社労士に頼んでも変わらないこと、頼むと変わること — 障害年金の審査は、誰が何を決めているか
この記事の結論
障害年金の等級を決める書類は、医師が書く診断書です。社労士は診察室にいません。だから、頼んでも診断書の中身は変わりません。
精神の障害で不支給になった人の75.3%は、診断書の内容が国の目安表で下のほうにありました。落ちる理由の多くは、書き方のコツではなく、診断書に書かれた実態の重さです。
頼んでも変わらないのは3つ。診断書の中身、診察室で医師に伝わっていること、日々の記録。この3つは、本人にしかできません。
頼むと変わるのは4つ。初診日の証明、書類のつじつまと期限、不支給のあとの不服申立て、本人の体力。どれかに当てはまるなら、頼む価値は大きいです。
「社労士に頼まないと、通らないのですか」。障害年金の話で、いちばん多い質問です。
答えは、どちらでもありません。頼んでも落ちる人はいます。頼まなくても通る人はいます。なぜかというと、障害年金の審査は「誰が何を決めるか」が分かれているからです。この分かれ方を知ると、頼むかどうかを、不安ではなく材料で決められます。
この記事は、社会保険労務士ではない立場で書いています。頼むことを勧めても、止めても、こちらの収入は変わりません。だから、頼んでも変わらないことと、頼むと変わることを、同じ濃さで書きます。
調子が悪くて長く読めない日は、最後の「どちらでも要る3つ」だけ読んでください。それで足ります。
審査では、誰が何を決めているか
障害年金の審査は、日本年金機構が書類だけで行います。面談はありません。決まることごとに、誰が作るかを並べます。
→ 横にスクロールできます
| 決まること | 誰が作るか | 社労士は? |
|---|---|---|
| 等級(何級か) | 医師が書く診断書 | 診断書は書けない |
| 初診日 | 初診の病院の証明と、本人が集める資料 | 証明の組み立てを設計できる |
| 納付要件 | 年金事務所にある記録 | 確認と、特例の当てはめ |
| 生活の実態の補足 | 本人が書く申立書(代筆もできる) | 書ける。ただし材料は本人の記録 |
| 手続きの形(書類の種類・日付・期限) | 本人か代理人 | 全部できる |
| 不支給のあとの不服申立て | 本人か代理人 | 書ける。ここで差が出る |
いちばん上を見てください。等級を決める診断書は、医師が書きます。社労士は診察室にいません。頼んでも、診断書の中身を変える力は社労士にはありません。この記事で、いちばん大事な一行です。
数字で見る、何が結果を分けているか
| 何の数字か | 数字 |
|---|---|
| 新しく決まった障害年金のうち、精神の障害だった割合 | 70.3% |
| 新しく申請して、不支給になった割合 | 全体 13.0%(精神 12.1%、内部の病気 20.6%) |
| 精神で不支給になった人のうち、診断書が目安表の下のほうにあった割合 | 75.3% |
| 更新(再認定)で、そのまま続いた割合 | 96.7%(止まったのは 1.1%) |
| 年金機構の点検で、不支給から支給に変わった件数 | 14,841件のうち 444件(3.0%) |
| 公開されている裁決91件で、争いになったこと | 障害の重さ 57件 / 初診日 35件 / 診断書のつじつま 15件 / 納付要件 10件 |
75.3%は、こう読みます。精神の障害で落ちた人の4人に3人は、診断書の7項目と「程度」の組み合わせが、国の目安表で3級か対象外の位置にありました。つまり、落ちた理由は書類の不備ではなく、診断書に書かれた姿です。
ここで大事なのは、「診断書に書かれた姿」と「実際の生活」は同じとは限らないことです。実際にそのとおりだった人もいます。でも、実際はもっと大変なのに、それが医師に届いていなくて、軽く書かれた人もいます。どちらにしても、変えられる場所は診察室だけです。社労士は、そこにいません。
いっぽう、裁決で争いになったことを見ると、初診日が35件、診断書のつじつまが15件、納付要件が10件。こちらは証明の組み立てと、書類のつじつまの問題です。ここは、専門家の差が出ます。
