障害年金の初診日 — カルテがない・破棄されたときの証明方法と、代替資料の一覧
「初診の病院に電話したら、カルテはもう残っていないと言われました」。
障害年金の準備で、いちばん心が折れる瞬間のひとつです。しかも初診日は、動かせない過去。診断書や申立書は今から工夫できますが、10年前のカルテは今日の努力ではどうにもなりません。
でも、諦めるのはまだ早いです。カルテがなくても受給に至っている人は大勢います。困難案件を扱う専門の社労士が「初診日が不明」「カルテが破棄されている」といったケースを看板に掲げているのは、そこに道があるからです。
この記事は、カルテがないと言われた後にできることを、順番に並べたものです。初診日そのものが分からない段階の人は、先に初診日がわからないときの調べ方から読んでください。
なぜ初診日がそこまで重要なのか
先に、力を入れるべき理由を確認しておきます。初診日は3つのことを同時に決めます。
(1) どの年金から支給されるか。 初診日に国民年金に加入していれば障害基礎年金(1級・2級のみ)、厚生年金なら障害厚生年金(3級もあり、報酬比例で額が上がる)。初診日が1日違うだけで、受け取れる年金の種類と金額が変わることがあります。
(2) 保険料納付要件を満たすか。 納付要件は初診日の前日時点で判定されます。ここを満たさなければ、どれだけ重い障害でも受給できません。
(3) 障害認定日はいつか。 原則、初診日から1年6か月後。遡及請求で過去分を取れるかどうかも、ここから逆算されます。
つまり初診日は、請求全体の土台です。だから証明にこだわる価値があります。
まず知る:カルテは5年でなくなるとは限らない
医師法上、カルテの保存義務は診療完結の日から5年です。ここから「5年経ったらもう無い」と説明されることがありますが、実際は違います。
- 多くの医療機関は5年を超えて保管しています。 電子カルテ化以降はとくに、容量の問題が小さいため長期保管されている例が珍しくありません
- 受付の即答と、実際の保管状況が違うことがあります。 電話口の担当者が「5年で破棄しています」と規定を答えただけ、というケースは実際にあります
- カルテ本体はなくても、別の記録が残っていることがあります(次章)
ですから、一度「ない」と言われても、確認の仕方を変えてもう一度聞く価値があります。専門家が困難案件でやっているのも、まずはこの粘りです。
病院に確認する3つの質問
電話で聞くときは、「カルテありますか?」の一問で終わらせないでください。次の3つを順に聞きます。
質問1:「〇年ごろに受診していた者ですが、カルテは残っていますか。旧姓は△△で、当時の住所は□□です」
旧姓と当時の住所は、検索キーになります。結婚・転居で名前や住所が変わっていると、現在の情報だけでは見つからないことがあります。生年月日も伝えてください。
質問2:「カルテがなくても、受診の記録として残っているものはありませんか」
ここが本題です。カルテ本体が破棄されていても、次のような記録が残っていることがあります。
- 診療録の索引・受付台帳・患者データベース(受診日と氏名だけの記録)
- レセプト(診療報酬明細)の控え
- 紹介状の控え(次の病院に出した紹介状の写し)
- 入院記録・手術記録(該当する場合)
- 画像データ(電子データは長く残りやすい)
「受診していた事実」さえ証明できれば、受診状況等証明書を書いてもらえる可能性があります。
質問3:「受診状況等証明書は、どの記録に基づいてなら書いていただけますか」
医師は記録に基づいてしか書けません。逆に言えば、何かしらの記録があれば書けるのです。この質問は、病院側に「書けるかどうか」を検討してもらう質問になります。
それでも本当に何もなかったら:「受診状況等証明書が添付できない申立書」
記録がまったくない場合、日本年金機構の様式である「受診状況等証明書が添付できない申立書」を使います。名前が長いので実務では「添付できない申立書」と呼ばれます。
これは「初診の病院で証明が取れませんでした」という事情を説明する書類で、次のようにセットで使います。
- 添付できない申立書に、その病院で証明が取れない理由(カルテ破棄)を書く
- 参考資料を添えて、初診日を推認してもらう(この資料集めが本番です)
- これを受診したすべての医療機関について、古いほうから順に提出していく
重要なのは3つ目です。1番目の病院で証明が取れなければ、2番目の病院で受診状況等証明書が取れるか試します。2番目でも取れなければ3番目——という順で進めます。2番目の病院のカルテに「〇年ごろから〇〇クリニックに通院していた」と書かれていれば、それが1番目の初診を示す有力な証拠になるからです。
