パニック症・広場恐怖と森田療法 — 発作を止めようとせず、不安を持ったままその場に居る
この記事の結論
パニック症・広場恐怖に森田療法を当てると、治療の焦点は「発作を止めること」ではなく、「発作への恐怖から逃げずに体験し、どう受け止めて付き合うか」に置かれます。森田正馬はこの症状を「発作性神経症」と呼び、当初から対象にしていました。
仕組みはこうです。動悸に注意が向くと、動悸は強く感じられる。「また起きたらどうしよう」という予期不安が、電車や人混みを避けさせる。避けるほど、怖さは確かなものになります。
出口は、身体の病気ではないと確かめたうえで、不安を持ったまま乗る・行く・居ること。発作は感情の波で、必ず山を越えます。越えるまで、その場に居る。
発作の背景に身体の病気がないかは、先に医師に確かめてください。この記事は不安障害の当事者である運営者が一次資料をもとに書いています。医療監修はありません。
突然の動悸と息苦しさ、「このまま死ぬのでは」という恐怖。そして「また起きたら」という不安で、電車や人混みを避けるようになる。パニック症・広場恐怖に森田療法を当てると、答えはこうなります。「発作を止めようとせず、不安を持ったまま、その場に居る」。
発作をなくす方法ではありません。発作への恐怖と付き合う練習です。順に説明します。
パニック症・広場恐怖とは、どんな状態か
東京慈恵会医科大学森田療法センターの説明では、パニック症は予期しないパニック発作を繰り返すもので、発作は突然の激しい恐怖や不快感が数分以内にピークに達し、動悸、発汗、震え、息切れ、窒息感、胸痛、吐き気、めまい、寒気や熱感、感覚の異常、現実感の消失、死ぬことへの恐怖、といった症状のうち4つ以上が現れます。さらに「次の発作が起きるのでは」という懸念が1か月以上続くのが特徴です。
広場恐怖は、発作が起きたときに逃げられない状況や恥をかきそうな状況にいることへの恐怖です。続くと、公共交通機関や人前への外出を避けるようになり、生活に支障が出ます。
生活の発見会の症状セルフチェックも同じ13の症状を並べ、該当が4つ以上ある場合にパニック症の症状があると考えられる、と説明しています。
森田療法は、この症状をどう見るか
森田正馬は、今のパニック症を「発作性神経症」と呼んでいました。慈恵医大森田療法センターによると、森田療法の特徴は、パニック発作そのものに治療の焦点を置かないことです。代わりに、症状が身体の病気によるものでないことを保証し、精神交互作用などで症状の仕組みを説明し、恐怖や不安から逃げずに体験することを通して、どう受け止めてどう付き合うかに焦点を合わせます。
場面で見るとこうです。電車に乗る。少し動悸がする。「来るかも」と思う。思った瞬間、心臓に注意が向く。向いた注意が、動悸を強く感じさせる。強く感じるから「降りなければ」と思う。次の駅で降りる。降りた瞬間は楽になる。でもこの経験が、「電車は危ない」「降りれば助かる」を確かなものにします。次はもう一駅手前で降り、やがて乗らなくなる。
発作は、注意と感覚の悪循環(精神交互作用)の典型です。そして避けることが、恐怖を育てます。
治療の方向:逃げずに体験し、波を越える
森田療法の進め方は、3つの段階で説明できます。
- 身体の病気ではないと確かめる。これは医師の仕事です。心臓や呼吸の病気がないことを確かめてから、森田療法は始まります。
- 仕組みを知る。動悸に注意を向けるほど強く感じる、避けるほど怖くなる。この仕組みを知るだけで、発作の最中に「これは悪循環だ」と一歩引いて見られるようになります。
- 逃げずに体験する。不安を持ったまま乗る、行く、居る。発作は感情の波で、放っておけば必ず山を越えます。越えるまでその場に居ることで、「降りなくても収まる」という事実が、「降りれば助かる」を上書きしていきます。
森田療法では、不安の裏にある「生の欲望」も見ます。発作が怖いのは、死にたくない、ちゃんと生きたいという欲望が強いからです。その欲望を、避ける方向ではなく、行きたい場所に行く方向に向けます。
