強迫症と森田療法 — 不安を打ち消さず、不安なまま次の行動へ
この記事の結論
強迫症(強迫性障害)に森田療法を当てると、目標は「確認や手洗いの回数を減らすこと」ではなく、「不安を抱えたまま、生活全体を立て直すこと」になります。回数の制限は結果としてついてきます。
仕組みはこうです。「鍵をかけ忘れたかもしれない」という不安は誰にでもある。それを「完全に打ち消さなければ」と確認を繰り返すほど、不安に注意が向き、不安が強くなる。「本当の納得」はどこにもないので、確認は終わりません。
出口は、不安を打ち消すことをやめ、不安をそのままにして次の行動に移ること。鍵を1回かけて、不安なまま駅へ歩く。不安は残ります。残ったまま、電車に乗る。
森田療法が向いているのは、自分の症状を不合理だと感じていて、治したい気持ちがはっきりしている人です。不合理だと感じにくい場合や、激しい衝動の問題がある場合は、先に医療機関へ。この記事は不安障害の当事者である運営者が一次資料をもとに書いています。医療監修はありません。
鍵をかけたか何度も確認する。手を洗っても洗った気がしない。嫌な考えが頭から離れない。強迫症に森田療法を当てると、答えはこうなります。「不安を打ち消すのをやめて、不安なまま次の行動に移る」。
確認をやめる方法ではありません。確認したい不安を、そのままにする練習です。順に説明します。
強迫症とは、どんな状態か
強迫症は、「強迫観念」と「強迫行為」からできています。東京慈恵会医科大学森田療法センターの説明では、強迫観念は繰り返し浮かぶ持続的な思考・衝動・イメージ、強迫行為は手洗いや確認を繰り返す行動です。これに1日1時間以上を取られ、生活に支障が出ている状態を指します。
同センターは、よくある形を6つ挙げています。
- 不完全恐怖:完璧を求め、不安を打ち消すために何度も確認する
- 縁起恐怖:「悪いことが起きる気がする」と、やり直す
- 加害恐怖:「駅のホームで人を突き飛ばすのでは」という考えが勝手に浮かぶ
- 確認強迫:戸締まり、火の元、個人情報の漏れを繰り返し確認する
- 不潔恐怖:床に落ちたものや公共のトイレを避け、目に見えない菌が怖い
- 洗浄強迫:トイレのあとの長い手洗い、帰宅後の長時間の入浴
生活の発見会の症状セルフチェックは、「その思考や衝動を押さえようと、無視や抑制、別の行為を試す」「その行動で苦痛を和らげたり、恐ろしいことを回避できると考えている」「でも現実的には関連がない、または明らかに過剰だと思う」という項目で構成されています。最後の「自分でも過剰だと思う」が、森田療法に向いているかどうかの大事な分かれ目です。
森田療法は、この症状をどう見るか
森田療法の見立ては、強迫観念の中身(菌、鍵、加害)ではなく、不安との付き合い方に向いています。
慈恵医大森田療法センターは、森田療法が向いている人の特徴として、几帳面・完全主義・負けず嫌いと、内向的・神経質・受け身の両面を持つ「神経質性格」が土台にあること、注意と感覚の悪循環(精神交互作用)と「かくあるべし」の思想の矛盾による「とらわれ」があること、そして症状を不合理だと感じていて治療の意志がはっきりしていること、を挙げています。
場面で見るとこうです。家を出る。鍵をかけた。駅に向かう途中で「本当にかけたか」が浮かぶ。浮かんだ不安を「完全に消したい」と思う。戻って確認する。確認した瞬間は楽になる。でも駅に向かうと、また浮かぶ。「さっきの確認は正しかったか」。確認するほど、不安に注意が向き、不安は強くなる。
公益財団法人メンタルヘルス岡本記念財団の症状別アドバイス集に「本当の納得はどこにあるのか」という項目があります。答えは、どこにもない、です。確実さを求める限り、確認は終わりません。確認が終わらないのは意志が弱いからではなく、「完全な納得」という到達できない場所を目指しているからです。
治療の方向:不安を排除せず、生の欲望を生活に向ける
慈恵医大森田療法センターは、治療目標を「不安を排除しようとせず、不安をそのままにして生の欲望を建設的な行動に生かす」こと、端的に言えば「『あるがまま』で、不安を抱えつつ建設的に行動していくプロセス」だと説明しています。
ここに、認知行動療法との違いがあります。同センターの説明では、認知行動療法が症状の軽減を目標にするのに対し、森田療法は強迫行為の回数制限に限定せず、生活全体を充実させることを重視します。実際の患者の言葉として「森田療法では入浴時間だけでなく生活を大事にする」という表現が紹介されています。