紹介状も同じ理屈で強力です。初診が古いケースでも、医療機関同士の紹介書類から初診日を確定できた例は多くあります。紹介状には、いつからどこで治療していたかが書かれているためです。
代替資料の一覧と、証拠としての強さ
集める資料には強弱があります。強い順に並べます。
【強】客観的な第三者の記録
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| 資料 | どこで手に入るか | 補足 |
|---|---|---|
| 2番目以降の病院のカルテ・紹介状 | その病院に依頼 | 「前医は〇〇」と書かれていれば最有力 |
| 健康保険の給付記録(レセプト) | 加入していた健保組合・協会けんぽ | 受診した医療機関名と月が分かる。保存期間は保険者による |
| 障害者手帳の申請時の診断書 | 申請した自治体 | 発病時期・初診が書かれていることがある |
| 生命保険・医療保険の給付記録 | 保険会社 | 給付を受けていれば診断名と時期が残る |
| 労災・傷病手当金の記録 | 会社・保険者 | 「労務不能」の証明期間が分かる |
| 学校の記録(欠席・保健室・支援計画) | 学校 | 20歳前傷病では特に重要 |
【中】本人の手元にある物証
| 資料 | 補足 |
|---|---|
| 診察券 | 病院名の証明。診察日の記載があれば価値が上がる |
| お薬手帳 | 薬局の記録。処方内容と日付が分かる |
| 医療費の領収書・明細 | 受診日と医療機関名 |
| 医療費控除の確定申告の控え | 年単位だが、医療機関名が残っている |
| 健康診断の結果 | 所見欄に治療中の記載があることも |
| 母子手帳 | 先天性・幼少期からの傷病で有効 |
【補強】本人・第三者の記憶
| 資料 | 補足 |
|---|---|
| 第三者証明 | 後述。単独では弱いが、他の資料と組み合わせると効く |
| 当時の日記・手帳・スマホの写真 | 日付が残っているものは補強材料になる |
| 家族の陳述書 | 発病から受診までの経緯を具体的に |
コツは、強い資料を1つ探すより、中・補強を複数そろえて包囲することです。単独では決め手にならない資料も、複数が同じ時期を指していれば説得力が生まれます。
第三者証明の使い方と限界
第三者証明は、初診のころを知る第三者(当時の同僚・友人・近所の人・学校の先生など)に、当時の受診の様子を書いてもらう書類です(誰に頼めるか・何を書いてもらうかは第三者証明の要件と頼み方)。
押さえておくべき点が3つあります。
- 三親等内の親族は「第三者」になりません。 家族の陳述は参考資料にはなりますが、第三者証明としては扱われません
- 原則として複数人分が必要とされています(20歳前に初診日がある場合など、条件によって扱いが異なります)
- 他の資料との組み合わせが前提です。第三者証明だけで初診日が認められるケースは限られます
書いてもらうときのコツは、具体性です。「昔から体調が悪そうだった」では弱く、「〇年の春、職場で倒れて私が救急に付き添った。その後〇〇病院に通っていると本人から聞いた」のように、時期・場面・自分との関係・知った経緯が入っていると証拠価値が上がります。
完成形:アキさんが揃えた資料と、書いた申立書
アキさん(32歳・うつ病)の初診は2019年7月、Aクリニック。電話したところ「カルテは破棄済み」と言われました。彼女がやったことの全記録です。
STEP1 Aクリニックに再確認
旧姓と当時の住所を伝えて再検索を依頼 → カルテはやはりなし。ただし受付台帳に受診日の記録が残っていることが判明。「これに基づいてなら書ける」との回答で、受診状況等証明書を発行してもらえました。
※アキさんはここで解決しましたが、台帳もなかった場合に彼女が用意していた「プランB」が次です。
プランB:資料の包囲網
- Bメンタルクリニック(2番目の病院)の紹介状の控え → 「2019年7月よりA医院にて加療」の記載
- お薬手帳(2019年8月分) → A医院からの処方の記録
- 医療費の領収書2枚(母が保管していた)
- 健保組合への給付記録の照会 → 2019年7〜8月にA医院での受診記録
- 当時の上司への第三者証明の依頼(2019年夏に早退が増えた経緯を記載)
プランBで書く「添付できない申立書」の理由欄
初診の医療機関(A医院)に電話および文書で照会しましたが、カルテは診療完結から5年を経過し破棄済みとの回答でした(2026年◯月◯日、事務長より)。受付台帳等の記録も残っていないとのことです。つきましては、以下の資料により初診日を推認いただきたく、申し立てます。
①B医院の紹介状(A医院からの転医であること、2019年7月からの加療である旨の記載)
②お薬手帳(2019年8月、A医院からの処方の記録)
③医療費の領収書(2019年7月30日、A医院)
