リード(直答)
朝礼で「来月末で事業所を閉めます」と告げられた。帰り道、頭に浮かんだのは仕事のことより、年金のことだった。「働けなくなったと思われて、年金まで切られるんじゃないか」。逆に、「働いていたんだから、次の更新で通らないんじゃないか」。どちらの心配も、同じ日に来る。
先に答えます。事業所が閉鎖しても、障害年金は止まりません。 年金は事業所ではなく、本人の障害の状態についているものです。閉鎖は停止事由ではありません。年金事務所への届出も要りません(住所や口座が変わるときだけです)。止まる可能性があるのは更新のときだけで、それも閉鎖が理由になることはありません。
そして、同じ状況の人は多い。令和6年度、ハローワークが解雇届で把握した障害者の解雇者は9,312人。そのうち7,292人が就労継続支援A型事業所の利用者でした。この7,292人のうち、3,834人がB型事業所などへ進みました。2,171人は再就職(うち1,573人は別のA型)。あわせて約8割が、次の場所を見つけています(厚生労働省 障害者部会 参考資料、令和7年6月)。閉鎖は珍しい出来事ではなく、進む先も見えています。
このページは、閉鎖を告げられてから60日の順番です。最初の7日、失業給付、転所、更新が近い人、お金の線、の順に書きました。
数字で見る、A型の閉鎖
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 障害者の解雇者(令和6年度・解雇届ベース) | 9,312人 |
| うち A型事業所の利用者 | 7,292人 |
| 進んだ先: B型事業所など | 3,834人 |
| 進んだ先: 再就職(うち別のA型) | 2,171人(1,573人) |
| 令和6年3〜7月の解雇者(うちA型) | 4,884人(4,279人)。8月末時点でB型への移行(予定)2,073人、再就職決定936人 |
| 就職困難者の基本手当の所定給付日数 | 被保険者期間1年未満150日 / 1年以上・45歳未満300日 / 45歳以上65歳未満360日 |
| 更新で支給停止になった割合 | 1.1%(令和6年度・304,456件中) |
出典は厚生労働省 社会保障審議会障害者部会 資料(令和6年11月・令和7年6月)、ハローワーク「基本手当の所定給付日数」、日本年金機構「障害年金業務統計(令和6年度決定分)」。確認日 2026-09-06。
最初の7日でやること
- 離職票をもらう — A型で雇用保険に入っていた人は、事業所から離職票が出ます。閉鎖による離職は、自己都合ではありません。事業所が混乱していて出てこないときは、ハローワークに相談すると、事業所への確認をしてくれます
- 受給者証を確認する — 障害福祉サービス受給者証の有効期限と、支給決定の内容(A型・B型・移行)を見ます。転所には市区町村の手続きが要ります。期限が近いなら、先に市区町村へ
- 年金証書の「次回診断書提出年月」を見る — 更新が1年以内なら、閉鎖の日付と、閉鎖後の体調の変化を記録し始めます(下の「更新が近い人へ」)
- 相談先を1つ決める — 市区町村の障害福祉の窓口、相談支援事業所、ハローワークの障害者窓口のどれか1つ。全部に行く必要はありません。体力を残すことも、この時期の仕事です
閉鎖の直後に全部を動かそうとすると、体調が先に崩れます。この4つだけで、最初の1週間は十分です。
失業給付(基本手当)と障害年金
- 雇用保険に入っていた人は、ハローワークで求職の申込みをして基本手当を受けられます。障害者手帳を持つ人は「就職困難者」として、所定給付日数が長くなります。被保険者期間が1年未満なら150日、1年以上なら45歳未満で300日、45歳以上65歳未満で360日です
- 障害年金と基本手当は、同時に受けられます。 日本年金機構が「同時に受けられない」としているのは、65歳未満の特別支給の老齢厚生年金です。障害年金については、その調整の記載はありません
- 基本手当は「働く意思と能力がある」ことが前提です。体調が悪くてすぐに働けない場合は、受給期間の延長(最長で離職の翌日から4年)を申請できます。申請の期限はハローワークで確認してください。延長しておけば、体調が戻ってから受け取れます
- 基本手当を受けることが、更新で「働ける」と見られる材料になることはありません。障害年金の審査は診断書と申立書で行われ、基本手当の受給そのものは審査に使われる仕組みではありません
転所の順番 — B型へ・別のA型へ・障害者雇用へ
→ 横にスクロールできます
| 行き先 | 手続き | 年金 |
|---|---|---|
| 別のA型 | 受給者証はそのまま使えることが多い。事業所探しは市区町村・相談支援事業所・WAM NET | 変わらない |
| B型 | 受給者証の支給決定の変更(市区町村) | 変わらない。工賃は所得制限の線から遠い |
| 障害者雇用 | ハローワークの障害者窓口。就労移行支援を挟む道もある | 変わらない。更新で援助の中身が見られる |
| いったん休む | 受給者証の期限内に次を決める | 変わらない。更新が近ければ体調の記録を残す |
令和6年3〜7月の解雇者4,884人(うちA型利用者4,279人)のうち、8月末時点でB型への移行(予定)は2,073人、再就職決定は936人でした。B型に移る人が最も多い。 体調の立て直しを優先する人が多いからで、それは後退ではありません。ガイドラインはB型での就労についても「1級または2級の可能性を検討する」としています。年金の側から見れば、B型もA型も同じ扱いです。→ 抜け出すロードマップ
