量がまったく違います。
3回目の診察(家族メモ追加)。 母の一言メモを添えると、主治医から「お母さんが仕事を減らされているんですね。それは知りませんでした」。援助の常態化——単身想定ルールの適用に直結する情報が、ここで初めて医師に届きました。
診断書依頼。 出来上がった診断書の7項目は、金銭管理と危機対応が4点、他が3点。平均3.28・程度(4)で、2級相当の帯に入りました。1回目の時点との差は、症状の変化ではありません。伝わった情報の差だけです。
作り話のように見えるかもしれませんが、これは実務者が公表している支援プロセスの、そのままの縮図です。専門家がヒアリングとA4資料でやっている「情報を届けて心証を実態に近づける」作業を、患者側が数回の診察に分けてやった——それだけのことです。
受け取った診断書の7項目が実態と違ったら
伝えたつもりでも、出来上がった診断書の7項目が実態とずれていることがあります。そのときは、まず「事実の誤り」(同居なのに独居と書かれている等)なのか、「評価の軽さ」(事実は合っているがチェックが軽い)なのかを分けてください。
前者は訂正を依頼でき、後者は評価ではなく判断材料を追加する形になります。対処の詳細は診断書が実態と違う・軽く書かれたときで解説しています。
7項目のエピソードは、日々のメモからしか作れない
上のメモを「診察の前日に記憶だけで」書くのは、正直かなり難しい作業です。調子の悪かった日のことは、思い出すこと自体がしんどいからです。特に項目6(危機対応)のヒヤリとした出来事は、数日経つと消えます。
実務者が現場でやっているのは、時間をかけたヒアリングで日々の出来事を掘り起こし、それを整理して医師に渡すという地道な方法でした。
同じことを1人でできるように、その日あったことを短くメモすると、7項目に沿った提出用の資料に自動で整理されるアプリを作りました。ログイン不要・記録は端末の中に保存され、基本機能は無料です。
日々のメモは診察で医師に渡す資料になり、そのまま病歴・就労状況等申立書の下書きにもなります。書き上がった診断書との突き合わせ(提出前の確認)にも使えます。
よくある質問
Q. 「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」は何が違うのですか? A. 「判定」は7つの場面ごとの4段階評価、「程度」は生活全体をひとつかみで見た5段階評価です。審査ではこの2つを組み合わせた目安表(等級判定ガイドライン)が使われます。7項目の平均の計算方法と目安表の読み方はガイドラインの記事で解説しています。
Q. 家族と同居していると不利になりますか? A. 同居自体は不利ではありません。診断書は「単身で支援なしで生活したら可能か」で判断するルールだからです。
ただし、家族がどんな支援をしているかが医師に伝わっていないと、「支援込みで回っている生活」が「できる」と評価されてしまうことがあります。支援の中身(声かけ・付き添い・金銭管理など)を具体的に伝えることが大切です。
Q. 一人暮らしだと受給できませんか? A. 一人暮らしでも受給している方は大勢います。ただ「一人暮らし=自立」と見られて悔しい思いをしたという声は、実際にあります。国のガイドラインは、独居であってもその理由や時期を考慮し、支援を受けて生活できている場合や、その必要がある状態の場合を含めて判断するとしています。
一人暮らしの生活の実態(食事の内容、部屋の状態、滞っている手続きなど)を、頻度つきで具体的に伝えてください。訪問看護や家族の定期的な訪問など外部の支援があるなら、それも重要な情報です。
Q. 7項目すべてが悪くないと受給できませんか? A. いいえ。7項目の評価は4段階で点数化され、その平均と「日常生活能力の程度」の組み合わせが等級の目安になります。全項目が最重度である必要はありません。
Q. メモを渡したら、医師に嫌がられませんか? A. 「重く書いてほしい」という要望書は嫌がられますが、生活の事実を整理した資料はむしろ診断書作成の負担を減らします。
実際、専門の社労士が的確な診断書のためにやっている中心業務が「医師への情報提供資料の作成」です。渡すときは「事実のとおりに書いていただくための参考です」と一言添えてください。渡し方の詳細は診察前メモの記事にまとめています。
Q. 医師が生活のことを何も聞いてくれません。 A. 数分の診察時間で7項目を毎回確認するのは現実的に難しいのが実情です。医師が聞いてくれるのを待つのではなく、こちらから紙で渡すのが確実です。それでも反映されない・そもそも診断書を書いてもらえないという場合は、診断書を書いてくれないときの記事をご覧ください。
Q. 7項目について、診察で具体的に何と言えばいいですか? A. 「頻度」「具体的な出来事」「誰の助けがあるか」の3点を入れてください。「入浴できています」ではなく「入浴は週1〜2回で、母に何度も言われてやっと入ります」のように言うと、医師は診断書の該当欄を実態に沿って記載できます。本記事の具体例の表をそのまま使えます。
Q. 7項目の内容を毎回の診察で全部話す時間がありません。 A. 口頭で全部伝えるのは現実的に難しいため、7項目の順番でA4一枚にまとめて渡す方法が確実です。診察の冒頭に「診断書を書いていただくときの参考に」と添えて渡せば、診察時間の外で読んでもらえ、カルテにも残ります。
Q. 「できる」と書かれた項目が実態と違います。直してもらえますか? A. 事実の誤りであれば訂正を依頼できます。事実は合っているが評価が軽いと感じる場合は、評価の変更を求めるのではなく、前提となる生活の事実(家族の援助や失敗の頻度)を追加で伝えて、判断を医師に委ねる形になります。詳しくは診断書が実態と違う・軽く書かれたときをご覧ください。
まとめ
- 精神の障害年金は書類審査のみ。「審査は診断書で9割決まる」が実務者の共通認識で、その中心が裏面の7項目
- 評価ルールは「単身・支援なしで生活したら可能か」。家族の支援内容が伝わっていないと軽く評価される
- 7項目にはそれぞれ「軽く付きやすい落とし穴」がある。頻度と具体例で埋める
- 2度目の申請は前回との比較で厳格になる。最初の申請で伝えきる
- 本人メモ+家族メモの二段構えが有効。エピソードは日々の記録から作る
※本記事は一般的な情報提供であり、受給の可否や等級を保証するものではありません。個別の判断は年金事務所や社会保険労務士にご相談ください。診断書の様式と記載要領は日本年金機構のホームページで確認できます。
参考リンク
制度の正式な情報・最新の様式は、日本年金機構のホームページおよび 年金事務所でご確認ください。