リード(直答)
作業所の見学に行った帰り道、「通い始めたら、年金が減るんじゃないか」と思って足が止まった人。障害者雇用の内定が出たのに、「働いたら次の更新で切られる」と聞いて、返事を先延ばしにしている人。受給が始まってから、いちばん多い相談がこれです。
先に答えを言います。働いても、障害年金は原則そのまま続きます。 年金が動く場面は3つしかありません。①更新のとき、診断書から「援助なしに働けている」と読まれたとき。②初診日が20歳前にある人で、前年の所得が決められた線を超えたとき。③厚生年金に入って、将来の老齢厚生年金が増えるとき。③は減る話ではなく、増える話です。働き方が変わるたびに年金事務所へ届け出る決まりもありません。
数字でも確かめておきます。令和6年度に更新(再認定)を受けた304,456件のうち、支給停止は1.1%。就労の有無で統計は取られていませんが、「働いたら止まる」が本当なら、この数字にはなりません。精神の障害に係る等級判定ガイドラインは、はっきり書いています。「労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えない」。
このページは、B型作業所・A型作業所・障害者雇用・一般就労の4つを横に並べて、「等級」「所得制限」「保険料」「更新」の4点で何が起きるかを1枚にしたものです。読み終わる頃には、怖さが数字と手順に変わっているはずです。
まず、働き方が4つある
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| 働き方 | 雇用契約 | 平均の月収(令和6年度) | 厚生年金 | ガイドラインでの見られ方 |
|---|---|---|---|---|
| 就労継続支援B型 | なし(工賃) | 24,141円 | 入らない | 1級または2級の可能性を検討 |
| 就労継続支援A型 | あり(賃金) | 91,451円 | 週の労働時間などの条件で加入 | 1級または2級の可能性を検討 |
| 障害者雇用(企業) | あり | 事業所ごと | 条件で加入 | 1級または2級の可能性を検討 |
| 一般就労(手帳を出さない場合を含む) | あり | 事業所ごと | 条件で加入 | 同程度の援助があれば2級の可能性を検討 |
B型とA型の月収は厚生労働省「令和6年度工賃(賃金)の実績」。前年度はB型22,649円、A型86,752円で、どちらも上がっています。障害者雇用と一般就労は統計の取り方が違うので、ここには載せません。
この表でいちばん大事なのは右端の列です。4つのうち3つは、ガイドラインが「1級または2級の可能性を検討する」と名指ししている働き方です。働き方の名前だけで等級が下がることは、制度の側にはありません。
見られること①: 等級 — 「働いているか」ではなく「どう働いているか」
精神の障害に係る等級判定ガイドライン(平成28年)は、就労について次のように書いています。
就労系障害福祉サービス(就労継続支援A型、就労継続支援B型)及び障害者雇用制度による就労については、1級または2級の可能性を検討する。就労移行支援についても同様とする。
障害者雇用制度を利用しない一般企業や自営・家業等で就労している場合でも、就労系障害福祉サービスや障害者雇用制度における支援と同程度の援助を受けて就労している場合は、2級の可能性を検討する。
援助や配慮が常態化した環境下では安定した就労ができている場合でも、その援助や配慮がない場合に予想される状態を考慮する。
3つ目が、受給後の人にとって核心です。「守られているから働けている」人は、守りがなかったらどうなるか、で判断される。 そのためには、守りの中身が診断書と申立書に書かれていなければなりません。書かれていなければ、審査はそれを考慮できない。
つまり、更新の診断書に必要なのは3点セットです。
- どんな配慮を受けているか — 短時間、単純作業、声かけ、休憩の追加、在宅、業務の限定
- 配慮があっても起きていること — 欠勤、早退、ミス、対人で崩れる、体調の波
- 仕事の外の生活 — 帰宅後に横になるだけ、家事は家族がしている、休日は外に出られない
1だけを書くと、「守られていれば働ける人」に読まれます。2と3が並んで、はじめて実態になります。書き方の型は → 働きながら申請する・受け取る、障害者雇用と障害年金。
主治医に渡すメモの型(1年分をA4一枚に)
診察の数分では、この3点は伝わりません。更新の診断書を頼む前に、次の型で1枚にまとめて渡します。
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| 欄 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 働き方 | 場所・週何日・1日何時間 | B型に週3日、1日3時間 |
| 受けている配慮 | 具体的に | 作業は封入だけ。支援員が30分ごとに声をかける。午後は休憩室で横になる |
| それでも起きたこと | 回数と中身 | 月に4〜6日休む。途中で帰った日が3回。人が増えた日は手が止まる |
