社交不安症(対人恐怖)と森田療法 — 緊張したまま、人前でやるべきことをやる

公開日: / 最終確認日:

この記事の結論

社交不安症(対人恐怖)に森田療法を当てると、目標は「緊張しなくなること」ではなく、「緊張したまま、人前でやるべきことをやれること」になります。森田療法は創始の当初から、この症状を治療の対象にしてきました。

仕組みはこうです。人前での緊張や赤面は「動かせない事実」。それを「あってはならない」と否定して隠そうとするほど、自分の状態にとらわれて恥ずかしさが募る。この悪循環が症状を固定させます。

出口は、緊張を消す技術ではなく、緊張を認めて「人によく思われたい」という本心に沿って行動すること。会議で声が震えても発言する、赤面したまま会食に行く。行動のあとで、注意が自分から外に移ります。

人前が怖くて引きこもりがちになっている、気分の落ち込みが重い、死にたい気持ちがあるときは、先に医療機関へ。この記事は不安障害の当事者である運営者が一次資料をもとに書いています。医療監修はありません。

人前で緊張する、顔が赤くなる、声が震える、視線が怖い。社交不安症(対人恐怖)に森田療法を当てると、目標が変わります。「緊張しなくなる」ではなく、「緊張したまま、やるべきことをやる」。これが答えです。

緊張を消す方法を探している人には、物足りなく聞こえるかもしれません。でも、緊張を消そうとする努力そのものが症状を育てている、というのが森田療法の見立てです。順に説明します。

社交不安症とは、どんな状態か

社交不安症は、他人の注目を浴びる可能性のある場面に対する強い恐怖や不安です。東京慈恵会医科大学森田療法センターは、具体的な場面として人前での会話、字を書くこと、プレゼンテーション、面談、会食を挙げています。

体には、顔のこわばりや緊張、震え、動悸、発汗、吐き気、赤面が出ます。重くなると、自分の赤面や体臭が相手を不快にさせているという強い不安を持つこともあります。結果として避ける場面が増え、学業や仕事に支障が出て、引きこもりがちになる人もいます。

生活の発見会の症状セルフチェックには、「人前で顔が赤くなるのが怖い」「人前で字を書く時、手が震えないか怖い」「人と一緒にする食事、会食が怖い」「他の人が話をしていると、自分のことを悪く言っているように感じる」など35項目が並びます。読んでいて胸が痛くなる人は、このページの読者です。

森田療法は、この症状をどう見るか

森田療法の見立ては、症状の中身ではなく、症状との付き合い方に向いています。

慈恵医大森田療法センターの説明では、恥ずかしさや緊張は「動かせない事実」です。これを「あってはならない」と否定し、排除しようとするほど、自分の状態にとらわれて羞恥が募る。ここに悪循環があります。

場面で見るとこうです。会議で発言する番が近づく。「震えてはいけない」と思う。思った瞬間、自分の手と声に注意が向く。向いた注意が、震えを強く感じさせる。強く感じるから、さらに「隠さなければ」と思う。発言の内容より、震えを隠すことに全力を使っている。これが「精神交互作用」と「思想の矛盾」が同時に起きている状態です。

森田療法では、この人を「弱い人」とは見ません。生活の発見会の説明にあるように、不安の裏には「生の欲望」がある。人前で緊張するのは、人によく思われたい、ちゃんとやりたいという欲望が強いからです。欲望が強い人ほど、不安も強い。だから治療は、欲望を弱めるのではなく、欲望の側を行動に向けることになります。

治療の方向:対抗しない、認める、本心に沿って動く

慈恵医大森田療法センターは、治療の目標を「恥ずかしさへの対抗ではなく、その感情を認め、自分自身の本心になりきり、それを自覚することで、症状へのとらわれの悪循環から抜け出す」ことだと説明しています。

言い換えると、3つの段階があります。生活の発見会はこれを「悪循環を認識する」「行動と感情を分離する」「生の欲望を強化する」の3ステップとして示しています。

  1. 悪循環を知る。「隠そうとするほど強くなる」仕組みを知るだけで、震えが出たときに「ああ、これが悪循環だ」と一歩引いて見られるようになります。
  2. 感情と行動を切り離す。緊張は感情で、発言は行動です。緊張があっても発言はできる。「緊張が収まってから」ではなく、「緊張したまま」やる。これが「あるがまま」で、気分本位から目的本位への転換です。
  3. 本心を行動に。「人によく思われたい」が本心なら、やるべきことは震えを隠すことではなく、伝えたいことを伝えること。本心に沿って動いたとき、注意は自分の手から相手の顔へ移ります。

