リード(直答)
B型に3年通って、支援員から「A型を見に行ってみませんか」と言われた。うれしい。でも、頭の中で計算が始まる。「年金が止まったら、A型の賃金だけで暮らせるのか」。計算が終わらないまま、返事をしないで半年が過ぎた。
この計算には、先に入れておくべき数字があります。年金は、段階を上がった瞬間に止まることはありません。 止まる可能性があるのは更新のときだけで、それも「援助なしに働けている」と読まれたときだけです。令和6年度の更新304,456件のうち、支給停止は1.1%。そして、止まっても状態が悪化すれば「支給停止事由消滅届」で再開を求められ、下がっても受け取った分を返す必要はありません。
段階を1つ上がるごとに何が変わるかを先に知っていれば、踏み出すときの怖さは、数字と手順の話に変わります。このページは、B型 → A型 → 障害者雇用 → 一般就労の順に、各段階で「等級」「所得制限」「保険料・保険」「更新」「戻る道」がどうなるかを並べたものです。
そして最初に言っておきます。上に行くことだけが正解ではありません。 戻る道も含めて書いています。年金の制度は「上がれ」とも「上がるな」とも言っていません。
全体図 — 段階と、年金に起きること
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| 段階 | 収入の形 | 年金 | 更新で見られること | 戻る道 |
|---|---|---|---|---|
| 0. 受給のみ | なし | 続く | 日常生活の7項目 | — |
| 1. B型 | 工賃(平均 月24,141円) | 続く | 通所の実態と援助 | — |
| 2. A型 | 賃金(平均 月91,451円)。条件で厚生年金・雇用保険 | 続く | 援助の中身 | B型へ(受給者証の手続き) |
| 3. 障害者雇用 | 給与。多くは厚生年金・雇用保険 | 続く(3級相当と見られる場合がある) | 配慮と、配慮があっても起きること | A型・B型へ、または失業給付 |
| 4. 一般就労 | 給与 | 続くが、援助なしと見られれば等級が下がる・止まることがある | 援助と同程度の支援があるか | 障害者雇用へ。止まったら支給停止事由消滅届 |
「続く」の根拠は、ガイドラインが就労系障害福祉サービスと障害者雇用について「1級または2級の可能性を検討する」としていることです。「止まることがある」は、更新で障害の状態が軽くなったと判断された場合の話で、働いたこと自体が理由ではありません。
段階1→2: B型からA型へ
変わるのは、雇用契約ができることです。最低賃金が適用され、週の労働時間などの条件を満たせば厚生年金・健康保険・雇用保険に入ります。
- 年金: 変わりません。厚生年金に入ると将来の老齢厚生年金が増えます
- 20歳前傷病の所得制限: A型の平均賃金(年約110万円)は線(3,761,000円)の3分の1以下
- 更新: 「A型で働いている」と書かれるだけでは足りません。受けている配慮と、配慮があっても起きていることを、主治医に渡すメモに入れます
- 戻る道: 体調が崩れたらB型へ戻れます。受給者証の変更は市区町村の窓口。年金の手続きは要りません
段階2→3: A型から障害者雇用へ
変わるのは、事業所が「福祉サービス」から「企業」になることです。支援員はいなくなり、配慮は会社との合意で決まります。
- 年金: 続きます。障害厚生年金の人は、更新で3級と判断される場合があります。3級は障害厚生年金だけの等級で、障害基礎年金には3級がありません。初診日に国民年金だった人は、2級に該当しなければ支給停止になります。ここが、基礎か厚生かで差が出るところです
- 保険: 厚生年金・健康保険・雇用保険に入るのが普通です。雇用保険に入ると、離職したときに基本手当の対象になります。障害者手帳を持つ人は就職困難者として、所定給付日数が長くなります(被保険者期間1年以上で、45歳未満は300日、45歳以上65歳未満は360日)
- 更新: いちばん差が出る段階です。会社の配慮(短時間・業務の限定・通院配慮・在宅)を「配慮の棚卸しリスト」にして、主治医と共有します。会社にはナチュラルサポート(同僚の声かけなど、制度でない支え)もあります。制度でないものは、本人が書かない限りどこにも残りません。→ 障害者雇用と障害年金
- 戻る道: 離職 → 基本手当 → A型・B型に戻る、という順路があります。年金は離職で増えも減りもしません
段階3→4: 障害者雇用から一般就労へ
変わるのは、配慮が「制度」ではなく「個人の交渉」になることです。ガイドラインは、障害者雇用制度を利用しない就労でも「同程度の援助を受けて就労している場合は、2級の可能性を検討する」としています。裏返すと、援助が無いと見られれば、等級は下がり得ます。
- 年金: 更新で「援助なしに働けている」と判断されれば、等級が下がる、または支給停止になることがあります。これは働いたことの罰ではなく、障害の状態が軽くなったという判断です
- 止まった後: 状態が悪化したら「支給停止事由消滅届」に診断書を添えて、再開を求められます。1年待つ必要も、回数の制限もありません。→ 支給停止からの復活
- 65歳の壁: 3級にも該当しない状態が3年続き、かつ65歳に達すると受給権が失われ、以後は戻せません(障害基礎年金・障害厚生年金とも)。一般就労に進む人ほど、この線は知っておく必要があります
- 所得制限(20歳前傷病): 給与収入がおおむね520万円を超えるあたりから2分の1停止の線に近づきます。線は前年所得で、対象は10月分から翌年9月分です
逆方向: 上がった後に戻るとき