④健康保険の給付記録(2019年7月・8月、A医院での受診)
理由欄のポイントは3つです。(1) いつ・誰に・どう確認したかを書く(努力の記録)、(2) 断られた理由を具体的に書く、(3) 代わりの資料を番号で列挙する。感情ではなく事実と手順を書くのがコツです。
健康保険の給付記録を取り寄せる — いちばん見落とされる強い証拠
代替資料の中で、強いのに使われていない筆頭が健康保険の記録です。あなたが病院にかかれば、その医療機関から保険者へ診療報酬の請求(レセプト)が回っています。つまり、病院のカルテとは別に、保険者側にも受診の記録があるわけです。
どこに問い合わせるかは、当時の加入状況で変わります。
- 会社員だった → 当時の勤務先が加入していた健康保険組合、または協会けんぽ
- 自営業・無職・学生だった → 当時住んでいた市区町村の国民健康保険担当課
- 家族の扶養だった → 扶養者(親・配偶者)が加入していた健保。本人が照会できない場合、扶養者から依頼してもらいます
聞き方は、「障害年金の申請で初診日を証明する必要があり、〇年ごろの受診記録(医療機関名と受診月)を確認したいのですが、開示していただけますか」。手続きは保険者によって異なり、所定の申請書と本人確認書類が必要になるのが一般的です。
注意点が2つあります。保存期間は保険者によって異なり、古すぎると残っていないことがあります。それでも「照会したが記録なし」という事実自体が、添付できない申立書に書ける努力の記録になります。もう一点、開示までに数週間かかるため、思い立ったら早めに動いてください。
同じ発想で、当時の勤務先にも記録が残っていることがあります。健康診断の結果、産業医の面談記録、欠勤・休職の記録、傷病手当金を受けていればその申請書類の控え。退職後でも問い合わせられる場合があるので、当たってみる価値はあります。
準備の順番を間違えないために
カルテがないケースでは、動く順番で結果が変わります。よくある失敗は、初診の病院に断られた時点で止まってしまい、数か月が過ぎることです。
先ほどのアキさんが、もし台帳も残っていなかったら実行する予定だった進行表を置いておきます。
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いちばん上の「2番目の病院への電話」を先にやるのがコツです。所要5分で、うまくいけば他の作業が全部不要になります。手間の少ないものから、当たりの大きいものへという順番で並べてください。
もうひとつ、急ぐ理由があります。遡及請求を考えている場合、年金の時効は5年です。証明の準備で1年かければ、その分だけ受け取れる過去分が減ります。事後重症請求でも、請求が遅れれば受給開始月がそのまま遅れます。
だからこそ、完璧な資料が揃うのを待たずに、いったん年金事務所で相談するのが実務的です。「この資料だけで通るか」を早い段階で聞けば、足りない部分だけを取りに行けます。1人で完璧を目指して数か月を溶かすのが、いちばんもったいない失敗です。
記録はあるのに「書けない」と言われたとき
もうひとつのパターンがあります。カルテや台帳は残っているのに、病院側が受診状況等証明書の作成に消極的な場合です。理由はだいたい次のどれかで、対処が変わります。
「当時の担当医がもう居ない」 — 受診状況等証明書は、現在の管理者(院長)が過去のカルテに基づいて書くことができます。担当医本人でなくてもよい書類なので、「カルテに基づいて書いていただく形で構いません」と伝えてみてください。
「古すぎて正確に書けない」 — 分かる範囲での記載で構いません。様式にも、記録に基づく内容と本人の申立てによる内容を区別して書く欄があります。「カルテに残っている範囲で結構です」と伝えると進むことがあります。
「障害年金の書類は書いたことがない」 — 用紙は日本年金機構のサイトからダウンロードして持参・郵送できます。受診状況等証明書の依頼方法を参考に、用紙と依頼状をセットで渡すと、病院側の負担が下がります。
「本人確認ができない」 — 旧姓・当時の住所・生年月日・診察券番号など、カルテと照合できる情報をできるだけ添えてください。本人確認書類のコピーも一緒に。
ここで大事なのは、強く出ないことです。受診状況等証明書は過去の事実の証明なので、診断書を書いてもらうときほど医師の裁量が絡みません。事務的な依頼として、必要な情報を揃えて丁寧に頼むのがいちばん通ります。
やってはいけないこと
初診日を「都合よく」ずらす。 納付要件を満たす時期に初診日を合わせたい、厚生年金加入中にしたい——気持ちは分かりますが、これは虚偽の申立てです。年金機構は加入記録も医療記録も照会できます。発覚すれば不支給どころか、受給後でも返還請求の対象になり得ます。