回数を数えて減らす方法ではなく、生活の側を太くしていく方法です。手洗いの時間が減るのは、手洗いと戦った結果ではなく、手洗い以外にやることが増えた結果です。
場面で見る:鍵、手洗い、嫌な考え
鍵。1回かける。「かけたか」が浮かぶ。浮かんだまま、駅へ歩く。不安は消えません。消えないまま、電車に乗る。会社に着く頃には、不安は別のことに押し出されています。もし戻ってしまったら、戻ったことを責めない。「不安なまま歩けた距離」が、前より10メートル伸びていれば十分です。
手洗い。洗う。「まだ汚れている気がする」が浮かぶ。気がしたまま、タオルで拭いて、次のことをする。「気がする」は感情で、「拭いて次へ」は行動です。感情が収まるのを待たない。
嫌な考え。「人を突き飛ばすのでは」が浮かぶ。打ち消そうとしない。「浮かんだな」とだけ認めて、ホームの端から少し離れて立ち、電車を待つ。考えが浮かぶことと、そうすることは別です。打ち消そうとするほど、考えは居座ります。
日記には、「不安があったのに、やった」ことだけを書きます。確認した回数は書きません。回数を数え始めると、それが新しい確認になります。
→ 日記の書き方:出来事・やったこと・気分を分けて書く先に医療機関へ、という場合
慈恵医大森田療法センターは、森田療法が向きにくい場合として、症状の不合理感が乏しく治療の意志が薄い場合と、激しい衝動制御の問題を合併している場合を挙げています。次に当てはまるときは、自分で試す前に医療機関へ相談してください。
- 「自分の確認や手洗いは正しい」と感じていて、やめたい気持ちがはっきりしない
- 衝動を抑えられず、自分や人を傷つけてしまう危険がある
- 強迫のために1日の大半が奪われ、食事や睡眠が取れない
- 死にたい気持ちがある。よりそいホットライン(0120-279-338、24時間)などの相談窓口へ
強迫症の治療では薬が使われることが多く、森田療法は薬と併用するのが普通です。処方されている薬を自己判断でやめないでください。森田療法を行う医療機関は、公益財団法人メンタルヘルス岡本記念財団の医療機関リストと、生活の発見会の協力医リストで探せます。
→ 森田療法はどこで受けられる?今日の小さな実践
今日、確認したくなる場面をひとつ選び、1回だけやって、不安なまま次の行動に移ってください。鍵なら1回かけて歩き出す。戻ってしまっても構いません。帰ったら1行、「不安なまま○○まで歩けた」と書く。回数は書かない。
よくある質問
Q. 森田療法で、確認や手洗いはなくなりますか?
A. 回数を減らすことを直接の目標にしません。不安をそのままにして生活全体を立て直すことを目指し、回数の減少は結果としてついてきます。慈恵医大森田療法センターも、強迫行為の回数制限に限定せず生活全体を充実させることを重視すると説明しています。
Q. 嫌な考えが浮かぶのは、自分が危険な人間だからですか?
A. 違います。加害恐怖のような考えは、慈恵医大森田療法センターが強迫症の典型として挙げている症状で、本人がそれを強く嫌っているからこそ苦しくなります。考えが浮かぶことと、そうすることは別です。
Q. 認知行動療法(曝露反応妨害法)と、どちらがいいですか?
A. 強迫症には認知行動療法の研究の蓄積が多く、医療機関で広く行われています。森田療法は回数制限よりも生活全体の充実を重視する点が特徴で、両者は矛盾せず併用されることもあります。どちらを選ぶかは主治医と相談してください。
Q. 自分が強迫症かどうか、どう判断すればいいですか?
A. 診断は医師が行います。目安として、生活の発見会の症状セルフチェック(強迫症・6項目)があり、該当が多いほど強迫症度は高いと考えられる、と説明されています。あくまで参考です。
Q. 薬を飲みながら森田療法をしてもいいですか?
A. 構いません。森田療法は薬と併用するのが普通です。薬の調整は医師の判断で、自己判断でやめないでください。
まとめ
- 強迫症に森田療法を当てると、目標は「回数を減らす」ではなく「不安を抱えたまま生活全体を立て直す」
- 「本当の納得」はどこにもない。確実さを求める限り確認は終わらない
- 治療の方向は、不安を排除せず、生の欲望を建設的な行動に向けること。回数の減少は結果
- 向いているのは、症状を不合理だと感じ、治したい意志がはっきりしている人。不合理感が乏しい場合や激しい衝動の問題がある場合は先に医療機関へ
- 日記には「不安なまま、やれたこと」だけを書く。回数は書かない
※本記事は一般的な情報と当事者の経験をもとにした情報提供であり、診断・治療に代わるものではありません。症状がつらいときは医療機関へ相談してください。