→ 数字で見る障害年金頼んでも変わらないこと
1. 診断書の中身
診断書は、医師が診察で分かった事実を書く書類です。
「有利に書いてもらえるように働きかけます」と言う事務所があります。避けてください。第三者が診断書に注文をつけると、医師との信頼関係が壊れます。実態と違う診断書は、あとで矛盾を生みます。
ただし、事実と違う記載を直してもらうことは、本人の正当な行動です。たとえば「一人でできる」と書かれているが、実際は家族の助けで成り立っている。そういう食い違いは、記録を添えて医師に伝えれば、直ることがあります。等級への注文ではなく、事実の訂正です。そして、それができるのは診察を受けている本人です。
→ 診断書の内容が実態と違うとき2. 診察室で、医師に伝わっていること
精神の障害用の診断書には、決まりがあります。医師は「ひとりで暮らすとしたら、できるかどうか」で判断する、と記載要領に書かれています。
家族と暮らしている人が、家族がしてくれていることを「できる」と伝えてしまう。すると、助けがある前提の姿が、ひとりでできる姿として書かれます。
診断書の「程度」が(3)か(4)か。7項目のうち1つが「できる」か「助言があればできる」か。この1点で、目安表の行が変わり、2級と3級が分かれます。この1点を決めているのは、診察の数分間に医師へ届いている情報です。社労士は、その場にいません。
伝えるのは、大げさな症状ではありません。どのくらいの頻度で、どのくらいの期間。誰が、何を、どのくらい助けているか。薬を飲めていないなら、その理由。事実のままで十分です。
→ 主治医に、生活の実態を伝える→ 私は何級くらい?3. 日々の記録
病歴・就労状況等申立書(申立書)は、本人の言葉で書ける唯一の提出書類です。頼めば社労士が書きます。でも、材料は本人の生活しかありません。
申立書を書き始めて、つらかったことを思い出して、書けなくなる。そういう人は多いです。そこで頼むのは、正しい選択です。ただ、頼んでも、時期ごとの経過を本人が思い出して伝える作業は残ります。記録は、どちらの道でも要ります。
日々の短いメモを、時期ごとに整理しておく。それが、頼む場合は社労士に渡す材料になり、自分で書く場合は申立書の下書きになります。
→ 申立書を、自分で書きたい4. 通る確率
「社労士に頼めば、確実に受給できる」。これは誤解です。受給できるかどうかを保証できる人は、制度上いません。「必ず受給できます」「決定率100%」と書く事務所は、それだけで避ける材料になります。
頼むことで上がるのは「通る確率」ではありません。「実態とは別の理由で落とされることを、防げる確率」です。初診日の証明が薄い。診断書の日付がずれている。申立書と診断書が食い違っている。こういう理由で落ちることを防ぐのが、頼むことの効き方です。
診断書に書かれた姿が実際の生活と合っていて、それが目安表の下のほうにあるなら、誰に頼んでも結果は同じです。逆に、実際はもっと大変なのに軽く書かれているなら、直す場所は診察室です。
頼むと変わること
1. 初診日の証明
初診日は、障害年金の入口です。ここが決まらないと、納付要件も障害認定日も決まりません。
初診の病院がもう無い。カルテが保存期限(5年)を過ぎて残っていない。最初の受診は内科で、本人も覚えていない。こういうときに証明を組み立てる作業は、専門家の差がはっきり出ます。
裁決には、こんな例があります。「初診日を確認できない」として却下された請求が、複数の病院の資料を合わせて初診日が認められ、2級に変わった例。健康診断の記録から初診日が認められた例。制度の側にも、証明が取れないときの公式の様式、第三者証明、「この期間のどこかに初診日がある」と認める取り扱いがあります。どれをどう組み合わせるかが、技術です。
自分で進めて、書類の形は整っている。でも、証明の中身が足りない。初診日で落ちる形の多くはこれです。ここは、頼む価値が大きいです。
→ 初診日がわからないとき・カルテがないとき→ 第三者証明の書き方2. 書類のつじつまと、期限