場面で見る:会議、会食、電話

会議。発言の番が来る。声が震える。震えたまま、用意した一文を最後まで言う。震えを謝らない。言い終えたら、次の人の話を聞く。評価は「震えなかったか」ではなく「言いたいことを言えたか」。

会食。顔が赤くなる。赤いまま席に着き、料理の話をする。赤面を隠すために下を向かない。隠そうとした瞬間に、注意が顔に戻ります。

電話。かける前に、相手の反応を想像して固まる。想像は感情です。受話器を取るのは行動です。固まったまま、番号を押す。つながってから困ればいい。

どれも「うまくやる」ことは求めていません。「不安があったのに、やった」が成果です。日記にはその事実だけを書きます。

→ 日記の書き方:出来事・やったこと・気分を分けて書く

先に医療機関へ、という場合

次の場合は、森田療法を自分で試す前に、医療機関に相談してください。

  • 人前が怖くて外出や通学・出勤ができず、引きこもりの期間が長くなっている
  • 気分の落ち込みが重く、食事や睡眠が取れない
  • 死にたい気持ちがある。よりそいホットライン(0120-279-338、24時間)などの相談窓口へ

森田療法は薬と併用するのが普通です。処方されている薬を自己判断でやめないでください。森田療法を行う医療機関は、公益財団法人メンタルヘルス岡本記念財団の医療機関リストと、生活の発見会の協力医リストで探せます。

→ 森田療法はどこで受けられる?

今日の小さな実践

今日、人がいる場面をひとつ選び、「緊張したまま」そこに居てください。コンビニのレジで店員の目を見て「お願いします」と言う。それで十分です。帰ったら1行、「緊張したけど、言えた」と書く。緊張が消えたかどうかは書かなくて構いません。

よくある質問

Q. 森田療法で、緊張や赤面はなくなりますか?

A. なくすことを目標にしません。緊張や赤面は「動かせない事実」として認め、緊張したまま人前でやるべきことができる状態を目指します。結果として緊張が軽くなる人もいますが、それは目標ではなく副産物です。

Q. 人前を避けていれば楽なのに、なぜ出ていく必要があるのですか?

A. 避けると、その場では楽になりますが、避けた場面が増えて生活が狭まります。慈恵医大森田療法センターも、避ける場面が増えて学業や社会生活に支障が出ることを症状の特徴として挙げています。森田療法は「恐怖から逃げずに体験する」ことを治療の中心に置きます。

Q. 認知行動療法との違いは何ですか?

A. 認知行動療法は「人にどう思われているか」という考えの中身を検討し、修正していきます。森田療法は考えの中身には深入りせず、緊張を認めたまま行動することに重点を置きます。両者は矛盾せず、併用されることもあります。

Q. 自分が社交不安症かどうか、どう判断すればいいですか?

A. 診断は医師が行います。目安として、生活の発見会の症状セルフチェック(社交不安症・35項目)があり、該当が21項目以上だとかなり高い対人恐怖の症状があると考えられる、と説明されています。あくまで参考です。

Q. 薬を飲みながら森田療法をしてもいいですか?

A. 構いません。外来の森田療法は薬と併用するのが普通です。薬の調整は医師の判断で、自己判断でやめないでください。

まとめ

  • 社交不安症に森田療法を当てると、目標は「緊張しなくなる」ではなく「緊張したまま、やるべきことをやる」
  • 緊張や赤面は動かせない事実。否定して隠そうとするほど、自分の状態にとらわれて症状が固定する
  • 不安の裏には「人によく思われたい」という生の欲望がある。欲望の側を行動に向けるのが治療の方向
  • 進め方は、悪循環を知る → 感情と行動を切り離す → 本心に沿って動く、の3段階
  • 引きこもりが長い、落ち込みが重い、死にたい気持ちがあるときは先に医療機関へ。薬は自己判断でやめない

※本記事は一般的な情報と当事者の経験をもとにした情報提供であり、診断・治療に代わるものではありません。症状がつらいときは医療機関へ相談してください。