更新が近い人へ — 閉鎖は「働けなくなった」証拠ではない
閉鎖の直後に更新が来ると、診断書の就労欄が空欄になります。空欄は、「働いていない=悪化」とも「働いていた=改善」とも読めてしまう。どちらにも読まれないように、主治医に渡すメモに次の3つを書きます。
- 閉鎖までにA型で受けていた配慮 — 時間、作業内容、声かけ、休憩。閉鎖で消えたものを、消える前の姿で残す
- 配慮があっても起きていたこと — 欠勤、早退、体調の波。回数で
- 閉鎖後の生活 — 通所がなくなって、起きる時間・食事・外出がどう変わったか
国の再審査の裁決に、こんな例があります。進行性の病気なのに、前回の診断書から全項目「改善」と書かれていた。 審査会がその矛盾を指摘し、減額処分は取り消されました。前回の診断書の控えがあれば、並べて見比べてください。閉鎖という出来事の前後で、実態がどう動いたかを本人がいちばん知っています。→ 更新の仕組みと備え
もし更新で下がっても、受け取った分を返すことはありません。納得できなければ、決定を知った日の翌日から3か月以内に審査請求ができます。
お金の線 — 閉鎖後に変わるもの
- 健康保険: A型で社会保険に入っていた人は、離職で国民健康保険か、家族の扶養(年収180万円未満。障害年金も収入に数える)に移ります
- 国民年金: 障害基礎年金1級・2級の人は法定免除の対象です。厚生年金を抜けた月から。手続きは市区町村の窓口
- 20歳前傷病の所得制限: 前年所得で10月分から翌年9月分が決まるので、閉鎖した年の年金には影響しません。翌年の所得が下がれば、翌々年の10月分から反映されます
- 生活保護: 収入が途絶えた場合は福祉事務所へ。障害年金は収入として認定されますが、障害基礎年金1・2級の等級は障害者加算の判定に使われます
- 未払いの賃金: 賃金の未払いは労働基準監督署に相談できます。年金とは別の窓口です
同じ道を歩いた人が、つまずいたところ
- 閉鎖のショックで、離職票をもらわないまま事業所と連絡がつかなくなった。 最初の7日で離職票。出てこなければハローワークへ。
- 「すぐ働けない」と思って、基本手当の手続きをしなかった。 受給期間の延長(最長4年)を申請しておけば、体調が戻ってから受け取れる。
- 更新の診断書の就労欄が空欄のまま出た。 閉鎖までに受けていた配慮を、消える前の姿で主治医に渡す。
- 次を急いで、別のA型に3週間で移って、また崩れた。 B型に移る人がいちばん多い。休む選択も、受給者証の期限内なら手続き上は問題ない。
よくある質問
Q. 閉鎖で年金事務所に何か届け出ますか。
A. 就労の変化についての届出はありません。住所や振込口座が変わる場合だけ届け出ます。
Q. 基本手当を受けると、更新で「働ける」と見られますか。
A. 基本手当は雇用保険の制度で、障害年金の審査は診断書と申立書で行われます。基本手当の受給そのものが審査に使われる仕組みではありません。ただし診断書に「就労可能」とだけ書かれると読み違えが起きるので、上のメモを主治医に渡します。
Q. 未払いの賃金があります。
A. 労働基準監督署に相談できます。年金とは別の窓口です。
Q. 閉鎖の直後に更新の用紙が届きました。延ばせますか。
A. 提出期限は誕生月の末日で、原則として延びません。ただ、提出が遅れても、提出して障害の状態が確認されれば支払いは再開されます。用紙が届いたら、まず診断書を書いてもらう受診の予定を取ってください。
Q. 次のA型が見つかるまで、受給者証はどうなりますか。
A. 受給者証には有効期限があります。期限内に次を決めるか、市区町村で支給決定の変更(B型など)をします。期限が近いなら、事業所探しより先に市区町村へ。
次の一歩
- 次の働き方を決める → 抜け出すロードマップ/ B型・A型作業所と障害年金
- 更新が1年以内 → 更新の仕組みと備え
- 止まってしまった → 支給停止からの復活
- 事業所を探す(外部) → WAM NET 障害福祉サービス事業所情報(独立行政法人福祉医療機構)/ ハローワーク 障害者の方への支援
出典
- 厚生労働省 社会保障審議会障害者部会(第143回)資料3(令和6年11月14日)/(第147回)参考資料9(令和7年6月26日)
- ハローワーク「基本手当の所定給付日数」/ 厚生労働省「雇用保険業務取扱要領」(就職困難者の範囲・受給期間の延長)
- 日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金と雇用保険の失業給付の調整」
- 日本年金機構「障害年金業務統計(令和6年度決定分)」再認定304,456件・支給停止1.1%
- 日本年金機構「障害状態確認届(診断書)が届いたとき」「年金の決定に不服があるとき」
- 日本年金機構「従業員が家族を被扶養者にするときの手続き」「国民年金保険料の法定免除制度」
- 日本年金機構「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」
- 厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」平成28年9月
- 社会保険審査会 裁決集(令和6年3月分)
- 確認日: 2026-09-06