診断書には「いつの状態を書いたか」の日付(現症日)があります。いまの状態で請求するなら、請求日より前3か月以内。障害認定日の状態で請求するなら、認定日から3か月以内。この期限を外すと、診断書は書き直しで、文書料も2回かかります。
申立書と診断書で、病名や経過が食い違っている。これも、審査で不利に読まれます。
裁決には、こんな例があります。認定日から3か月を超えた日付の診断書を「認められない」とした決定が、通院できなかった事情を踏まえて取り消された例。逆に、進行する病気なのに、前回の診断書から全項目「改善」と書かれていた矛盾を、審査会が指摘した例。審査する側は、書類どうしのつじつまを読んでいます。それを出す前に読めるのが、専門家です。
自分で進める場合は、年金事務所の予約相談を使ってください。書類一式を出す前に、点検してもらえます。無料です。
→ 診断書の提出前確認3. 不支給のあとの、不服申立て
不支給の通知が来たら、審査請求ができます。期限は、決定を知った日の翌日から3か月以内。手数料はかかりません。
ここで出す書面は、「なぜ決定が誤りか」を、認定基準と資料に照らして書くものです。自分で書けないわけではありません。ただ、裁決を読むと分かります。覆った事案は、「診断書のどの記載が、基準のどの条件に当たるか」を具体的に示しています。事情の説明や、つらさの訴えでは動きません。ここは、頼むと質が変わります。
→ 不支給と言われたとき→ 審査請求の進め方4. 本人の体力と時間
障害年金を申請するのは、申請が必要なくらい調子が悪い人です。
年金事務所に電話をかける。診察で医師に頼む。書類を書く。コピーを取る。郵送する。この一つひとつに体力が要ります。途中で止まる人がいます。初めて年金事務所に行ってから請求書を出すまでに、半年以上かかる人もいます。
頼むと、この時間と体力が手元に残ります。診察に使える。記録に使える。休むことに使える。頼むのは「自分でできない人」ではなく、「体力の配分を決めた人」です。
頼む相手は、社労士だけではありません。家族、社会福祉協議会、通院先の相談員。書ける部分は自分で書いて、清書と提出だけ手伝ってもらう形もあります。
→ 家族が代わりに手伝うとき→ 無理のない進め方頼む・頼まないの前に、どちらでも要る3つ
- 記録を始める。 日々の短いメモ。頼むなら社労士に渡す材料に、自分で書くなら申立書の下書きになる。
- 初診日の資料を、早く確かめる。 カルテには保存期限があり、時間が経つほど残っていない。お薬手帳、診察券、紹介状、健康診断の記録。申請を決める前でも、確認だけは先に。
- 診断書を受け取ったら、出す前に読む。 空欄、日付、7項目と程度、就労の欄。事実と違う点があれば、出す前に医師へ相談できる。出したあとの差し替えは、保証されない。
この3つは、社労士に頼んでも本人がやることです。逆に言えば、この3つができていれば、自分で進める条件の半分はそろっています。
→ 頼んだほうがいい5つのケース→ 自分で申請するか、頼むか費用の見方
国に払う手数料はありません。かかるのは、診断書と受診状況等証明書の文書料。戸籍や住民票の発行手数料。交通費と郵送費。それに、頼む場合の報酬です。
社労士の報酬に、公的な「相場」はありません。事務所ごとの契約で決まります。着手金があるか。成功報酬は、初回の振込額の何%か、年金額の何か月分か。さかのぼって受け取った分は別か。不支給だったときはいくらか。
契約前に確認するのは、3点だけです。不支給ならいくらか。成功報酬は、何を基準に、いつ払うか。さかのぼり分は別か。口頭ではなく、書面で。
「払えないから頼めない」と決める前に、成功報酬をいつ払うかを聞いてください。受給が決まってから払う契約なら、いま手元にお金は要りません。
→ 費用の内訳と、契約前に確認すること→ 社労士の選び方よくある質問
Q. 社労士に頼むと、診断書が有利になりますか?
A. なりません。診断書は医師が診察の事実を書く書類で、社労士は診察室にいません。事実と違う記載を直してもらうことはできます。ただしそれは等級への注文ではなく、事実の訂正です。記録を添えて、本人が伝えます。「有利に書いてもらえるよう働きかける」と言う事務所は避けてください。