場面で見る:電車、人混み、ひとりの夜
電車。動悸が来る。来たまま、次の駅で降りない。つり革を握り、窓の外を見る。波が来て、波が引く。目的の駅で降りる。評価は「発作が出なかったか」ではなく「降りずに着けたか」。
人混み。「逃げられない」と感じる。感じたまま、買うものを買う。レジに並ぶ。出口の場所を確認するのは構いません。確認したうえで、並び続ける。
ひとりの夜。「このまま死ぬのでは」が浮かぶ。浮かんだまま、布団の中で手足の重さを感じる。救急車を呼ぶかどうか迷うなら、呼んでいい。身体の病気でないと確かめることは、治療の一部です。
日記には「不安があったのに、乗れた・行けた・居られた」ことだけを書きます。発作の回数や強さは書きません。
→ 日記の書き方:出来事・やったこと・気分を分けて書く先に医療機関へ、という場合
- 発作が初めて、または最近強くなった。心臓や呼吸の病気がないか、先に医師に確かめる
- 外出がほとんどできず、生活が回らなくなっている
- 気分の落ち込みが重い、死にたい気持ちがある。よりそいホットライン(0120-279-338、24時間)などの相談窓口へ
パニック症の治療では薬が使われることが多く、森田療法は薬と併用するのが普通です。処方されている薬を自己判断でやめないでください。森田療法を行う医療機関は、公益財団法人メンタルヘルス岡本記念財団の医療機関リストと、生活の発見会の協力医リストで探せます。
→ 森田療法はどこで受けられる?今日の小さな実践
避けている場所をひとつ選び、「一駅だけ」「入口まで」のように小さくして、不安を持ったまま行ってください。波が来たら、引くまでその場に居る。帰ったら1行、「不安なまま○○まで行けた」と書く。発作の有無は書かない。
よくある質問
Q. 森田療法で、発作はなくなりますか?
A. 発作を止めることを直接の目標にしません。慈恵医大森田療法センターの説明では、森田療法は発作そのものに焦点を置かず、恐怖から逃げずに体験してどう付き合うかに焦点を合わせます。付き合い方が変わると、結果として発作が減る人もいます。
Q. 発作の最中、どうすればいいですか?
A. 発作は感情の波で、数分以内にピークに達し、放っておけば山を越えます。逃げずにその場に居て、波が引くのを待つことが森田療法の基本です。ただし、身体の病気の可能性があるときは医療機関へ。
Q. 広場恐怖で外出できません。どこから始めればいいですか?
A. 「一駅だけ」「店の入口まで」のように、不安を持ったまま行ける小さな単位から始めます。避けることが恐怖を育てるので、小さくても「行った」事実を積み重ねます。
Q. 自分がパニック症かどうか、どう判断すればいいですか?
A. 診断は医師が行います。目安として、生活の発見会の症状セルフチェック(パニック症・13項目)があり、該当が4つ以上ある場合にパニック症の症状があると考えられる、と説明されています。あくまで参考です。
Q. 薬を飲みながら森田療法をしてもいいですか?
A. 構いません。森田療法は薬と併用するのが普通です。薬の調整は医師の判断で、自己判断でやめないでください。
まとめ
- パニック症・広場恐怖に森田療法を当てると、焦点は「発作を止める」ではなく「恐怖から逃げずに体験し、付き合い方を変える」
- 動悸に注意を向けるほど強く感じ、避けるほど怖くなる。避けることが恐怖を育てる
- 進め方は、身体の病気でないと確かめる → 仕組みを知る → 不安を持ったまま乗る・行く・居る
- 発作は感情の波で、必ず山を越える。越えるまでその場に居ることで「降りなくても収まる」が上書きしていく
- 初めての発作や最近強くなった発作は、先に医師へ。薬は自己判断でやめない
※本記事は一般的な情報と当事者の経験をもとにした情報提供であり、診断・治療に代わるものではありません。症状がつらいときは医療機関へ相談してください。