| 仕事の外 | 帰宅後・休日・家事 | 帰ると夕方まで寝る。食事は母が作る。休日は外に出ない |
| 前回の診断書との違い | 良くなった点も、続いている点も | 通所日数は増えた。朝の起床は変わらず母が起こす |
良くなった部分は隠さずに書きます。ガイドラインは総合評価です。良くなった点と続いている困難の両方が載って、はじめて実態に合った判断になります。
見られること②: 所得制限 — 20歳前傷病の人だけ
所得で年金が止まる仕組みがあるのは、初診日が20歳前(厚生年金に入っていない期間)にある障害基礎年金だけです。20歳以降に初診日がある人、厚生年金の加入中に初診日がある人には、本人の所得制限はありません。ここを取り違えて「稼いだら止まる」と信じている人が、とても多い。
20歳前傷病の人の線は、こうです。
- 前年の所得が 3,761,000円 を超えると2分の1停止、4,794,000円 を超えると全額停止(令和8年度。10月分からは 3,858,000円・4,918,000円)
- 扶養親族が1人いるごとに線が38万円上がる(老人控除対象配偶者・老人扶養親族は48万円、19歳未満の特定扶養親族・控除対象扶養親族は63万円)
- 対象は 10月分から翌年9月分まで。前年の所得で、その年の10月からの1年が決まる
- 「所得」は「収入」ではない。給与なら給与所得控除を引いた額で見る
- 判定は本人の所得。親や配偶者の収入は関係ない
線と、働き方の平均を並べます。
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| 働き方 | 年収の目安(平均) | 2分の1停止の線まで |
|---|---|---|
| B型の工賃 | 約29万円 | 線の10分の1以下 |
| A型の賃金 | 約110万円 | 線の3分の1以下 |
| 一般就労 | 給与収入がおおむね520万円を超えるあたり | ここで初めて線に近づく |
つまり、作業所やA型に通っている人で所得制限が現実になる人は、ほとんどいません。線が問題になるのは、一般就労でフルタイムに近い収入になったときです。それも「止まる」ではなく、まず「半分」からです。自分の数字で確かめる機能は準備中です。
なお、20歳前傷病の年金には所得以外の停止事由もあります。労災など他の補償を受けるとき、日本国内に住所がないとき、刑事施設等に入っているときです。保険料を納めずに受けられる仕組みである分、停止事由が多めに設定されています。
見られること③: 保険料 — 厚生年金に入ると、減るのではなく増える
- 障害基礎年金1級・2級を受けている国民年金の第1号被保険者は、保険料が法定免除です。免除の期間は、老齢基礎年金の計算で2分の1として算入されます(平成21年4月以降の期間)。満額に近づけたいなら、10年以内は追納できます。追納しても障害基礎年金は増えません。増えるのは老齢基礎年金です
- A型・障害者雇用・一般就労で条件を満たして厚生年金に入ると、保険料は給与から引かれます。障害年金は止まりません。 将来の老齢厚生年金が増え、65歳からは障害基礎年金と老齢厚生年金をあわせて受ける選択ができます。「もらいながら払うのは二重」ではありません
- 厚生年金に入った月からは法定免除の対象ではなくなります(会社が手続きするので、本人の届出は要りません)
- iDeCoには、法定免除の人も加入できます(iDeCo公式サイト「よくあるご質問」)
見られること④: 更新 — 働き始めた後の最初の更新が正念場
更新(障害状態確認届)の用紙は、誕生月の3か月前の月末に届き、誕生月の末日までに提出します。診断書は提出日前3か月以内の状態を書いたものが必要です。周期は障害の状態に応じて1〜5年で、毎年ではありません。
働き始めた後の更新で起きやすい失敗は1つです。診断書の就労欄に「就労中」とだけ書かれ、配慮も、配慮があっても起きていることも、書かれていない。審査する人は本人に会いません。診断書に無いことは、無かったことになります。
対策も1つです。上の「主治医に渡すメモの型」を、更新の用紙が届く前に作っておく。用紙が届いてから作り始めると、診察の予約が先に埋まります。前回の診断書の控えがあれば、並べて見比べます。前回と今回で項目の評価が大きく動いているのに、実態が動いていないなら、それは診断書の側の問題です。 提出前に主治医に事実関係を確認できます。→ 更新の仕組みと備え
同じ状況の人が、どうなったか — 公開裁決から
国の再審査(社会保険審査会)の裁決には、就労と等級が争われた例が公開されています。すべて原文を確認できます。
- 就労支援の短時間作業も続かなかった(うつ病・厚生年金)。家族の援助を要する日常生活と、就労支援での短時間作業すら続かなかった経過を総合して、3級とした処分が取り消され、2級と判断されました。「働こうとした事実」は不利に働かず、「続かなかった実態」が評価されています。