- 一般就労 → 障害者雇用 → A型 → B型のどこへ戻っても、年金の手続きは要りません(受給者証の手続きは市区町村)
- 年金が止まっていた人は、状態の悪化を診断書で示して支給停止事由消滅届を出します
- 年金が続いていた人は、次の更新で実態を書けば足ります
- 額改定請求(等級を上げる請求)は、原則として前回の決定から1年経ってから。1年を待たずに請求できる「明らかに増進した場合」の一覧に、精神の障害は入っていません。精神の場合は、悪化の実態が次の診断書に載るよう記録を続けながら、時期が来たら請求します。→ 額改定請求
戻ることは後退ではありません。令和6年度にA型事業所の閉鎖などで離職した利用者7,292人のうち、いちばん多い進路はB型など(3,834人)でした。体調の立て直しを優先する人が、それだけいます。
段階を上がる前に、決めておく3つ
- 次の更新はいつか — 年金証書の「次回診断書提出年月」を見ます。上がるなら、更新の直後がいちばん時間があります。更新の直前に環境を変えると、診断書に「変化の途中」しか載りません
- 止まっても何か月暮らせるか — 更新の結果が出るまで、年金は原則そのまま支払われます。止まった場合の家計を、給与とあわせて先に計算しておきます。額は家計ごとに違うので、ここでは決めません
- 記録を続けるか — 段階を上がると、診察が短くなり、記録が減ります。「配慮があっても起きていること」は、記録しないと診断書に残りません。1日1〜2行で足ります
同じ状況の人が、どうなったか — 公開裁決から
- 就労支援の短時間作業も続かなかった(うつ病・厚生年金)。家族の援助を要する日常生活と、就労支援での短時間作業すら続かなかった経過を総合して、3級とした処分が取り消され、2級と判断されました。
- 配慮を受けつつ管理職で週4日(非定型うつ病・厚生年金)。職場の配慮はあったが、一般雇用で管理職として週4日勤務し、日常生活能力も比較的保たれていた。3級にも該当しないという判断が維持されました。
- 復職して働いた期間も、治ってはいなかった(反復性うつ病性障害・厚生年金)。復職して就労した期間にも症状と治療が続いていたとして、「治癒した」とは認められませんでした。争点は初診日でしたが、「働けた期間=良くなった期間」とは限らないことを、審査会が書面で認めた例です。
結論を分けたのは「働いていたか」ではなく、援助の中身と生活の実態が書面にあったかでした。→ 実例と数字
同じ道を歩いた人が、つまずいたところ
- 更新の2か月前に一般就労へ移った。 診断書には「就労開始直後」の姿しか載らず、配慮も、それでも起きていることも書けなかった。上がるなら更新の直後に。
- 障害者雇用に移って、診察の間隔が3か月に伸びた。 主治医が知る情報が減り、診断書の就労欄が「就労中」だけになった。診察が減るほど、渡すメモが要る。
- A型で厚生年金に入ることを「年金が減る」と思って断った。 障害年金は減らず、老齢厚生年金が増えるだけ。
- 止まってから、支給停止事由消滅届を知らずに1年待った。 待つ必要はない。悪化を示す診断書があれば、いつでも出せる。
よくある質問
Q. 上に行くと、必ず年金は下がりますか。
A. 必ずではありません。ガイドラインは障害者雇用でも1級または2級の可能性を検討するとしています。下がるのは、援助なしに働けていると判断されたときです。
Q. 一般就労に踏み切って、失敗したら戻れますか。
A. 働き方は戻れます。年金は、続いていればそのまま、止まっていれば支給停止事由消滅届で再開を求められます。ただし、65歳の壁(3級にも該当しない状態が3年続き65歳に達すると失権)だけは戻せません。
Q. 働くと更新の周期が短くなりますか。
A. 周期は障害の状態に応じて決まります。働いていることだけで短くなるという規定はありません。
Q. 更新で下がったら、それまでの年金を返すのですか。
A. 返しません。変わるのはその後の支払い分です(不正があった場合は別)。
Q. 上がらないという選択は、だめですか。
A. だめではありません。上がるかどうかは本人が決めることで、年金の制度は「上がれ」とも「上がるな」とも言っていません。このページは、上がるときに何が起きるかを示すためのものです。
次の一歩
- いまの段階の詳細 → 働くと年金はどうなるか/ B型・A型作業所と障害年金
- 更新の準備 → 更新の仕組みと備え
- 止まってしまった → 支給停止からの復活
- 「働いたら負け」と感じているなら → よくある誤解: 働いたら負け
出典
- 厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」平成28年9月
- 日本年金機構「障害年金業務統計(令和6年度決定分)」再認定304,456件・支給停止1.1%
- 厚生労働省「令和6年度工賃(賃金)の実績について」
- 厚生労働省 社会保障審議会障害者部会(第147回)参考資料9(令和7年6月26日)
- 日本年金機構「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」
- 日本年金機構「障害状態確認届(診断書)が届いたとき」「障害の程度が変わったとき」「支給停止事由消滅届(様式第207号)」「障害年金の額改定請求のご案内」
- e-Gov法令検索「国民年金法」第35条・「厚生年金保険法」第53条(失権)
- ハローワーク「基本手当の所定給付日数」/ 厚生労働省「雇用保険業務取扱要領」(就職困難者の範囲)
- 社会保険審査会 裁決集(平成28・29年分、平成30・令和元年分、令和2・3年分)
- 確認日: 2026-09-06