Q. 頼まないと通らない、というのは本当ですか?
A. 本当ではありません。令和6年度に新しく申請した146,225件のうち、約87%は何らかの等級に決まっています。自分で申請した人も、多く含まれます。精神で落ちた人の75.3%は、診断書の記載が目安表の下のほうにあったことが理由で、これは頼んでも変わりません。
Q. 頼む価値がいちばん大きいのは、どんなときですか?
A. 5つです。初診の病院が無い・カルテが無い・初診日の候補が複数ある。一度不支給になった。さかのぼる請求をしたい。書類を書く体力がいまない。複数の障害がある。逆に、初診日がはっきりしている。いまの主治医が経過を知っている。納付要件を満たしている。この3つがそろう人は、自分で進めやすい条件がそろっています。
Q. 自分で始めて、途中から頼めますか?
A. できます。年金事務所の相談と書類集めは自分で進める。初診日の証明だけ相談する。不支給の通知が来てから、審査請求を頼む。こういう形は普通にあります。集めた資料と記録は、そのまま渡せます。
Q. 更新のときも、頼んだほうがいいですか?
A. 更新で出すのは、原則として診断書(障害状態確認届)1枚だけです。申立書はありません。つまり更新は、社労士が書ける書類がほとんど無い審査です。前回の診断書の控えと今回を並べて、実態が変わっていないのに軽くなった項目が無いかを確かめる。これは本人にできます。減額や停止の通知が来たときの審査請求は、頼む価値があります。
Q. 「必ず通る」と言う事務所がありました。
A. 受給できるかどうかを保証できる人はいません。年金機構が特定の事務所を公認することもありません。そう言う事務所は、それだけで避ける材料になります。報酬を受け取って請求の手続きを代理できるのは、社会保険労務士(と弁護士)だけです。資格があるかも確認してください。
まとめ
- 等級を決めるのは診断書で、書くのは医師。社労士は診察室にいない。ここは頼んでも変わらない
- 精神で落ちた人の75.3%は、診断書が目安表の下のほうにあった。落ちる理由の多くは実態の重さで、書き方のコツではない
- 頼んでも変わらない3つ: 診断書の中身、診察室で伝わっていること、日々の記録
- 頼むと変わる4つ: 初診日の証明、書類のつじつまと期限、不服申立ての書面、本人の体力
- どちらの道でも本人がやる3つ: 記録を始める、初診日の資料を早く確かめる、診断書を出す前に読む
- 報酬に相場は無い。不支給ならいくらか、成功報酬は何を基準にいつ払うか、さかのぼり分は別か、を書面で
出典
- 厚生労働省「令和6年度の障害年金の認定状況についての調査」(新規裁定の診断書種類別 精神70.3%、非該当 全体13.0%・精神12.1%・内部20.6%、精神の不支給事案の75.3%が目安表の下位)・確認日 2026-09-07
- 日本年金機構「障害年金業務統計(令和6年度決定分)」(新規裁定146,225件、再認定304,456件・継続96.7%・支給停止1.1%)・確認日 2026-09-07
- 日本年金機構「障害年金の認定状況の点検」(不支給14,841件のうち444件が支給へ)・確認日 2026-09-07
- 日本年金機構 診断書(精神の障害用)様式第120号の4 記載要領(単身で生活するとしたら可能かどうかで判断)・確認日 2026-09-07
- 厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(平成28年9月)・確認日 2026-09-07
- 医師法 第19条第2項(診断書の交付)・医師法 第24条(診療録の保存5年)・社会保険労務士法(請求手続きの代理)・確認日 2026-09-07
- 社会保険審査会 裁決集(当サイト裁決事例集 91件。本文で触れた事案: 令和4・5年分 6-04、令和6年分 7-01、令和7年分 7-02、令和6年分 3-05)・確認日 2026-09-07
※本記事は一般的な情報提供です。社会保険労務士の業務範囲・料金は事務所により異なります。依頼の判断はご自身でご確認のうえ行ってください。本記事は受給を保証するものではありません。
参考リンク
制度の正式な情報・最新の様式は、日本年金機構のホームページおよび 年金事務所でご確認ください。
このテーマの全体像は「障害年金の申請」にまとめています。