- 作業所の配慮と家族の常時の援助(自閉症・国民年金・額改定)。2級受給中に1級への額改定を請求した例。日常生活能力の7項目がすべて最も重い判定で、家族の常時の援助や作業所の配慮が必要な状態を1級と認め、処分が取り消されました。作業所に通っていることが、1級を否定する材料にはなっていません。
- 配慮を受けつつ管理職で週4日(非定型うつ病・厚生年金)。職場の配慮はあったものの、一般雇用で管理職として週4日勤務し、日常生活能力も比較的保たれていたとして、3級にも該当しないという判断が維持されました。援助の中身より、生活そのものが保たれていた例です。
結論を分けたのは「働いていたか」ではなく、働き方の中身と生活の実態が、書面でどう見えたかでした。→ 実例と数字
同じ道を歩いた人が、つまずいたところ
- 「働いていることを隠したほうがいい」と思い、診断書の就労欄を空欄にしてもらおうとした。 逆効果です。就労が知られることより、援助の中身が書かれないことのほうが、はるかに不利です。隠さず、中身まで書いてもらう。
- 通所日数が増えたことだけを主治医に報告した。 「良くなった」だけが診断書に載り、続いている困難が消えた。良くなった点と続いている点は、必ず対で伝える。
- 20歳以降の初診なのに、所得制限を恐れて勤務時間を抑え続けた。 所得制限は20歳前傷病だけ。自分の初診日がどちらかを、年金証書で確かめる。
- 厚生年金に入るのを避けて、短時間契約を選び続けた。 障害年金は止まらず、将来の老齢厚生年金が増えるだけ。避ける理由は制度の側にはない。
よくある質問
Q. 働き始めたら、年金事務所に届け出が要りますか。
A. 就労そのものの届出はありません。20歳前傷病の人の所得は、原則として市区町村の所得情報で確認されるので、毎年の届出も多くの場合は不要です(通知が来たらそれに従ってください)。厚生年金に入る手続きは勤め先が行います。
Q. 更新のときに「働いている」と診断書に書かれたら、下がりますか。
A. 「働いている」だけでは下がりません。下がるのは、援助なしに働けていると読まれたときです。配慮の中身と、配慮があっても起きていることが書かれていれば、ガイドラインは1級または2級の可能性を検討するとしています。
Q. B型の工賃が上がると、年金が減りますか。
A. 20歳前傷病でなければ、所得の審査はありません。20歳前傷病でも、B型の工賃(平均で年約29万円)は線から遠く離れています。
Q. 失業給付(基本手当)と障害年金は、同時に受けられますか。
A. 日本年金機構が「同時に受けられない」としているのは、65歳未満の特別支給の老齢厚生年金です。障害年金にその調整の記載はありません。障害者手帳を持つ人はハローワークで就職困難者として扱われ、所定給付日数が長くなります(被保険者期間1年以上で、45歳未満は300日、45歳以上65歳未満は360日)。
Q. 働くと更新の周期が短くなりますか。
A. 周期は障害の状態に応じて決まります。働いていることだけで短くなるという規定はありません。
Q. 更新で下がったら、それまでの年金を返すのですか。
A. 返しません。変わるのはその後の支払い分です(虚偽の申告など不正の場合は別)。
Q. 更新で下がった結果に納得できません。
A. 新規の不支給と同じように、決定を知った日の翌日から3か月以内に審査請求ができます。実態が変わっていないのに下がったなら、直近の診断書に普段の状態が載っていたかを、まず確かめてください。
Q. 結婚したら、年金は止まりますか。
A. 結婚は停止事由ではありません。変わるのは、配偶者の健康保険の扶養に入る場合に年金も収入として数えられることなど、周辺の話です。
次の一歩
- 作業所を使う・使っている → B型・A型作業所と障害年金
- 次の段階に進みたい → 抜け出すロードマップ
- 更新が1年以内に来る → 更新の仕組みと備え
- 上のメモを毎日1〜2行で続けるなら → 無料iPhoneアプリ
出典
- 厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」平成28年9月(総合評価の際に考慮すべき要素の例・就労状況)
- 日本年金機構「障害年金業務統計(令和6年度決定分)」再認定304,456件・支給停止1.1%
- 厚生労働省「令和6年度工賃(賃金)の実績について」
- 日本年金機構「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」/ 厚生労働省 障発0715第2号・年発0715第1号(令和8年7月15日)
- 日本年金機構「障害状態確認届(診断書)が届いたとき」「障害の程度が変わったとき」「年金の決定に不服があるとき」
- 日本年金機構「国民年金保険料の法定免除制度」「国民年金保険料の追納制度」
- iDeCo公式サイト「よくあるご質問」
- 日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金と雇用保険の失業給付の調整」/ ハローワーク「基本手当の所定給付日数」
- 社会保険審査会 裁決集(平成28・29年分、平成30・令和元年分、令和4・5年分)
- 確認日: 2026-09-06