記憶があいまいなまま断定して書く。 「たしか2019年の夏」なら、そう書いて構いません。断定して書いた日付が他の資料と食い違うと、書類全体の信頼性が下がります。分からないことは分からないと書くほうが、審査上は誠実に扱われます。
1つの病院で諦める。 前述のとおり、2番目・3番目の病院、健保、保険会社、学校——ルートは複数あります。1本目が塞がっただけです。
時間がかかる前提で、順番を決める
カルテがないケースの準備は、資料の取り寄せに時間がかかります。並行して進めるのが鉄則です。
- 今日:初診の病院に電話(3つの質問)。同時に、健保組合・保険会社に照会の方法を問い合わせ
- 今週:2番目以降の病院に紹介状の控えの有無を確認。家中の診察券・お薬手帳・領収書を探す(家族にも頼む)
- 今月:年金事務所で、集まった資料を見せて請求の組み立てを相談。ここで「この資料なら足りる/足りない」の目安が分かります
- 並行:主治医への生活状況メモは今日から始める。初診日の証明で数か月かかっても、その間にカルテへ実態が積み上がります
4が地味に効きます。初診日の調査で止まっている間も、診断書の準備は進められます。むしろ待ち時間を診断書の質に変換するのが、この期間の正しい過ごし方です。
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よくある質問
Q. カルテの保存期間は5年ですよね。もう無理ですか? A. 保存義務が5年というだけで、実際には5年を超えて保管している医療機関が多くあります。また、カルテ本体がなくても受付台帳・レセプトの控え・紹介状の控えなど別の記録が残っていることがあります。「カルテはありますか」ではなく「受診の記録は何か残っていませんか」と聞いてみてください。
Q. 病院に「ない」と言われました。もう一度聞いてもいいですか? A. 構いません。旧姓・当時の住所・生年月日を伝えて再検索を依頼すると見つかることがありますし、電話口の担当者が規定を答えただけの場合もあります。文書での照会に切り替えるのも一つの方法です。
Q. 2番目の病院なら証明が取れます。それでは駄目ですか? A. 2番目の病院で受診状況等証明書が取れるなら、大きな前進です。ただし障害年金の初診日は「その傷病で初めて医師にかかった日」なので、2番目の病院のカルテに前医の記載があれば、それを1番目の初診日の証拠として使う形になります。まず年金事務所で組み立てを相談してください。
Q. 診察券とお薬手帳だけしかありません。 A. 単独では弱くても、複数が同じ時期を指していれば意味があります。健康保険の給付記録、医療費控除の申告控え、家族の記憶など、指し示す方向が一致する資料をできるだけ集めてください。集めた資料を持って年金事務所で相談すると、足りているかの目安が分かります。
Q. 第三者証明は家族でもいいですか? A. 三親等内の親族は第三者に当たりません。当時の同僚・友人・学校の先生など、家族以外の方に依頼してください。家族の記憶は、陳述書として参考資料に添えることはできます。
Q. 初診日が分からないまま請求すると、どうなりますか? A. 初診日が確定できない場合、請求そのものが認められないことがあります。ただし、資料を尽くしたうえでの推認が認められるケースもあるため、まずは年金事務所で資料を見てもらってください。安易に初診日を断定して書くのは避けてください。
Q. 廃院していて連絡先すら分かりません。 A. 廃院のケースは確認の順序が変わります。病院が廃院しているときの記事で、行き先の調べ方から解説しています。
まとめ
- 初診日は「どの年金か」「納付要件」「認定日」を同時に決める土台。だからこだわる価値がある
- カルテの保存義務は5年だが、実際は超えて残っていることが多い。一度「ない」と言われても確認の仕方を変える
- 病院には3つ聞く:旧姓・住所つきで再検索/カルテ以外の記録/どの記録なら書けるか
- 本当に無ければ「受診状況等証明書が添付できない申立書」+参考資料。古い病院から順に試す
- 2番目の病院の紹介状は最有力の資料。紹介状から初診日を確定できた例は多い
- 資料は強い1つより、複数で包囲する。第三者証明は他資料との組み合わせが前提(三親等内の親族は不可)
- 初診日をずらすのは絶対NG。分からないことは分からないと書く
- 資料の取り寄せ待ちの数か月は、診断書の準備(生活記録)に変換する
※本記事は一般的な情報提供であり、初診日の認定や受給を保証するものではありません。必要書類や証明方法の取り扱いは事案ごとに異なります。個別の判断は年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。
参考リンク
制度の正式な情報・最新の様式は、日本年金機構のホームページおよび 年金事務所でご確認ください。